AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と他世界見学 その04


 大量に魔物を討伐したことで、フィールドに変化が生じる。
 かつてニィナが無双して倒したボス固体である『野生犬ワイルドドッグ』が出てきたのだ。


「メルス君、どうするの?」

「シーもやってみるか? 相手は犬だし、たまには力を使ってみるのも」

「あー、うん。なら、やってみるよ」


 種族は夢魔系のシーではあるが、別に戦えないというわけではない。
 多少後衛向きなステータスでも、使いようによってはボスを倒せるのだ。


「──“幻惑乃霧ファントムフォグ”」


 強力な幻覚を生む霧が、辺りに漂う。
 発生者であるシー、そして彼女が許可を出した俺以外の者たちがそれによって誤った認識を強いられる。

 魔物たちは、ターゲットをシーのみに限定させられ。
 祈念者たちは、魔物たちが近づいていないと誤認させられた。

 高い精神耐性でもあれば話は別だったろうが、ここは初心者たちの集う場所。
 シーが生みだす幻覚は、種族補正もあって誰も抗うことができなかった。


「次は……これかな──“闇檻ダークケージ”」


 闇でできた檻が、近づいてきていた魔物すべてを囲い込む。
 内部は昏い黒で包まれており、五感を狂わされた今の彼らは仲間を認識できない。


「それっ──“遮断強化ペインオフ広範ワイド”」


 シーはそこに、強化魔法を施す。
 神代魔法の一つ広範魔法によって、その対象を増やしたうえで。

 魔物たちは痛みを感じ取れなくなった。
 ただ触覚などはそのままあるので、他の個体とぶつかれば存在に気づく……そして、その爪や牙を振るうことになる。


「えげつないな……」

「そうかな? 効率的だと思うけど……私はあまり戦闘向きな能力じゃないから、こういう工夫でもしないとダメだし」

「それにしては、結構禍々しい武器をお持ちなようで」

「……それ、メルス君が言うのかな?」


 まあ、俺が創った物だしな。
 彼女が現在、その手にしている武器は──巨大な大鎌。

 蟷螂、というか夢魔の一種『雌蟷螂エンプーサ』を模して打ち上げた逸品──『雌蟷螂の大鎌』。
 夢魔関連のスキルに補正が入るうえ、それに準じた鎌関連の補正が入る武器だ。

 もう一つ、腰に提げた細剣もあるがそちらはあまり使われない。
 そちらは前提条件をクリアしたうえで、使うような代物だからな。

 鎌の方も、シーの幻覚が通用しなかった場合にのみ利用される。
 もし、普通に通じた場合は……今のような惨状が、何度も繰り広げられるのだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 仲間同士の殺し合いが続き、最後に残ったのはボスである野生犬のみ。
 さすがはボス──弱肉強食の世界から脱出して、血走った眼を向けていた。


「というか、自力で脱出したのか」

「中で蟲毒みたいに強くなったみたい」

「渇望して、幻覚への耐性でも獲得したのかもな。それでどうする?」

「うーん、なら──“闇槍ダークランス多重マルチプル”」


 お次は闇で構築された槍を生みだす。
 その際、神代魔法である多重魔法を加えることで、一気に大量に用意していた。

 だが、闇属性におそらく野生犬は耐性を得ているはず。
 それを考慮したうえで、シーは次の魔法を発動させる。


「──“属性変換コンバートアトリビュート”」


 俺もよく使う変身魔法の、しっかりと術式が構築されているモノ。
 魔法の影響を受けた槍は、闇属性から異なる属性へ姿を変えていく。

 そんな槍を幾重にも受けると、耐性の無い属性に身を痛めつけられる野生犬。
 中にはほぼすべての魔物の弱点である新聖属性も入っているため、ダメージは絶大だ。

 まあ、究極的に言えばそんな小細工せずとも討伐はできたんだけどな。
 レベル差、そして種族としての闇属性への親和が尋常では無いから。


「お疲れ様、シー。死体は祈念者たちにプレゼントするとして、とりあえず戻ろっか」

「そろそろ交代した方がいいかな?」

「……かもな。俺はシーと居たいけど、それと同じくらい他の武具っ娘とも居たいし」

「すけこましみたいな発言だけど、メルス君だからいいかな。それじゃあ、私は先に戻るからメルス君も次の場所に行ってね」


 そう言って、シーは夢現空間へ帰還する。
 向こうでは現在、次に誰が行くかを決める激しい闘争が繰り広げられて……いないのはたしかだが、誰が来るかは分からない。

 当初はそんな感じだったが、熱くなりすぎる前に止めてくじ引きに変更した。
 戦闘狂の眷属同様、武具っ子たちも本気を出すと周囲への影響が尋常じゃないからな。


「ふぅ……次、か。今のネイロ王国に行くのもアレだし、そうなるとどこにすればいいんだかさっぱりだな」


 終焉の島に飛ばされる前の活動範囲は、主に始まりの街(町)と自分の世界だけだ。
 それ以降、それなりに広い場所を巡ってきたような気もするが、すべてではない。

 地球でも、世界をすべて巡ったという人間は一人としていないだろう。
 秘境だの紛争地だの、足を踏み入れづらい場所がごまんとあるからだ。


「まあ、それに比べれば魔法関連の技術で転移ができるこっちの世界は動きやすいな」


 転移門は登録した場所にしか転移できないが、確実に移動できるわけだし。
 他にもいくつかの手段で、未知の場所へ移動することが可能だ。

 世界は広い、それゆえにまだ知られていないことも多い……誰にも届かない叫びもまたその一つ。

 偽善者として、そういうものも聞き取れるようにしないとならないな……と、わけの分からない思考から至る俺であった。



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