AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と吸血前日 後篇



 今回もまた、帝国でやらかさなければいけないので、吸血鬼狩りのメィルドを呼んだ。
 今は俺の作るブラッドカクテル(血)をちびちび飲んでいるが、絶対に役に立つ。

 そんな彼女には、しっかりとした説明をしなければならない。
 魔道具でギルド内で話していても、俺たち以外に声は届かないからな。


「──【儀血団】。このスキル名に、聞き覚えはあるか?」

「! ……どうしてそれを」

「それがあの真祖の持っているスキルで、弱体化している根本的な原因だ。自分の血を他者に譲渡し、他者の肉体を強化できるという効果だが、それを帝国が利用した」


 ちなみにその血は加工されて、特殊な魔道具として帝国の上層部で回されている。
 驚いた様子からして、やはりそれは彼女も知っていたようだ。


「ちなみにメィの聞いた情報は?」

「……『義結団』。同じ血で結ばれ、強大な力を持つ貴族たち」

「まあ、そんなところだ。実際、ペフリの能力値の九割がたは貴族で分配しているから、並大抵の刺客じゃ勝てないだろう」


 彼女のレベルは250。
 しかし、それは真祖の吸血鬼としてのレベルであり、普人族の低スペックの能力値ではない……それを奪って使っているのだ。

 多くの貴族で分配したとしても、有り余るだけのスペックを発揮できるだろう。
 救いは血がもたらすのが──能力値への補正と夜間の強化、そして再生力程度な点だ。


「それでも、間違いなく強い」

「だろうな。でも、それをやらないとあの母娘も救われないって、俺は勝手に思っているからな。メィ、依頼を受けるかどうかはお前次第だ。手間は掛かるだろうが、まあ一人でもなんとかなるだろうし」

「……その言い方はズルい。私はきっと役に立てる。だから、連れて行って」

「ああ、その言葉が聞きたかった」


 もともと連れていく気だったから、ここまで説明していたということもある。
 彼女の心意気に付け込むのは悪いと思うけれど、これ以外のやり方を知らないからな。


「報酬はとりあえず金、あとはお手製のポーション。さすがに完全な死者蘇生薬は世に出せないから無理だが……まあ、半分でも吸血鬼の血を引くメィなら死にかけても復活できるぐらいは可能だな」

「……完全な蘇生薬、あるの?」


 彼女の目が、少々強く光る。
 何かしらの目的があって吸血鬼狩りをしているのは分かっているので、それに関する理由があるのだろう。


「死亡後ほやほや、魂魄の損傷が一定以下とか条件付きだがな。これは蘇生そのものの条件だから、完全云々は関係ないぞ。その条件さえ満たせていれば、絶対に蘇生できる」

「……そう」

「……。まあ、そうでなくとも現場に必要な要素、それにまだ魂魄が残っているならどうにかなるな。生き返らせたい人に、何を求めているのかを知らないといけないが」

「どういうこと?」


 彼女が生き返らせたい人は──死亡後からある程度経過している、もしくは何らかの手段で魂魄がかなり損傷させられたタイプか。

 ただのポーションを使うだけでは、蘇生することは不可能だろう。
 それは生産神の加護を持つ俺でも、同じこと……ポーションの限界を超えるからな。

 ──だが、俺は偽善者である。


「ただ昔みたいに話したいってだけなら、体と死人を知る手段があればいい。記憶から魂魄をある程度再現すれば、会話に違和感を覚えないように創り上げられる」

「…………」

「メィが何を望むかは知らないが、蘇生はそもそも生死の理に背く行いだ。生前と同一の存在は、魂魄無くして取り戻せない。今回の報酬にはできないくらい、割に合わない」

「……それ、でも」


 彼女に宿る意志は消えない。
 強烈な殺意……ではない、深い悔恨のようなモノを感じた。


「生き返らせたい人は……父と母は、私の目の前で吸血鬼に殺された」

「それが理由か。胸くそ悪いと思うが聞いておくぞ、どうやって殺された?」

「ッ! ……血を、吸われて」

「なら……可能性はあるな。生き物が死んだとき、魂魄の一部が変換されることで経験値リソースとなる。だが吸血鬼の場合、それがダイレクトになる分、変換もされない……つまり、本人の魂魄なままの可能性が高い」


 仮にそうでなくとも、人族が殺した際よりは復元率も高いだろう。
 そういった旨を伝えると、ほんの少しではあるが【希望】を持ってくれた。


「できるの……父も、母も、蘇生するなんてことが?」

「さぁな。状況次第で、付け加えれば本当にメィが望んだ形になるとは限らない。それでもいいなら、報酬ってことでやってみよう」

「……何もできないのはもうこりごり。力を貸してほしい。そのためなら、私はなんだってする」


 何でもするって? とかそういうことを言うような空気でもない。
 彼女は真剣だ、そしてそれに応えるのが偽善者というモノだ。

 それに、そう分が悪いモノでもないと俺は視抜いて・・・・いた。
 あとでアイに相談しておこう……彼女ならば、きっといいアイデアを授けてくれるさ。


「それじゃあ、依頼を受けるってことで。決行は今日の夜、それまでに準備をしてくれ」

「うん、分かった」


 そんなこんなで、元吸血鬼と吸血鬼(半)による血液狩りが決まった。
 すべては無理でも、集められるだけ集めておかないとな。



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