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山田 武

偽善者と他世界見学 その03



 街には表向き、四つのギルドが存在する。
 北には冒険ギルド、東には生産ギルド、南には商人ギルド、西には傭兵ギルド。

 祈念者たちは自分に相応しいギルドを選んで、そこに所属している。
 まあ、別に重複してはいけないという決まりはないので、一部の者はそうしているが。


「ギルドごと、定期的に何かしらの依頼をやらないとランクを下げられたり除籍されるんだけどな。そういうのが面倒ならそもそも所属しなければいいだけだし」

「けど、結構所属しているんだよね?」

「それが祈念者って言う人種だよ。ギルドという単語を耳にすると、自分に有益かどうか判断した時点で所属する。もちろん、不利益に関しては目を逸らして」

「そんな風に理解してたんだ」


 まあ、俺は冒険ギルドで上から二番目までランクを上げているので、その権限を振りかざせば他のギルドでも多少は強気で出れる。

 わざわざ他のギルドに所属せずとも、自分がその分野に干渉できると証明すればいい。
 ……まあその分、冒険ギルドのカードは三枚所持しているけどな。


「他にもあるにはあるんだぞ? 影から世界に害を及ぼす候補者を殺す暗殺ギルド、カジノや娼館の元締めである歓楽ギルド、非合法なことをなんでもやる闇クラン……最後のはクランだが、どのギルドにも非所属だしな」

「公式じゃないんだよね? じゃあ、ギルドカードとかは無いの?」

「公式だぞ。現実の電子カードと同じで、最初に手に入れた場所が違っても、同期させたり更新していると、いつの間にやら別の場所でも使えるようになっているものだ。要するに、だいたいどこでも使える」


 ギルドカード自体は、神代の産物なのですべてを弄るのは難しい。
 だが時代を経て研究が繰り返され、同期といったシステムが使えるようになっていた。

 たとえば歓楽ギルドは、あくまで商人ギルドのカードを基盤として作成される。
 そこに追加でアレやコレを足した結果、完成するのが歓楽ギルドのカードだ。


「シーもどこかに所属してみるか? 実験は成功しているから、別に俺たちの正体がバレるわけじゃない。入ってみたい場所があるなら、行ってみてもいいぞ」

「うーん……私はいいかな? 何かやりたいわけじゃないし、ノルマがあるんだよね? それを満たすのも面倒だし」

「まあ、シーがそう言うならいいけど。冒険ギルドでランクが高いと、多少レアなアイテムや情報を集められるだけだし。他も似たようなものだろう」

「あー、うん。それはそうかもね」


 ちなみにだが、俺と祈念者眷属たちで作ったクランは非合法の闇クランだ。
 公表できないことも多いし、眷属に隠しているメンバーには暗殺者も居るからな。

 理由は単純、ギルドに所属すればそちらもクランとしてのノルマが要求されるから。
 特に『ユニーク』所属である眷属たちに、面倒を掛けないという配慮もある。

 ……もちろん、行動自体は眷属たちの自由で好きな通りにしてもらっている。
 偽善っていうのは、他者に任せるのではなく基本的には自分でやることだからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの草原


 ギルドには寄らず、俺たちは東へ。
 祈念者たちが初めて、魔物との戦闘を経験するフィールドだ。


「ここには基本、動物型ばっかりなんだよ。それで戦闘に慣れてから、奥で人型の魔小鬼デミゴブリンと戦わせようって考えだと思う」

「メルス君はいきなり亜竜だったけどね」

「そうなんだよな。だから感覚が狂った、レベルも上がりまくったしな……精神状態を随時平常にしてもらえなかったら、たぶん俺は耐えられなかっただろうな」


 そりゃあ時間さえ掛ければ、いずれは目の前で殺戮の限りを尽くす祈念者たちのように魔物を討伐することもできただろう。

 だが根は小市民。
 精神だけは殺人鬼ということもないので、血を見ただけで嘔吐感に襲われるだろうし、殺したときの感覚で気持ち悪くなったはず。


「ちょっと、やってみるか。いやまあ、シーに恥ずかしい所は見せたくないから、普通にこの状態だけど」

「私は別に構わないけど……」

「俺がそうはいかないんだよ。男心、女心みたいにあるんじゃないか?」


 そう言って、無詠唱でスキルを発動する。
 縛り中に得た扇誘体質スキルは、魔物を周りから引き寄せることができる……そこに邪縛を加えると、そのヘイト値は固定だ。

 居るのはまだフィールドの入り口辺りなので、動物型の魔物しか出てこない。
 やって来るウサギや犬たちを相手に、俺は手をかざす。


「──“光槍ライトランス”」


 初期の種族は天使だった俺なので、使うのは光魔法。
 他の属性より操作性が悪く、消費魔力量が多いのが難点だが……魔力は充分ある。

 属性の中でも、一、二を争う威力を叩き出せる光魔法が、無詠唱で発動して瞬時に魔物たちに向けて飛んでいく。

 初心者用のフィールドなので、それを防いだり躱せたりする魔物はいない。
 構築していた槍すべてが、魔物へ命中してその命を奪っていった。


「どう、変化はあった?」

「……本当に今さらだけど、もう慣れたな。そりゃそうか、何年ここに居るんだか。もしかして、最初から分かっていたのか?」

「うん、もちろん。メルス君は、みんなのためにいろんなことをしてきたからね」

「……いやまあ、それと倫理観を変えることとは別と思うけどな」


 これに関しては、だいぶ昔に解決したことなんだよな。
 眷属のためならば、そう覚悟して命を奪うことにした……多くの意味を含めて。

 ──俺は眷属に、依存してばっかりなんだよな。



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