AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と自世界見学 その07



 あまり大規模な変革はしていないルーンの街だが、一つだけ該当する物が存在した。
 それは、現在の方のネイロ王国に建てられている施設──劇場である。


「まあ、行き場のない奴隷の就職先にな。もともとネイロ王国は芸術の国、十年分遅れているとはいえ、理解はだいぶ早かった」

「演目はどういう感じ?」

「……大半は奴隷たちの記憶、そして本を頼りにして選んでいる。こっちの世界だと童話の再現も、実際に見てからじゃないと難しいし。あと、普通の劇だと物足りないんだよ、こっちの世界だと」

「魔法もあるし、スキルもある。足りないものと有り余るもののバランスがおかしいみたいだね。それで、大半じゃない演目っていうのは……どういうものなのかな?」


 ニコリと問うクーの表情は、俺があえて言わないでいた部分を追求してきた。
 うん、まあ……当然と言えば当然だ、本質的に優れた洞察眼を求めたのだから。


「俺や眷属の話だな。ただ、眷属の話はあくまでも今の話だけだ。過去に関しては、絶対にやらないように言及してある」

「どうして? 誰も彼もがドラマチックな経験をしている、それは間違いなく大衆を引き付けるだろうに」

「……分かっていて言うなよ。ドラマチックとハッピーエンドは同義じゃない。過去を知られる、過去を思い返せる。そういうことがどういう影響を及ぼすのか、少なくとも俺は調べるつもりなんてない」

「そう、メルスがそういう風に認識しているなら、それでいいと思うよ。いつだって君自身の考えでやることを、クーたちは肯定するからね」


 クーは俺を試している。
 知ったうえで俺に問いかけるのは、解を出すことで認識を深める機会を与えるため。

 すべては俺のことを思って……そこについては、全武具っ娘共通の在り方だ。
 彼女なりに何かを伝えようとしている、あえて言い方を遠回しにしてはいるけど。


「ところで、中には入るの?」

「……いや、今日は止めておこうか」

「今日は……ねぇ」

「…………」


 何やらニヤニヤとしているクーを視界から外し、この場から去る。
 なんでこういう日に限って──すべての演目が俺と眷属の恋愛話なんだよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 特別な場所という物のは、ルーンにおいてあまり存在しない。
 もともとの国の形をあまり崩さないよう、意図して手を加えていないからだ。

 しかし先ほどの劇場と同様、そして劇場と違い元からあった在る物がよりいっそう人気になった……それは『再現』である。


「もともとルーンって名前は、俺が創った巨大な魔法陣から考えたそうだ。ルーン文字自体、この世界にもなぜか存在するからな」

「アイリスちゃんの所に有ったんだよね? 彼女自身は使えなかったのに」

「まあ、本人も自分には才能が無いって嘆いていたっけ? だからこそ燃えて、擬似的なルーンの開発に成功したけどさ」


 ルーンによる魔力干渉自体は、そんな天空国家に関わる遺失技術。
 とはいえ伝説や伝承は語られるので、存在だけはしっかりと残されていた。

 ネイロ王国は芸術の、そして詩人の国。
 故にそういった情報も残されており、さまざまな古の文章を解読したり、再現しようとする者たちが居た。


「生産技術、解読能力、そして魔法やスキルなんかが相まって、やる気になった。俺がスポンサーとして投資しているのも、その一因でもあるけどさ」


 最近は全然使っていなかったが、再現の魔導“再生せし闘争の追憶”にはさまざまなモノが必要となる。

 方法は二つ。
 一つはネロが蒐集した魂魄を、そのまま呼びだして再生するという方法。

 もう一つは大量の情報を基に、本物に極限まで近づけて再生するという方法。
 こちらは疑似魂魄なため、難点はあるのだが……存在しない者でも創れる利点がある。

 その情報を集めるために、件の機関の力を借りていた。
 俺が必要とする英傑の情報も、集めてくれることがあるからな。


「それで、アレがその施設なの?」

「技術の検証をするために、だいぶ厳重にしているからな……物見遊山で行くような場所では無いから行かないぞ。最近は、吸血鬼に関する情報だったかな?」

「他の眷属が行っているから、メルスも把握しているんだ。クーは行ったことが無いし、初見だったけど」



 解析班の眷属がよくここを訪れ、情報を回収している。
 彼女たちも解析や再現に協力しており、それゆえに成功したものも多い。

 クーには情報理解に関するスキルが備わっているが、それは主に駆け引きのため。
 他の情報戦特化の眷属に比べると、やや劣るのだ……代わりに駆け引きは最強だがな。


「吸血鬼と言えば……ああ、そういえばまだ見つかってないんだよな」

「確実に分かっているモノから、回収した方がいいんじゃないのかな?」

「狙われると分かれば、余計に隠すだろうからな。もし使わないで保存している奴が居たら厄介だし、調べてからにしてたんだが……変えた方がいいかもな」


 なんて今後の予定を決めながら、これまでのようにまったりとした時間を過ごす。
 特段揉め事も無く、ちゃんと案内もできていたと思うな。


「……それ、フラグだね」

「……自分で言っていて、そう思った」


 果たしてそれが現実のものとなるのか……少なくとも、今の俺には分からない。
 だけど、それでもなんとなくそうなるんだろうなぁという、感覚だけはあった。



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