AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と夢現祭り二日目 その14
「ふむふむ、結構いいスキルが手に入った。やっぱり僕は、才能があるんだよねぇ」
嬉しいのだが、嬉しくない。
そんな心情は顔に出さないように努めながら、ステータスを調べておく。
加虐や拷問スキルはなんとなく分かっていたが、まさか……悪逆非道なんてスキルまで手に入るとは。
「強者殺スキルは懐かしいよね。悪知恵スキルは、そういうことを考えるときに補正が入るみたいだし……偽善ってある意味悪だくみに入るから、ぜひとも頑張ってほしいよ」
普通に便利なスキルで言えば、機械操作スキルや再現スキルが手に入った。
前者の説明は省くが、後者は真似をした際の成功率に補正が入る。
強者殺スキル、これは相手が格上ならば、すべての行動に補正が入るというもの。
今の俺は雑魚初心者なので、大半の相手にはこれが働く。
……だが、注意すべきは仲間と居る場合、補正が働かないこと。
正確には機能するのだが、俺の眷属は全員が強いので発揮されないのだ。
「考察もできたし、そろそろいいかな……待たせるのもアレだし」
俺は現在、魔術“不可侵ノ密偵”を使って姿を隠している。
フーラとフーリには一時的に、二人でコロシアムに参加してもらっていた。
俯瞰して観察している意識から、連絡が届いたのだ……思いのほか、速く動くと。
「解除っと……『魔放威圧』」
「──がぁあ! クソガキが!」
「……どうして僕の周りって、こんなに切れやすい人が多いんでしょう? 分かりますけどね、弱いから狙いやすいって。けど、こうも行動的な人なんですか」
「うるせぇええ! なんだよ、たかがチビ二人にいい顔をしただけだろ! なんで俺が、あんな目に遭わねぇといけないんだ!」
俺を攻撃しようとしていたのは、先ほど拷問した祈念者。
なぜそうなったのか、理由はもちろん──私怨が新たな私怨を生んだから。
ちなみに、挑発スキルも獲得しているぞ。
しかも異様にレベルが高い……俺の才能がもっとも高いことを証明してしまった。
「だいたい、お前のその気持ち悪い口調も腹が立つ! ガキがませやがって、あの女たちもよくテメェなんかといっしょに居るな!」
「そこはまあ、本性を知ってもなおいっしょに居てくれると約束してくれましたので。知らなくて当然ですので、お気になさらず……そもそも、あなたには関係ないですし」
「もう死ねよ──“雷鳴斬”!」
「嫌です──『傀儡寄生』」
魔力の糸がするすると男の中に侵入し、少しすれば体が動かなくなる。
それは俺が相手を掌握した証拠、なのでそれを利用して[PvP]を実行した。
◆ □ ◆ □ ◆
「──なんだ、さっきのは」
「冷静になりました? 先ほど使ったのは、相手の操縦権を奪う魔術です」
「チッ、金で買いやがったな」
「この世界ではお金持ちですから」
状態のリセット効果が[PvP]にはあるので、男に掛けた『傀儡寄生』が自動解除。
自由になった男は武器を構え、身体強化スキルで体を強化する。
「魔力を視れば分かるみたいだな。さっきみたいな手が通用すると思うな!」
「──『擬短転移』」
逃げる、狙う先は上空。
直線でしか移動できない魔術だが、その方向だけは自在に調整可能だ。
男はすぐに足に力を籠めて、勢いよく跳躍してくる……そっち系のスキルもあるな。
おまけに先ほどまでは無かった、禍々しいエフェクトが剣を覆っている。
「何のスキルですか、それ?」
「復讐スキルだよ! 死に戻りした奴が、激しい憎悪を抱いていると得られるスキル! 噂はあったが……まさか俺が、こんなクソガキのために習得するとは思わなかったよ」
「へぇ……覚えておきます。せっかく得たスキルなんですから、大切にしてくださいね」
「調子に乗るな!」
復讐スキル、その詳細だけは知っていた。
対象は自分にダメージを与えた、もしくは強い怒りを覚えさせた相手だけ……一度発動したら、ソイツ以外の人族に攻撃できない。
だが、その代わりに能力値は二倍、攻撃は貫通するなど効果が異常レベル。
終了した際は死ぬなんてリスクもあるが、祈念者ならば全然気にならない。
「しかも、イベント中ならリスクも気にならない。ふむふむ、参考になります」
「…………っ!」
「知ってますか? これ、敗北した祈念者も復讐スキルを得られますし、やり返しても新しいスキルが手に入るんですよ。結局、あなたは僕に得しか与えてくれません。本当に、感謝しかありませんよ」
「──“轟雷斬”!」
禍々しい雷が迸り、剣を包み込む。
男はその影響を受けて速度を上げ、俺にその刃を振るう。
「──『擬短転移』」
「逃がすか──“瞬間移動”!」
「えっ?」
先ほど同様に、“擬短転移”を使って地上に逃げたはずだった。
しかし男が告げたのは、追撃を可能とする移動手段。
瞬間移動、つまりテレポート。
男は昏い電撃を纏う剣を振るいながら、そのまま俺を追いかけてきた。
「そのまま、死にやがれぇえええ!」
「ギャァアアアアア!」
気を抜いていた俺の体に突き刺さる剣。
視界が激しく明滅し、暗くなろうとする意識が覚醒してはまた消えかける。
男の復讐心が成せる業か、俺はそれでも決して生命力がゼロにはならない。
……そんな時間が、ただ無情にも延々と続いていった。
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