AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の調査 その01



 橙色の世界 上空


 今回の旅の目的は、まだ見つけていない候補者たちを探し出すという者。
 森人たちの華都で、とりあえずそれっぽい情報は見つけてあった。


「魔人族が『魔王』、獣人族が『守護者』、そして……花人族が『聖女』と『橙王』か」


 存在自体は知っているし、AFO世界にも実際に生きている種族──花人族。
 体のどこかに花の特徴があり、高い木属性への適性を有する森人に似た種族だ。

 この世界において、特に花々の侵食が起きてからは注目されたらしい。
 その結果、彼らは他の種族との接触を断つようになり生存が不確定となった。


「まあ、今は探さないけど。先に場所がはっきりとしている、『守護者』と『魔王』の方から探すことにしよう」

「うむ、了解だ。己も全力で、それらの者たちを探すぞ」

「……まあ、気長に探そうぜ。この世界の場合、だいたい血統で引き継いでくれるから、そこさえ分かればすぐに見つかると思う。矛盾しているけど、のんびりやっててもすぐに辿り着くだろう」

「そういうものなのか? むぅ……しかし、メルスの言うことであれば正しいのだろう。分かった、ゆっくりと探そうではないか」


 忠犬のように俺を肯定してくれるのは、紫紺の瞳をキラキラと輝かせる白髪の女性。
 ただし、背中には悪魔の翼、頭部には動物の耳など多様な種族の特徴を持っているが。


「そうだな、ゆっくり観光だ。大陸の方はまだ行かないし……見つかってはいるけどな。クエラム、待たせちゃってごめん」

「……あれから時間もだいぶ過ぎた。やはり見つかっていたか」

「詳しい調査はまだだし、上陸はできていないらしいがな。あくまでその周辺の大陸で、情報が掴めたってだけだ」


 クエラム、そしてティルが居た大陸に関する情報が手に入っている。
 眷属だが夢現空間に留まらず、世界を渡って調査を行っている英雄たちが知ったのだ。

 彼らが時々届けてくれる情報の中に、今回伝えた情報も存在した。
 獣人と人族が住まう大陸で、かつて帝国がいろいろとやらかした場所があると。

 大陸名も合致したし、間違いなかった。
 問題があるとすれば……帝国が滅び、状況がだいぶ変化していること。


「まっ、その話はまた別の時に。今は遊ぶことに集中してくれ。俺も楽しめるように、エスコートするつもりだからな」

「……そう、だな。過去は戻ってこないし、思いのほか状況は明るいかもしれない。いつまでもくよくよしてはいけない、そういうことなんだろう?」

「俺はそんなに明るい人間か? いやまあ、俺は単純にクエラムと楽しみたくてな……その、デートを」

「! 己としたことが、配慮の足らぬ言い方だったか……これが予行デート、というやつだったのだな!」


 言葉にされると物凄く恥ずかしい。
 しかもクエラムは喜びを体で表現しているので、ケモミミだけでなく尻尾や翼、体の稼働可能な部分がほとんど歓喜していた。

 そこまで目に見えて喜ばれると、受け取れる嬉しさも許容範囲を超えてしまう。
 純粋な目で視られると……ガーに褒められるのと同じくらい、耐えられなくなるのだ。


「……むっ、敵だな」

「まあ、出てくること自体は、どこの空域でも変わらないみたいだ」


 空を飛ぶ花──暫定名称『食人空花』。
 個体ごとに異なる花を咲かせるのだが、共通して人を喰らう性質を持つ。

 この世界の人々は、こいつらが華都に来ないように迎撃を行っている。
 葉っぱを器用に羽のように使い、飛んでくるからな。


「メルス、まずは己にやらせてもらいたい」

「そりゃあいいけど……援護は要るか?」

「とてもありがたいが、今は不要だ。持ち得るすべてで──敵を屠る!」


 クエラムは聖獣であり、人工的に魔獣へ堕とされた個体。
 その際に無数の種族を融合させられ、それらの力も使えるようになった。

 今はネロ同様に因子の切り替えが可能なので、それらを踏まえて戦っている。


「──“部位換装・翼”」


 悪魔の翼が変化する。
 魔法のように一瞬ではなく、内部から変質するように蠢く形で。

 蝙蝠状だったそれは、しばらくすると別のモノへ変化する。
 炎を纏い、それ自体が炎を発する──不死鳥のモノへと。


「──“紅焔閃光プロミネンスレイ”」

『ッ──!!』

「燃えろ──“肉体変質”、“斬爪”」


 背中の翼から炎が収束され、次々と花々を焼き尽くしていった。
 続いて羽の一部が鉤爪のような形となり、羽ばたくたびに『空食人花』を切り裂く。

 クエラムはその多様な性質を使いこなし、それぞれの部位で異なる能力を使える。
 そしてそこに特定の部位を取り付け、本来はありえない場所で能力を行使可能だ。


「“部位換装・尾”──“竜乃息吹ドラゴンブレス”」


 今度は獣の尻尾を竜の口内と同じ物にし、そこから膨大な魔力を吐き出した。
 花々は瞬時に呑み込まれ、消し炭も残さずに消滅していく。

 俺はそれを黙ってみているだけでいい。
 今回の縛り、支援はできるが直接的な行動は難しい……そういう類の内容だった。


「メルス、掃討し終わったぞ!」

「お疲れ様、クエラム。まだ目的地は先だから、軽く温存しておいてくれ」

「うむ、了解した」


 元の状態に自分の体を戻し、クエラムが帰還する。
 魔石もしっかりと回収しているし、俺への配慮は欠かしていないようだ。


「本当は地に足つけて休みたいが……地上ははるか下、おまけに辺りには何もないときたからな。あんまり休めないかもしれないが、ポーションを飲んでおいてくれ」

「案ずるな。メルスと居ることこそが、己にとっての最大級の休養だ!」

「ぐふ……あ、ありがとうな、クエラム」

「うむ!」


 ポーションを飲んだら、すぐに移動を再開することに。
 その間俺は、持ってきてもらった魔石を調べるのだった。



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