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山田 武

偽善者と夢現祭り三日目 その10

連続更新です(10/12)
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≪『強欲王の零次元袋』は、契約した者に無尽蔵の収納空間を提供します。そこでは時間が停止しており、意識すれば意図的に時間を進ませることも可能です。あくまでも、生きていないモノに限りますが≫


 生産職からすれば、喉から手が出るほど欲しい神器のはずだ。
 なぜなら、生産工程を省くことができる能力は必ず、そのアイテムの質を落とすから。

 しかし『強欲王の零次元袋』は、そういったこともいっさいない。
 そして、アイテムごとに調整も可能で、何より神器内で複合させることも可能だ。

 ……そういう部分、結構凝りました。
 俺が生産職ということもあり、欲しいなという機能をふんだんに注ぎ込んだのがこの神器である。


≪そして、これが最たる機能。このアイテムに収納したアイテムは、極級職レベルの窃盗能力を用いなければ、判定すらありません。そして、袋そのものは契約によって契約者以外が持つことも不可能となります≫


 スキルの場合、最上位は超級。
 なので神器からアイテムを盗み出すためには──超級職+固有の窃盗スキル、または極級職+超級の窃盗スキルが最低限必要だ。

 固有スキルはある意味、極級よりも優れている場合があるからな。
 それなら超級職でもブーストして、ギリギリ盗めるかもしれない。

 決して絶対に盗まれない、とは言っていないのだが……商人たちは色めき立つ。
 そんな条件を満たせる者など、世界に一人いるかどうかってレベルだしな。

 ちょうどそれを満たしていそうな怪盗が、すでに潜り込んでいることは言っていない。
 どうせ出てくるのは最後なんだし、そのときに連絡すればいいだろう。


≪では、事前にお伝えした通り、1Yから始めさせていただきます。どこまで額を引き上げていくのかを、主催者様共々楽しませていただきましょう≫


 そう言ったアンがカンッと木槌を打つような効果音を鳴らすと、人々が次々と渡されたタブレット型のアイテムに数値を入力する。

 額を口頭で告げるか書けば入力され、こちら側でそれを把握できるシステムだ。
 最高額とその提示者を表す番号のみが表示されるので、自分が載るまで更新していく。


「ははっ、めっちゃ高値だな。怪盗も、自分より高い値がついたとあっちゃ、気にもしたくもなるよな」

《神器を他者に売り渡す、それも複数……メルス様は策士ですね》

「……絶対思ってないだろ。知っているとかじゃなくて分かっているんだから、俺が何も考えてないって」

《過程はどうあれ、結果のみがメルス様の行いを評価します。その内容を知っているのはわたしたちだけ……どうですか、なんだかロマンチックでしょう?》


 ロマンチックと言われても、やっていることがオークションだからな。
 金にはまったく困っていないのだが、時折偽善には多額のあぶく銭を要する。

 俺にできるのは創ること、そして偽善。
 ……後者が世の中に全然求められていないのだから、やることはただひたすら売れる物でも創るしかないのだ。


「この後はどうする予定だ?」

《急にご提案なされたアレを最後に、その前に残った神器を出します。聖具および魔具はその間ですね》

「一気に売るのか。まあ、そこら辺はアンが観客の空気を読んで出してくれればいい。金の方も分かっているんだろう? せいぜい搾り取れるように頑張ってくれ」

《畏まりました》


 本当、金銭感覚が狂うんだよな。
 今度学校にでも行って、お勉強し直した方がいいかもしれない。

 ……まあ、各世界に行って国の予算とかを聞いていたらまた狂いそうだけど。
 別にいいと言っているのだから、気にしなくていいというのに。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 一つ目の神器『強欲王の零次元袋』は、見事自由民の商人が落札した。
 それを知っているのは本人、そして主催者である俺たちだけ。

 だが、俺たちという中には雇ったスタッフたちも含まれている。
 要するに、結構情報は簡単に手に入るわけだ……さて、どうなることやら。

 アンが聖具や魔具をどんどん売って、次々と落札させていく。
 セールストークが上手いので、みんなつい買っちゃうんだよな。


≪では、お次の神器をご紹介しましょう≫


 盛り上がる観客席だが、再びせり上がる舞台に沈黙がすぐ訪れる。
 視覚的に捉えることのできない箱の中を、誰もが透かそうと努力した。

 だが、次元魔法は文字通り次元という高位の概念を操る魔法。
 ただ目を凝らすようでは、超級のスキルがあろうと視ることはできない。


≪さぁ、現れますは大きな水瓶。持ち運びには不便ですが、それでも一つ。皆さまにとって価値のある品であることを証明する御業がございます≫


 現れたのは水瓶。
 この時点で大半の者は興味を失う……が、本当にその価値を理解できる者の中には、怒りを覚える者すらいる。


≪ありとあらゆる水を、この水瓶は再現することができます。最初に一滴増やしたい水を垂らせば、後に注いだ水もまた、同じ性質を有した水へ。さて皆さま、貴方にはその価値がご理解いただけますか?≫


 どんな水でも、まあ一種類に限るという制限はあるがほとんどの者は気にしない。
 ついでに無限に水を湧き出させる機能もあるので、魔力さえあれば水も出せる。

 改めて言うが、本質は最初に用意した水の性質をコピーできることだ。
 たとえばそう……神の奇跡と言って売り捌いてきた霊験あらたかな水でも、な。



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