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山田 武

偽善者と夢現祭り三日目 その14



「先ほどのように逃げられても困るからね。こちらから、行かせてもらうか!」

『そうは、いかないよ』


 大太刀を振り回し、怪盗に攻撃を行う。
 この武器は刀とは違い、西洋剣のようにその重厚さで叩き潰すイメージだ。

 ぶった切る用途よりも、突き刺したり防御の上から打撃を与えるための武器。
 捕物道具としての使い方は、それらの他にも逃げる馬の脚を潰すためだろう。


「銃と短剣か……トランプは無いのかい?」

『あいにく私は、魔術師では無いからね』

「そうかい。ならば、どこまで耐えられるかに移ろうか!」


 銃で牽制し、短剣で打ち合う。
 武器の強度やリーチの長さという問題は、ファンタジー成分が解決している。

 どちらの武器もとてもレアなアイテムで作られているようで、弾は尽きないし大太刀と正面から斬り合っても砕けていない。

 ちなみに大太刀は神鉄より一段階劣るが、いろんな鉱石を混ぜやすい『芯銅』という鉱石を使って打ち上げてる……いろんな性質がてんこ盛りで、壊れづらくもなっている。

 なので壊せないわけではない。
 銃と短剣の攻撃を盾代わりにして受けているので、いずれは壊れるだろう。


「──“昇竜ノボリリュウ”、“山割ヤマワリ”、“鋼絶ハガネタチ”!」

『──“後退突バックスタブ”、“即応射撃クイックドロウ”』


 俺が刀系武技のコンボを決めると、怪盗は即座に下がって高速の射撃を叩き出す。
 幸い武技はすべてマニュアルなので、最後の隙を狙っても強引に中断して防げる。

 しかしやはり重い攻撃を決めるのは、速度で戦うAGI型の怪盗には向いていない。
 ……盗賊から派生する職業は、大抵が速度AGI手際の良さDEXを上げていくのだ。


『──“窃取シーフ”』

「無駄だ。私のアイテムはすべて、私にしか使えない──“禍通風マガツカゼ”」

『いいや、できるとも──“窃取シーフEX”』

「チッ……」


 職業として持っていたらしい、スキルには存在しない極級の窃盗系能力。
 怪盗の手には、先ほどまで俺が身に着けていた大太刀が握られていた。

 それをスッと[アイテムボックス]へ仕舞い、俺が使えないようにする。
 ……あとで、返してくれるよな?


『武器しか奪えなかったか……どうやら、先ほどの話は半分は本当だったようだな』

「そうともいう。だが、ちょうどいい……そろそろ次の武器を使おうとしていたところだからね──これを、盗めるかな?」

『……それはいったい』

「銘を『盗想源輪[インポッシブル]』という、オークションに出さないでおいたとっておきさ。その効果は……どうやら君には説明しなくてもよさそうだね」


 他者に成長させ、コピーすることを目的として始めた、祈念者用の武具の作製。
 これは水着イベント後、復讐者に渡した魔剣が聖魔剣になった後に創った品だ。

 何が違うかというと、意図的に使用者と同期して進化しやすくしてある。
 寄生などとは違い、誰でも使えるというわけではない。

 だからだろうか、なぜか適性がある者はその存在に気付くのだ。
 武具が引き付けているのか、それとも他にナニカがあるのか……研究したいな。


「ともかく、奪ってみるといい。ただし、先ほどと同じ手段では難しいだろうね」

『“窃取・極”! ……ダメみたいだね』

「使い手をえり好みするみたいでね、私はそれを選ぶための試験官代わりということさ。条件は直接奪うこと……これを受け入れないと、私自身も装備できないほどだよ」


 製作者権限で強引に装備しているだけなので、奪おうと思えばすぐに奪える。
 ただしそれは、指輪が認める形で奪った場合のみ……だからさっきも奪えなかった。

 怪盗もやるべきことを理解しただろう。
 短剣は仕舞って、片手を自由にしている。
 俺も新しく武器を取りだすでもなく、のんびりとストレッチを始めた。


「鬼ごっこだね。制限時間は……そうだね、三分だ。神器を返してくれたら、少しずつ延長していこう」

『言われるまでもなく、すぐに奪わせてもらうよ──“予告状”』

「! ……これはこれは、の有名なハンドレッドより予告状を貰えるとは」


 わざわざこれをするのには、こちらの世界ではちゃんとした理由がある。
 相手に認識できる形で予告状を出しておくと、能力値が強化されるのだ。

 だがまあ、無償の強化ではなくこちらにも条件がきちんとある。
 指定した時間内に盗めないと、しばらく職業能力の性能が落ちてしまう。

 極級職ともなれば、その強化幅もデメリットもだいぶ大きいはずだ。
 それでも使うということは……それだけ指輪を欲しているということになる。


「……製作者冥利に尽きるな」

『何を言っている?』

「いや、何でもないさ。それよりも、早く来たまえ。時間が無くなってしまえば、私は無防備な君から神器を奪い返すためにいろいろとやらなければいけないからね」

『そんな未来はないさ。お宝は、必ず手に入れさせてもらう』


 それを聞いた俺は、後ろを向いてダッシュした。
 怪盗もまた、俺を追いかけるために物凄い勢いで突っ込んでくる。

 まずは小手調べ、体を強化された能力値に馴染ませるために素の動きを調整していく。
 後ろから銃弾を飛ばして足止めしようとしてくる怪盗から、ひたすら逃げ回る。

 これが終わってからが本番だ……さて、すぐに終わらせよう。
 なんだかこの状態だと、立場が逆転したみたいだしな。



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