AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の調査 その13



「二人にはまず、これを受け取ってもらう」

「これは……」
「……『異界学』?」

「この世界は橙色の世界。そして、それ以外の世界が存在する。精霊界、迷宮の小世界とは違う……文字通り、人族が暮らす異なる世界があるんだ」


 教科書のようにして纏めた資料には、半分ほど赤色の世界やまだ見ぬ他の世界に関する情報が記載されている。

 だが、それは完璧な情報ではない。
 森人族エルフにして当代の橙色の『賢者』。
 そんな女性とアンですり合わせを行い、取り繕った限定的な情報だ。


「メルス様……。いったい、どこでこのような情報を?」

「偶然、それを知り得ただけだ。下に行けば結構分かるぞ?」

「大地にですか。真偽は確認できませんが、まずは信じましょう。嘘偽りで用意できるほど、ここに載っている情報は軽くはございませんので」

「姫様が信じられるのであれば……」


 まあ、正直前半はどうでもいい。
 大切なのは後者──理論や理屈を強引に誤魔化してもらった、科学の知識だ。

 橙色の『守護者』の能力は、知識量に応じて強さを変化させる。
 認識できるモノを増やせば増やすほど、繊細な分別を行った層を生成可能。

 だが、その説明をどうすればいいのか……それを解決するための、遠回りな伝達だ。
 教科書を読み込めば、勝手に科学も赤色の世界の情報だと勘違いするだろう。

 厳密には一都市を通じて、実際に広まっているのだが……そこは置いておくとして。
 そうして隠すことで、腹黒かつ頭のいい姫様の思考を別に逸らしているのだ。


「…………」

「姫様、何かございましたか?」

「……。いえ、なんでもございません。それよりもメルス様、このことはお父様にもご報告して宜しいのかしら?」

「ああ、好きにしてくれ。だがまあ、あんまり多くの人には伝えない方がいいと思うぞ」


 各華都の『選ばれし者』。
 まったく違う世界、そして──未知の力。
 それを知ってしまえば、よからぬことを考える者も出るだろうからな。


「心得ています。わたしも……ガグを巻き込もうとは思っていません」

「うんうん、もっとも信じられる言葉が聞けて良かった。それじゃあ、授業を始めるぞ。前半は自分たちで好きに読んでいいから、後半の科学の勉強だ……クエラムもするか?」

「うむ! 予習だけでなく、復習が大切だとメルスは言っていたな。己も、おさらいが必要だと思っていたところだ!」


 少々仲間外れにされてしょんぼりとしていたクエラムを、授業に招いて教科書を渡す。
 眷属はいつでも、夢現空間で学ぶことができたからな……クエラムはもう知っている。

 それでも参加する理由の一つには、彼らを思いやる心があるからだろう。
 二人にだけ教えるより、クエラムにも教える情報の方が確信が持ちやすいだろうし。

 ……まあ、一番の理由が自分も授業を受けたいとか、そういう理由かもしれないが、そういうことは気にしないでおこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 姫様はさっそく情報を伝えたようで、俺は王城に呼びだされた。
 まあ、姫様と少年の要求で、家庭教師ポジには任命してもらっていたんだけどな。

 アイテムを作って、姫様と少年が求める知識を伝える……お給金はがっぽり。
 ギルドからの評価も高く、それなりにいい地位に就けたようだ。

 だが、今回の問いに正しい答えを返さなければ首になるかもな。
 ごくりと唾を嚥下し、獣王の前で跪くポーズを取る。


「前はそんなことしなかっただろうに。それはいいから、早く立って話をするぞ」

「はいよ……しかし、全然人が居ないな」

「あんな話を聞いて、それを周知させる必要はない。いったい、どこでそれを知った?」

「もしかして、そっちも何かしら知っていたのか?」


 まあ、確証とは言えずとも、継承さえしっかりとできていれば可能だからな。
 どうやらそんな予想は当たっていたみたいで、コクリと頷く獣王。


「その通りだ。初代より続く、王家と直属の臣下のみに伝えられる碑文。その内容と類似した情報を、我が娘から耳にしたときは驚いたぞ……どこで知った?」

「企業秘密。だがまあ、知ることのできる場所で読んできたってのが正しいか」

「遺跡か、あるいは──回し者か?」

「さて、どうなんだか」


 特定の華都に多種族はめったにいない。
 だが、いないわけでも無いことを知った今日この頃……過去には繋がっていたこともあるので、おかしいことではない。

 だが、華都ごとに扱いが違っている。
 ある場所では隔離なんて当たり前、最低限の人権はあるようだが、魔花の討伐には率先的に出撃させられていた。

 そんなことをしなくてもいいのは、その種族が多く暮らす華都へ潜り込む間者だけ。
 変に戦闘経験をしていると、逆にバレると警戒してのことだろう。

 もちろん、そっちが目的の奴らはしっかりと鍛えているけど。
 基本的には魔術さえインストールしておけば、この世界の奴らは戦える。


「俺が魔術を全然使わないから、もしかしたらそうなのかもしれないって? 全然違うから気にするな。ただ、俺はすべての華都に協力してほしいだけだ……そのために、まずはここで周りに呼び掛けてほしい」

「……できるのか?」

「姫様が旗頭になって、そういう意識があると思ってもらえれば、周りもそういう反応に興味を持つだろう。そこでアレを出せば、否が応でも返答ぐらいはするさ」


 会話と転移、どちらを先に使うかは分からないけど。
 ……ここのことはクエラムに任せて、少し彼ら自身に委ねてみようか。



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