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山田 武

偽善者と輸血狩り その04



 どうやら国としては、血の存在を露見させたくは無いらしい。
 広まった情報は、すべて吸血鬼ヴァンパイアの仕業ということで纏められていた。

 実際吸血鬼(半)はその場に居たし、血を奪われたと言っても過言ではない。
 大衆もそんな記事を知って、違和感を覚えることなく信じる者が大半だった。


「というか、こんなにすぐ記事を出せることに驚きを隠せないな……まあ、一部の屋敷だと結構荒れたし、その気になれば知ることもできるってことか」


 抵抗が激しかった場合、屋敷の一部が損壊するぐらいは覚悟してもらっている。
 なお、被害者は血の保有者のみ……それぐらいの配慮はちゃんとしたぞ。

 号外としてバラまかれていた新聞を、特殊な方法で記された紙を見ながら考える。
 活版印刷ではなく、職業スキルで転写した物だ……それでもギリギリだろうに。


「たしか印刷は、聖書とかを広めるのに最適なんだよな。だからこそ、ファンタジー世界だと理由を付けて問題にされている」


 他にも火薬や蒸気機関など、いろいろとやり過ぎると危険なモノが多い。
 誰にとって危険なのか、その技術発展がなぜ問題になるのかは不明だ。


「でも、実際アイリスの国は墜とされているからな……空を飛ぶ技術も、ダメなのかな」


 人が空を飛ぶ、それは地球でも遥か昔は禁忌的な扱いになっている。
 空を目指した人間が、太陽に焼かれて堕とされた……そんな話もあったし。

 ただ、神の御業が届かない地球だと、結局それらは成された。
 空を、海を、大地を我が物として振る舞うのが現在の人間たちだ。


「この世界で同じことをやろうとしても、魔物とか魔法概念に負けそうなんだよな……」


 竜が空を飛び、深海生物たちが海に潜み、強力な魔物たちが大地に住まう。
 世界のどこを探しても、人族の安寧が約束された地など存在しない。

 そして、吸血鬼もまたその一つ。
 魔族の一種であっても、彼らに疎い人族にとって吸血鬼とは血を抜き取る残虐な存在。

 人族にとっては、今回の騒動をやらかしてもおかしくはないと認識されている。
 だからこそ、吸血鬼狩りなんて行いを人族は受け入れているのだ。


「……上手く話が戻った気がする。ともあれ向こうがその気なら、こっちも考えを用意しないといけないな」


 別に皇帝へ真っ向から喧嘩を売っているわけじゃないので、策を講じる必要がある。
 まあ、最終的な血の保管場所として、襲うからこそのリスクマネジメントだけど。


「お待たせ」

「よう、メィ。しっかりと寝れたか?」

「無理。昨日、あれだけ血を見たから」


 ジト―っとこちらを見る目の下には、たしかに隈ができていた。
 半分とはいえ吸血鬼、血に酔ったか……単純に血を嫌っているのか。

 とはいえ、それをやったのは間違いなく俺なので、責任を取る必要がある。
 回復魔法で治すこともできるが……せっかくなので、相応の詫びをしようと思う。

 準備するのは赤色の液体。
 もちろん、メィはそれを見ただけでギョッとしてすぐさま離れる。


「……何をする気?」

「血にもあるだろ、傷を癒すための手段ってのが。それを使おうと思って」

「い、いらな──!」

「遠慮するな──“癒血ブラッドヒール”」


 この魔法は通常の回復魔法と異なり、魔力ではなく血液を消費して行われる。
 もちろん必要最低限の魔力は要るが、一度使えば許容量まで一気に回復可能だ。

 普通に使えば、血を消耗として行う再生のような物。
 だがどこかに新鮮な血液を保存できる手段があるなら、回復魔法より便利になる。


「問題は、自分以外の血を使った時に吸血鬼はその味を全身で浴びるような感覚になることだな……おーい、大丈夫かー?」

「……! ……ッ! ……ッ!!」

「全然大丈夫じゃなさそうだな。なら、今度は──“浄血デピュレーション”」

「ッ! ……メル」


 血を清める魔法だが、今回は浴びた血がこれ以上影響を及ぼさないように使った。
 少々見せられない顔になっていたメィも、どうにか戻ってこれたようだ。

 その後、彼女が俺の胸をポカポカ……というかドカドカ殴るという時間を挟む。
 そこまで痛くはなかったが、完全に俺が悪いのでそれは受け入れた。


「悪かったよ。けどまあ、眠気もスッキリで気力も充分だろう?」

「体は。でも、心が疲れた」

「そっちはモチベーションでなんとか誤魔化してくれ。それとも、ポーションでブーストでもしておくか?」

「い、要らない」


 血を味わうことができる吸血鬼なので、極上の血を取ればだいぶ精神も高揚するはず。
 ……同じく半吸血鬼のフィレルも、同じようにいろんな意味で盛り上がったからな。

 だが、どうやらメィもそれは望んでいないご様子。
 やることさえやってくれればいいし、それができなかったら……飲ませておこうか。


「じゃあ、これからの予定だが。メィ、もしすぐに行くと言って対応できるか?」

「……問題ない。でも、こんな状態」

「警備を配置しているらしいが、それでもまだ穴がある。そして、間違いなくその中には警備が用意された場所があるんだろうな」


 隙があると思わせて、逆に油断したこちらに反撃する。
 まあ、そういうやり方もあるだろう……そうでなくても、注意はしておくべきだ。

 ──そう、注意をしたうえで徹底的に潰せばいいだけのことだ。



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