AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と輸血狩り その02



 赤褐色の──血の色に染まった剣の刃。
 それこそが、真祖の吸血鬼トゥルー・ヴァンパイアであるペフリの血を用いて作られた魔具。

 帝国にとって有益な者たちに、それぞれ与えられた武装。
 そこには能力値の補正も付いているため、純粋に力で敵う者が居なくなった。


「弱いな、貴様。その力を正しく使えないからこそ、このようなことになる」

「ぐはっ!」


 ──まっ、俺には関係ない話なんだが。

 剣を弾くと、隙だらけの体に蹴りを打ち込みたたらを踏ませる。
 だがそれ以上は追いかけず、その行動こそが相手の機嫌を損なう。

 血の量はそこまで多くないが、元の能力値が高すぎるため補正値もそれなり。
 それだけで無双できたのだろう、使用者が堕落するには充分だ。

 力に任せた荒々しい剣技。
 ただ武技の名を告げて放つ技の数々にも、いっさいの工夫など無く純粋な力で勝負しようとしている。

 だが、俺はティル師匠の弟子。
 武技で楽をすることも許されず、ひたすら最低限の能力値で相手の攻撃を無効化する特訓をさせられた男だ。


「この程度……そよ風程度にもならん」

「な、なんだと!?」

「メィ、何かあったか?」

「本当にいいの? 書類を発見、特に怪しいところは……ない?」


 現在、メィには何か有益な情報が無いか調べてもらっている。
 何もしていないと、彼女が単独で動きそうなので指示をしただけだ。

 悪行があるなら、裁けた方がいい。
 自分でやるのが面倒なら、正義感溢れる祈念者に情報をリークするだけで、それなりに働いてくれるだろうし。

 まあ、無くても別に構いはしない。
 辺境伯という首都からやや離れた場所を領地にする彼が、どのような政治形態をとっているかなど知ったことじゃないからな。


「そうか。ならば、そろそろ終わりにしようではないか。この程度、力に溺れた堕落者はすぐに倒せる」

「……まだだ。まだ、私は戦える! 偉大なる皇帝様、私に──力を!!」

「ッ! メル!」

「無駄な足掻きを……と評することも難しいな。的確に、よくもまあ面倒な選択をしてくれたものだ」


 血を注いだ刃を、己の体に差し込む。
 その傷自体は魔法かポーションで、すぐに治すことができる。

 問題はその傷から、刃に籠められていた彼女の血液が体内に取り込まれたこと。
 剣を奪えば解決できたはずが、回収が非常に手間の掛かるものとなってしまった。


「は、はハ、ははハハはッ! なンと──」

「うるさい──“凝血ブラッドクロット”」

「ぐぁああああ!」

「本来であれば、霧化など使えるはずもないが……念のためだ。ついでに、その血も体内に取り込めなくなっただろう。不完全なまま固定され、中途半端な吸血鬼で終われ」


 もともと真祖の吸血鬼には、血を吸った対象を吸血鬼にする能力が備わっている。
 彼女もまた、それが可能なのだが……体内に血を取り込むだけで条件達成のようだ。


「あれは……辺境伯級マーグレイヴ

「ははっ、そりゃあ傑作だ。吸血鬼になっても、貴様の地位は変わらぬというわけか……落ちていない分、マシだとは思うがな」

「な、何をした」

「完全に血を巡らせるのは、こちらとしても厄介だったからな。悪いが止めさせてもらった……もちろん、悪いとはこれっぽっちも考えてはいないが」


 血による吸血鬼化が中途半端な段階で停止したことで、声の方も元に戻ったか。
 体の方がその少量の血に、耐え得るモノにこの短期間でなったわけだな。

 本来は使う必要など無かったのだが、こうなっては仕方がない。
 かつて、彼女から奪い取った呪詛の魔剣を一振り取りだす。


「そのような愚かな選択をした、貴様自身を呪うといい──『絞り出せ』」


 斬った相手、そして担い手から血を絞り出す呪いの剣。
 俺はそれを使い、彼女の血を強引に回収する気でいた。

 なお、俺の方は予め血液が不要な肉体を用意してある。
 こうなることも予測されていたので、念入りな準備をしていたのだ。


「行くぞ、吸血鬼モドキ」

「なっ……ぐぅ──がぁああああ!」

「図星を突かれたからといって、あまりに反応が短絡的だな」


 吸血鬼になっているのは、ステータスを視れば誰でも分かること。
 なまじ辺境伯をやれるぐらいの知能があるからこそ、その程度のことは理解できる。

 故に反論できず、しかし貴族としての意地は残っており……証拠隠滅して無かったことにする、なんて考えに至るのだ。


「まあ、その程度の吸血鬼化であれば、吸い出せば終わるだろう。すぐに戻してやる、だから動くな」

「だ、黙れぇええええええええええ!」

「……メィ、仕事だ」

「うん。~~~~~~♪」


 人魚の血を引き、歌が上手い彼女にはもう一つ頼みごとをしておいた。
 それは歌魔法“鎮魂歌レクイエム”を使い、辺境伯がロクでもないことになることの妨害。

 吸血鬼は死ぬと、厄介なアンデッドになりやすいからな……副作用で死にかねないし、それを阻止してもらっている。


「これで準備はよし──すぐに終わらせるとしよう」

「うがぁああ──」

「なんちゃって武技──『拡張斬ワイドスラッシュ』」


 精気で射程を拡張し、辺境伯を攻撃する。
 吸血鬼化の影響でその肉体が優れたモノだと考えているのか、愚かにもそれを腕で防ごうとした。


「な、なんだ……力が」

「これで終わりだ。メィ、次の場所に行く準備をするぞ」

「了解」

「ま、待て……これは!」


 その気になれば腕ごと斬れたが、そこは威力を調整して傷を付けるだけにする。
 そして、辺境伯は気づく──体から一気に血が奪われていることに。



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