AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り二日目 その16



 特殊エリア 死閉フィールド


「む? メルスか……どうしたのだ?」

《さっき、俺が殺した奴も死に戻りしたから気になってな。特定してくれないか?》

「それは構わないが……かなり数が多いぞ」

《[ロウシャジャル]が殺しまくっているからな。その分、サンプル以外にも供給源としても使っているんだからいいだろう》


 ここはネロのために用意された、死に戻りした祈念者を一時的に隔離する場所。
 ……自由民はそのまま処置を行い、死んだフィールドの入り口に再配置しているぞ。

 だが、祈念者はこの場所でネロが一時的に預かってとある仕掛けを施す。
 魚を逃がす際、チップを埋め込むのと似たような感じだ。

 そして、さらに問題を起こした奴らに関しては、ネロの実験台になってもらっている。
 先ほどの祈念者や[ロウシャジャル]に敗北した者、その他やらかした奴らだな。


《ちなみに、どんなことをやってる? バレないように制限を設けたけど、その範疇なら何をしてもいいって言っちゃったからな》

「身体的、[ステータス]的に見えてしまうモノは禁止だということだからな。当然、魂魄を加工し、スキルレベルに影響しない範囲で徴収などをしているな」

《何が当然なんだか……まあ、分からないならいいか。他には何かあるか?》

「一部、協力的な者が居たからな。そういった者には人体改造を施し、さらなる力をもたらしてやったわ」


 アウトだ、完全にアウトだった。
 人体を知り尽くしているネロなので、たしかにやろうと思えばできる……のだが、やってしまえばバレるだろうに。


「ふっ、問題ない。協力者と言っても、予め記憶を改ざんしてある。奴ら風に言うのであれば──死ぬことで起きたイベントで、種族変更をした、といった認識だろう」

《……後からクレームとか、入ってきてないよな?》

「問題あるまい。あくまでも、深層意識で力に渇望する者のみを選んだ。念のため、確認もしてある……どんなことになろうと、力のためにすべてを犠牲にするのか? と。あくまで、それに応えた者のみだ」

《すべてを犠牲にって……重いな。自己責任なら、別に構わないけど。だがなぁ、深層心理と現実的な考えは同じじゃないぞ?》


 いくら心のどこかでやりたいことがあっても、それができないと考える倫理感がある。
 人は折り合いをつけながら、そうして世の中を生きている。

 ……こっちの世界に来て、多少ハメや枷が外れる者もいるんだけど。
 力に関する渇望も、そういった倫理観の緩みが生みだしたのだろう。


「メルスは過保護すぎる。奴らは力を求めたのだが。物語の主人公ではない自分が、己の欲を満たすためには何らかの代償が必要だった。諦めず年を経るのではなく、短期で力を得るのであれば……必要な犠牲だろうに」

《ネロは、それでいいと思うのか?》

「思うも何も、吾自身がそういった生き方をしてきたからな。ただの魔骨スケルトンであることを拒み、魂魄の頂を知るために他者を犠牲にしてきた。奴らもまた、己自身を犠牲にした……それだけだろう」

《それは……そうだが》


 俺はそういった人生経験もせず、チート頼りな生き方をしてきた。
 なのでそれを否定することはできない……今の力が無くなれば、そうなっていたから。

 だが、一つだけ疑問が生じる。
 ネロの言動に、違和感を覚えたのだ。


《……一つだけ教えてもらっていいか?》

「考えを改めるか。うむ、吾に答えられることならば何でも訊くがよい」

《祈念者には自身を犠牲とさせた。お前はたしか、他者を犠牲にしたって言ったよな? なら、お前自身が犠牲となって成し得たことはあるのか?》

「…………うむ、そろそろメルスの言っていた祈念者の下に向かうとしよう」


 まあうん、当然の結論だった。
 ネロは魂魄を追い求め、それを知るためには自分が犠牲になるわけにはいかないのだ。

 当然、そうなれば犠牲となるのは自分以外の他者となるわけで……俺とコイツとの出会いも、ある意味犠牲にするために狙われたからだしな。


《……今度、ネロを実験台にしようか》

「なんだと!?」


 ハハッ、体に影響することじゃないさ。
 ちょっとばかり、気絶する可能性があるだけだからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 祈念者の体は、自分で設計したアバターとそれを動かす魂魄に分かれている。
 先ほどまで話していた実験は、あくまで祈念者自身である魂魄を使っていた。

 ……普通逆だとは思うが、ネロが好んで使うのは後者なので仕方がない。


「──これが『グラム』のアバター……らしいぞ。管理はしておらぬが、復讐後に死んだ個体ということで別に分けられていた」

《なら、やった甲斐があったな》


 檻の中に入れられた、先ほどまで敵対していた祈念者の体。
 初めて名前を知ったが……うん、間違いないだろう。


「それで、奴をどうすればよいのだ?」

《私怨にフーラとフーリを巻き込もうとするのは嫌だからな。魂魄はそのまま、肉体の方に細工をしたらどの程度影響を及ぼすか……調べてみたくはないか?》

「すでに体が及ぼす魂魄への影響は試したことがある。しかし、復讐スキルを発現させるほどの憎悪に、細工を入れたならば……面白そうだな。さすがはメルス、他者を甚振る才能があるのではないか?」

《それはない。認めたくはないけど、俺はあくまで人を怒らせやすいだけだよ》


 俺を怒るのはいいが、それに眷属たちを巻き込む可能性は避けておきたい。
 やるべきことはネロに伝えたし、あとで経過を確認すればいいか。



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