AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と吸血前日 中篇



 ティンスとオブリの二人とは、その後いくつか話をした。
 思い出話をしたかったのもあるが、頼みたいこともあったからな。


「──というわけだ。直接俺のやることに関わることじゃないが、この街で祈念者が暴れないために必要なことでもある。二人とも、やってくれないか?」

「……はぁ。別にいいわよ」
「うん、お兄ちゃんのお願いだもん」

「そっか、ありがとうな。貸し一つってことで付けておいてくれ」


 どういう返し方になるかは分からないが、借りからには礼は尽くすつもりだ。
 彼女たちはアルカのように、無茶なことは要求してこないだろうし。


「……何でもいいのね?」

「ん? まあ、死ねとか魔法の一方的に受け続けろとかそういうことじゃないならな。他の眷属が絡むなら、そっちの了承が無いと受け付けられないけど」

「そっちの心配は要らないわ。ただ少し、私たちにも手伝ってほしいことがあるのよ」

「…………なら、先に頼んでおくか?」


 眷属が調査をすれば、ティンスたちが何を求めているのかすぐに分かる。
 しかし彼女は首を横に振り、俺の提案を否定した。


「そこまでのことじゃないのよ。ただ、メルスと少し冒険ってヤツを体験してみたいだけよ。眷属らしいことの一つとして、主が喜びそうなイベントを提供したいだけ」

「うん、絶対にお兄ちゃんも楽しめるよ!」

「……二人とも。本当、いい眷属を持って俺は嬉しいよ」


 呆れたような表情を浮かべるティンスと、ニッコリと笑顔になったオブリ。
 何かしらの方法報いたいな、そう純粋に思えた俺だった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 白栄街にしか冒険ギルドは存在しない。
 黒没街に在るのは、どこもアウトローな奴らが利用する闇ギルドばかり。

 二人と別れた俺は、そんな白栄街のギルドで歌を聞いていた。
 そう、歌……ある意味吟遊詩人同様、流れの仕事人がギルドで歌っている。


「~~~~~♪」


 外套を被る彼女の姿は、傍から見ても胡散臭いものだろう。
 しかしこの場に居る者たちは、彼女の歌に惚れている……見た目など関係ないのだ。

 しっかりと調教されているようで、誰一人騒いだり暴れたりしない。
 ……居た気もするのだが、高レベルの冒険者に一瞬で潰されていた。

 さすがは人魚の血を引くハーフ。
 俺も声帯を弄れば似たような感じで歌うことはできるが、それでも彼女のように他者を惹きつけることはできないだろうな。


「~~♪ ……ご清聴、ありがとう」

「いいぞー!」「メィさん、もっと歌ってくれよ!」「アンコー……ぐへっ!」「黙ってろ、メィ様はアンコールには応えない!」

「……終わりだから」


 彼女は観衆にそう告げて、大量に捧げられたチップを受け取ってこの場を去る。
 向かうのはギルドの出入り口、そしてその途中には俺が座る席も。


「──また後で」


 小さく聞こえた声に、とりあえず接触はできたと安堵する。
 まあ、気づいてもらえるように、血を巡らせておいて甲斐があったよ。

 しばらくすると、俺の席の向かい側に声を掛けてきた彼女が座る。
 外套に魔力が籠められており、誰も彼女が先ほどまで歌っていた人物だと気づけない。


「久しぶりだな、メィ」

「……どうしたの?」

「ほら、前の依頼の続きだ。二人の近況も話したいからな……ついでに、約束通り何か奢りたい気分だ。ここでいいか?」


 前に帝国で一暴れした際、彼女に協力を要請して……雇った。
 金にプラスして、何かを奢るという約束をしていたのだ。


「まずはドリンク」

「まず、かよ。まあいいや。ならこれだ──俺特製のブラッドカクテル」

「…………いただきます」


 本当に血を混ぜた代物だが、彼女はそれを平然と飲む。
 一口含むと、彼女はその驚きからなのか、紅の瞳を輝かせる。


「ノリで出したが、それでよかったか?」

「…………」

「お代わりが必要なら、用意するが」

「…………お代わり」


 人魚、そして吸血鬼の血を継ぐ彼女は、吸血鬼を狩るハンターを生業としていた。
 まあ、吸血鬼の性質も宿しているので、血に美味を覚えるようで……。


「そういえば、前に渡した血の方はどうなったのかなー?」

「! ……知らない」

「まあ、お代わりは言ってくれれば好きなだけ用意するさ。それをつまみに、ゆっくりと話を聞いてくれ」

「分かった」


 それからしばらく語ったのは、彼女と共に解放した真祖の吸血鬼ペフリと娘のウェナが現在、どんな風に過ごしているのか。


「……拘束具?」

「外すと未だに殺す気満々なんだよ。だから着けたまんま、生活してもらっている。生活自体は問題ないらしい、自他ともに認める仲良し親子なんだとか」

「そう、良かった」

「そうだな。せっかく家族と居られるんだ、ならそっちの方がいいだろうよ」


 決まってはいないが、可能な限りその方が好ましい。
 互いに互いを大切にしているのに、離れているのは辛いだろうからな。


「それで、母親の方が娘以外にはまだ不信状態だ。それをどうにかするためには、やらなきゃいけないことがある」

「……それは?」


 ようやく本題に入れる。
 コップを取りだし、注いだ水を口に含んでから……話す。


「この帝国の上層部が、体に取り込んだ彼女の血。それを全部奪い取る必要がある」


 ──それこそ、吸血鬼のようにな。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品