AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と飽くなき徒労 その16



 あれから──ゲンブの領域を奪い取ってから数日が経過した。
 元トップを討伐したことで起きた反乱も鎮圧し、引っ越しも済ませてある。

 そもそも初期の街も魔導で創った物。
 事前に必要な荷物は回収させたうえで、再度魔導を使えば配置し直すこともできる。

 狗妖獣クー・シーしか住んでいなかった領域も、今では庇護を求める種族で溢れていた。
 お陰で大胆な領土改造を済ませたりと、実に忙しい時間だったように思える。


「貴様もよくやったよ。ああ、ご苦労様」

「──クソッ、なぜこんな目に……」

「まあ、運が悪かったというだけのこと。生きているだけで、丸儲けではないか?」


 現在、俺が居るのは玉座の上。
 前からずっと止めろと言っているが、変わらず玉座に立ってほしいと言われている……せっかく変わり身も用意したというのに。

 そして、その玉座のひじ掛け部分で悪態を吐くのは、人族語を話すミニサイズの亀。
 ただし、その尻尾は普通の物ではなく──蛇の尻尾をしている。

 俺はたしかに、すべてを喰らった。
 ゲンブという存在すべてを喰らい上げ、胃袋に収めた……そのうえで返却したのだ。

 反芻、とか考えてはいけないからな。
 消化もしていないし……うん、ちょっといろいろと調べただけだ。


「ところでそっちの蛇はどうだ? そろそろ目を覚ましたか?」

「……貴様のせいだぞ。加護を失い、力もこのように剥奪された。そのせいで、力を取り戻すまでずっと眠ったままだ」

「知らん。最悪、ありとあらゆる手段で起こしてやるから安心しろ」

「止めろ! 絶対に……それは、それだけは止めてください」


 ゲンブにとって蛇は、絶対に守り抜きたい存在なんだろう。
 解析の過程である程度事情は把握できているが、結局はコイツら自身の問題だ。


「ならば、貴様がさっさと起こすんだな。俺様も慈善事業で、貴様たちを生かしたわけではない。手足のごとく俺様に仕え、そのすべてを捧げよ」

「……貴様が契約を破らない限り、はな」

「そこまで蛇が大切か。まあ良い、俺は食事は好きだが、貴様らのような関係には興味がない。やることさえやってくれれば、好きなようにヤっていればいい」

「なっ! そ、そのようなこと……!」


 心なしか、尻尾もフリフリと上機嫌に揺れているような気もするが……どちらの意思なのか分からないし、そっとしておこう。

 国の管理は現在、そのすべてをゲンブが執り行っている。
 基本的に国民の構成が避難民なので、あまり強い主張をしないため扱いやすい。

 最初から居た狗妖獣たちも、強気な態度ではなく優しく接しているし。
 ……だが俺が育てたこともあって、外部から来る奴らの迎撃などもこなしている。

 生産職は戦闘に関わる能力値の補正や、スキルの獲得がし難い。
 おまけに狗妖獣という種族そのものが、戦闘への適性を下げてしまっていた。

 ……だが、彼らは頑張ったのだ。
 俺も認めるレベルで足掻きに足掻き、これ以上誰も失わまいと。


「…………若干、食材を得るためという渇望だった気もするがな」

「何か言ったか?」

「いや、何でもない。俺様は少し外へ出る、貴様らは謁見者への対応をしておけ」

「あっ、ちょっと待て! 貴様でなければ、他の奴らから苦情が出るんだぞ!」


 何やら言っていた気もするが、俺は自由でいたいのでさっさと脱走する。
 ゲンブにはこういうときの対応も含めて、役立ってもらいたいのだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺がその足で向かったのは、例の神社が建つ区画。
 なんだか参拝客が増えていたので、姿を隠して奥まで向かった。


「お待ちしておりました、王よ」

「分かっているなら、始めてくれ」

「畏まりました」


 前回同様、祈りを捧げる巫女。
 すると神聖な力を感じるエネルギーが人形に宿るので、魔法で情報交換をしやすくなるように手を加えた。


《まさか、あのような手段で……》

「ずいぶんな挨拶だな。もしかして、俺様の行動が予期できなかったか?」

《……いえ、予期できないことを予期しておりました。神非ざる身にして、神の域に辿り着きしお方。狗妖獣の王よ、私のお告げはお役に立ちましたか?》

「さぁな。ただ一つ言えることは、誰が意図した展開でも無いってことだよ」


 軽口を叩く相手は、ふわふわ漂う球体。
 先ほど降りてきたエネルギーの塊の正体こそ、名も聞いていない神なのだ。


「なあ、名前って……」

《ありませんよ。今はただの、観測者。与えられるような加護はございません》

「別に要らん。ただ、貴様に祈ってきた者たちへの礼は忘れるなよ。コイツらが強くなれば、その分上手い飯が食える」

《分かりました、そういたしましょう》


 すでに俺の下に向かわせることを返礼とか言っていたが、それでは足りないだろう。
 せめて狗妖獣全員、もう少し欲張るなら俺が造る国そのものへ加護が欲しいものだ。


「ならばもうよい、帰れ」

《……よろしいのですか?》

「くどい。貴様に求めるのは、ただ観測者を続けることのみ。別の役割を務めようものなら、神とて喰らってやるぞ」

《では、観測者で在り続けましょう。王の機嫌を損ねたくはありませんので》


 そう言って、神は消え去った。
 ……しばらくは持つだろうが、いずれは露見することになる。

 その前にすべてを片付けるか……あるいは策を講じるか、だな。



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