AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と自世界見学 その12



 第三世界 ルーン


 学校改革に関しては、これまで通り眷属やお偉いさんたちに任せておく。
 迷宮学校の運営には、いろんな人たちが関わっているからな。


「──まあ、というわけですよ。人助けだろうと偽善だろうと、周りに責任を背負わせると大変ですね」

「一度、反省したのではなかったのか?」

「……それ、俺だけに言えることじゃないですからね。そりゃあ寿命とか無視して、普通に延命しちゃいましたけど」

「覚悟を決め、遺書なども用意しておいたのじゃがな。お陰でそれを見て、悶死するかと思ったわい」


 ルーン国内でも、隠れた名店として有名なレストラン。
 俺と向き合う老人は、この国の先代国王であるジークさんだ。

 ……本来の世界だと邪神教徒に殺されていたし、そうでなくとも寿命で死んでいたであろうところを、俺の【傲慢ワガママ】によってその運命はだいぶ先になった。


「この体がいつまで持つのやら……」

「ふっ、転生させるから問題ないぞ。今ならオプションとして、どういう存在に転生したいのかも聞いておいてやろう」

「……儂らからすれば、意図した転生という概念そのものが異常なんじゃがな」

「過去には実際に、転生をした賢者が居たらしいけどな。どこまで正確に引き継げたかは不明だが、魂魄自体は本人のモノを継承できていたらしいぞ」


 それはかつて、ネロが視た存在。
 そのお陰で再現の魔導でも呼ぶことに成功したが……その魂魄は意図してか失敗か、部分的に欠けていたんだよな。

 まあ、俺の世界で転生をした例はすでに何件か挙げられている。
 忘れたくない、強くそう願った者には前世の記憶が備わっていることも。


「ジークさんはどうする? 記憶は……家族との思い出は」

「すべてを忘れ、無垢となる方がよいんじゃろうな。王家ではない子供が、王家として生きた記憶を持つ……そのような存在が居て、問題が起きない方がおかしいじゃろう」

「前世の家族はそれでも、死んだはずの家族に会えるんだ。罪悪感を覚えるようなことをやっていなければ、素直に喜べるだろうに」

「じゃが、その世での家族は別じゃ。本来、生まれてくる無垢な子ではない。ならば、本物は……そう思うはずじゃ」


 まったく異なる、別の人生を生きてきた記憶を持つ子供。
 果たして親は、それを心から受け入れることができるのだろうか。


「──なんてことがあるから、転生志望の人は個別にしてるんだよな」

「うむ、メルスはいろいろとおかしい。そのようなことが可能なのであれば、神として崇め奉られるのも納得じゃよ」

「単純に、生まれる子供の魂には無垢なモノだけを使えばいいって話だ。無垢な魂魄の複製には成功しているし、その気になれば交換することもできる。自分の子供を素直に喜べない、それの方が問題だろう」

「禁忌に触れようと、か。純粋な善意で無い以上、やはりお主は偽善者じゃな」


 俺にとって、最上級の誉め言葉を出してくるとは……照れるじゃないか。
 あとで料理長に、一つレシピを提供しようじゃないか。


「それで、転生はどうする?」

「最期の見送りは、やはり行ってもらいたいからのう。もしもの可能性が無かったら、そのときを見届けたいのじゃ」

「……そうか」

「うむ。もしその際、思い残すことが無ければ頼もうではないか。未練を果たし、儂が満足するそのときまで」


 記憶の継承とは逆に、激しく拒絶すれば転生は行われない。
 拒絶ではなく成仏、思い残すことが無い場合はすべてを抹消したうえで転生されるな。

 寿命云々で死にかけたとき、ジークさんは足掻くことも無く老いを受け入れていた。
 なので死ねば、間違いなく成仏という形で転生処理がされることになるだろう。


「──まあ、そっちも問題は解決済みなんだけどな。器の用意はされているから、どんな形であれ転生そのものは絶対に成功する」

「……お主は。本当に、お主と言う奴は」

「今じゃ『還魂』ことアイも居るから、正式に認められているしな。ポイントを貯めておけば、お得な転生プランまで提供されるからな。生前の行いが、死後まで反映される……俺の世界は面白いだろう?」

「後腐れの無い、そうした生き方を束縛しそうではあるがな」


 刹那を生きれば当然ポイントは増えず、転生プランの設定が難しくなる。
 なので早死にや、世界や民に害を成すような生き方はオススメできない。

 人ではなく魔物に転生したり、そのまま霊体として生きることを選んだり……転生した者たちもやることはそれぞれだ。


「ジークさんはどうする? ポイントだけで言えば、神童にだってなれるぞ」

「……記憶を引き継ぐのであれば、そのような扱いはされたくないのう」


 テンプレではあるが、お爺ちゃんが褒められてもそこまで嬉しくないだろう。
 やっていることは過去をなぞるだけ、それだけで賞賛されてもな。


「ところでメルスよ、他に何か話すことがあるのではないか?」

「まあ、迷宮学校のこと以外にもいろいろとやるべきことはあるからな。質問、答えてもらってもいいか?」

「気にすることはない。この国を、そして世界をより良くするためじゃ。隠居の身ではあるが、協力させてもらおう」


 実に心強い人だ。
 本当に、【傲慢】であったとしても、生きていてくれてよかった。



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