AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り二日目 その07



「──というわけで、少しの間だけ僕独りでやってみようと思うんだ」

「えっ、えぇええええええええええ!?」
「……危ない、止めた方がいい」
「そ、そうです! ノゾム様、私たちが何かダメだったのでしょうか!?」

「そうじゃなくてね。ほら、さっきの戦いを見たからね……僕と同じくらいの人と戦ってみて、どうなるかを試したいんだ」


 二人の『選ばれし者』による衝突は、俺の中に眠る闘争心を目覚めさせた。
 ……とは言っても、さすがに本体が夢想するとかそういう展開は無しだ。

 あくまで低レベル祈念者ノゾム君として、少しだけ常識はずれな力を振るうだけ。
 フーラとフーリがいっしょだと、確実に勝敗に影響が出るからな……主に勝利で。


「二人にはその間、公正委員として辺りを見ていてほしい。アレを使うことになるから、何か企む人が出るかもしれないんだ」

「わ、分かりました……ですがノゾム様、無茶はダメですからね?」
「……めっ」

「うん、分かってる」


 というわけで、[PvP]を1vs1に変更しておく。
 同レベルからランダムという設定にしておけば、相手の強さは同程度になるはずだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 さて、俺の持つ邪縛について説明しておこう──(運営の邪縛)というものだ。
 無職になり、能力値も最低限になったりするのだが……何より、悪運に見舞われる。

 どれだけ運勢値を高くしても、変わらない悪運の強さがそこに。
 要するに……今の俺にランダムとは、最悪の状況を生む相性でしかないのだ。


「──同程度がいないなら、こうなるのも仕方ないのかなぁ?」

「へっ、ちょうどいい鴨が来やがった。なんだよ職業の合計レベルが0って、縛りプレイにもほどがあるだろ!」

「……よろしくお願いします」

「あんっ? ああ、よろしくってな──楽してポイントが手に入るんだ、多少少なくても今回は我慢してやるか」


 俺には鑑定スキルが無いので、相手がどれくらい強いのかは分からない。
 ……まあ、使えていたとしても、レベル差でまったく分からなかっただろうけど。

 名前は[PvP]のシステム経由で判明しているが……必要ないか。
 俺も俺で、負ける気はしない──腕に嵌めた輪っか、そこに宝珠が付いているから。


 ──試合開始!


 戦闘が始まった瞬間、俺は宝珠へ自身の魔力の五割を捧げる。
 そして、今の俺はソロ……条件は満たされた、今こそこの場に召喚しよう。


「それじゃあ、さっそく……っ!」

「来て、ディー!」

「おいおい、なんだよそりゃ……はぁ!? ゆ、ユニークモンスター!?」


 おそらく男の鑑定スキルには、俺の肩に乗る魔物の名前が載っているのだろう。
 世界にたった一匹存在する、唯一無二の名前──『進退流転[ディバース]』が。


「テメェ、騙しやがったな!!」

「騙してなんかいないよ、僕は実際に弱い。だからこうして、頼れる仲間をいっしょに戦うんだ」

「召喚系の特典かよ。クソ雑魚がランダムでマッチングされたってことは、それを補って俺と同等になるだけの力があるってことか。おいおい、ふざけんなよ……チッ」

「警戒するんだ……けど、もう遅いよね──ディー!」


 彼も彼なりに考察しているようだが、行儀よく待つつもりなど無い。
 即座にらせる指示は出さないモノの、他に試したいことが盛りだくさんだ。

 俺の意思を汲み取って、ディーはその姿をスライムから別のモノへ切り替える。
 愛らしい球体は、とても堅い金属質な剣のような姿へ。

 種族名は『鉄魔粘体アイアンスライム』。
 鉄の強度を得たスライムなのだが、魔力によってただの鉄よりも硬度を持っている。


「行こう──“無光ニルライト”!」

「眩ッ……クソ野郎が!」

「ディー、お願い!」

『!』


 相手が暗視スキルを種族として持っていないのは、普人な見た目から分かっていた。
 なので目晦ましに魔法を使ってから近づいて、近接戦闘に持ち込む。

 身体強化スキルに加え、あれから命力操作スキルも得て統合した──身力操作スキル。
 マニュアルで体内のエネルギーを操れるこのスキルで、効率よく戦闘力を上げた。

 怪力、剛筋、握力強化スキルを同時に起動して、そこに身体強化スキルで消費するエネルギーの一部を流用する。

 通常よりも少ない消費で、多くのスキルを使うことが可能となった。
 自力に差のある鍔迫り合いも、これによってどうにかできるように。

 そして、ディーが動く。
 意思を持つ剣となっているので、鍔迫り合いをしている間も攻撃することができる。


「チッ──“回避”!」

「体ががら空きになってるよ──“掏摸”、“拉致”、“窃盗”、“暗躍”!」

「はぁあ、ふざけんなよ!」


 俺が適性を持つ嫌らしいスキルを重ねて使い、いくつかアイテムを奪っておく。
 直接[アイテムボックス]へ行ったので、その中身は知らないけど。

 いちおう[ログ]を確認すれば、何を奪って奪われたか把握することはできる。
 だが……今の俺はかなり限界で、そんなことに回す処理能力も惜しい。

 ディーに魔力付与スキルで補助を行い、隠蔽と隠密スキルで隠し玉を密かに仕込む。
 相手が攻撃してくるので、逃走スキルで回避しながら次の作戦に移行した。

 ──[アイテムボックス]を操作しつつ。



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