AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と自世界見学 その10



 第一世界 リーン


 改めて、第一世界に戻ってきた。
 これまでは各世界の概要みたいなモノを確認してきたが、それではこれまでと同じだろう……ということで、たまには別のことを。


「その前に──“因子注入・妖精”」


 訪れた住居へ入る前に、予め自分の種族を変更しておく。
 それは中の人が、全人族をぶっ殺す宣言をしていたから……要らない配慮である。

 体が縮んで年少サイズになったが、魂魄の認識を弄ったので俺だとすぐに分かるはず。
 扉をノックすると、ゆっくりと住人の一人が出てくる。


「あっ、メルスさん。お久しぶりです」

「ああ、ちょっと立ち寄った」

「それは構いませんが……その、なんだか小さいような気が」

「配慮だ、配慮」


 はぁ、と答える彼女はウェナ・ファナス。
 元奴隷にして、ハーフの吸血鬼──そしてヴァナキシュ帝国の皇帝が孕ませた庶子。

 属性マシマシな彼女は、オークション会場から攫われたのちにここに来た。
 普通に解放しても、AFO世界のままじゃいつか狙われそうだしな。

 今は実の母と共に、この世界でゆっくりと過ごしている……と言いたいところだが、一つだけ問題がある。


「お母さん、どうなってる?」

「どうって……変わってませんけど。もしかして、近所からクレームが!?」

「いやいや、そんなに狭量なヤツは住まないから。事前に説明した通り、有事の際には捕縛できるように精鋭が住んでいる。騒音程度なら気にならないだろう」

「……ありがとうございます」


 彼女の母親は吸血鬼、しかも真祖だ。
 それゆえにいろいろと酷い目に遭って……現在、全人族を滅ぼそうとかそういうヤバい思考に至っている。

 とはいえ、彼女もまた被害者。
 危険思想の持ち主だからと言って、はいそうですかと殺すようなことはしない……偽善的には、救うべきだと思うし。

 実際にそれが可能だった戦闘力は、被害を受けた際に九割がた削がれたうえに、残った分も俺によって封印されている。

 なので現状において、思想と少々眼が危ういだけに収まっていた。
 娘であるウェナも、鎮静化に協力してくれているので暴れたりはしない。


「では、どうぞ」

「おじゃまします……あっ、居た」

「もちろん居ますよ。あれからいろいろありましたが、今では仲良し母子なんですから」


 建物に入ると、目的の人物はすぐに見つけることができた。
 前に見た際はボロボロだった灰色の髪も、手入れが行き届いて綺麗に光っている。

 極端に痩せ細っていた体も、ここでの生活が続いたからか肉付きが良くなっていた。
 そして、赤から褐色色に変わった瞳は──相も変わらず、ひどく澱んでいる。

 娘であるウェナよりも、若く見える子供の姿をした吸血鬼。
 彼女こそが真祖、合法ロリのペフリだ。


「──あら? 今、何か物凄い不快な感覚が走ったのだけど?」

「お前がとっても若いって思っただけだよ」

「そう。久しぶりね、メルスさん。アレから一度も顔を出さなかったけど、何かあったのかと心配したわ」

「……よく言うな。足元から影が出かかっているぞ」


 くすりと笑い、影を元に戻す。
 彼女の魔眼は影像眼と呼ばれるもので、条件を満たした存在を影から自在に生みだせるという貴重な代物。

 間違いなく、彼女は俺を殺そうとした。
 しかしそれはできない……現在、彼女は娘であるウェナと繋がっており、彼女を守るためにしか力を振るうことができないのだ。

 とはいえ、出すことぐらいはできる。
 前回戦うことの無かった狼が、ギロリとこちらを睨んできていた。


「──それで、今日は私たちの平穏を遮ってまで何をしに?」

「お、お母さん!」

「いや、正しいから別にいいぞ。そろそろ真面目に探そうと思ってな、そのことを報告しに来た」

「……あら、本当だったのね?」


 彼女が幽閉された理由は、魔眼ではなく彼女の有する固有スキル。
 それは血を媒介として、対象を強化するというシンプルだが強力なモノ。

 血を奪われ、それらを帝国に利用された。
 奪われた血の分だけ、彼女の保有する血液量が減少する……先ほど語った九割とは、奪われた割合を意味する。

 それらすべてを取り戻すまで、彼女は弱体化したままだ。
 真祖は不老の存在、つまり未来永劫血を奪われたままとなってしまう。


「全部は無理だけど、置かれてる分ぐらいは回収するつもりだ。情報は集めてもらっているから、狙ってみる」

「それで、私はメルスさんに何かお礼をしなければならないの?」

「……偽善に礼は要らないんだよ。覚えておけ、そして語り継げ」

「ふふっ、ならそうしましょう」


 軽口を叩いて、会話を続ける。
 俺が妖精な姿をしていることに、まったく何も言わないが……どうでもいいんだろう。

 彼女にとって、人族で無いという一点さえ分かればいいのかもしれない。
 娘のウェナは例外としても、彼女は初期のミシェル並みに、今は不信状態だからな。


「というわけで、俺はもう行く。長居は迷惑みたいだからな」

「そんなことは……」

「いいよいいよ、別に。まあ、次に来たときは何かゆっくりとできる物でも出してくれ」

「わ、分かりました」


 何が出てくるか、それを楽しみにでもしようか……そんなことを思いながら、俺は次の場所へ向かうのだった。



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