AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り初日 その15



「──このイベントに出てくるユニークモンスターの詳細だ!」

「……詳細ね、ずいぶんと解釈の幅が広い質問の仕方ね」

「はっ、何も言わなかったテメェが悪い。それよりどうした、俺は訊いたぞ? なら、今度はテメェの番だ」

「ふーん、まあいいわ。それなら、こっちもこっちなりの解釈で答えてあげるわ」


 彼も彼なりに頭を捻った質問をしてきた。
 情報源のナックル曰く、二つ名同様に愚直な男だと聞いていたんだが……まあいい、答えてやろうではないか──ティルがな!


「まず、私を含めた『公正委員』全員がその情報を教えられていないわ。宝の在り処なら教えられたんだけど……残念ね」

「チッ、ふざけやがって……」


 忌々し気にティルを睨むクランリーダー。
 当然だ、嵌めたと思われても仕方が無いことをしたのだから……と俺は考えていたのだが、ティルはそれを聞いて納得していた。


「……そう、あえてなのね。あなたにとって宝は、あくまでも目的の共有。そして、団結のための手段でしかない。情報を知れば、よりユニークモンスターに傾倒する。だから、あえて意味の無い問いをしたわけね」

「……おいおい、エスパーなんてレベルじゃねぇな。どういうスキルなんだ」

「心を読む必要なんてないわ。あなたを視れば、自ずと分かっただけよ」


 嘘ではない、たしかにティルは視ることでそれを知ったのだから。
 ちなみに俺は、さすがに遠隔でそれを知ることはできない。

 ──が、俯瞰視点は言わば神の視点。

 このイベントエリアの中ならば、独り言ですら把握することができる。
 眷属はプライバシー云々で観るのは共有したときだけだが、他は普通に観ていた。


「あなたは彼らをどうしたいのかしら?」

「なんだ、それも分かるんじゃないのか?」

「あなた自身が明確な答えを持っていないから、読み取れないのよ。迷っている、それぐらいは自分でも分かっているでしょう?」

「……そこまで分かってんのかよ」


 頭をガシガシと掻き乱し、ハァと溜め息を吐くリーダー。
 彼はその内心を見抜くティルに、思いを吐露することを選んだようだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──そうね、切り捨てる覚悟を決めた方がいいと思うわ」


 彼の話を聞き、ティルが伝えた答えがこれである。
 まあ、なんというか……要するに、新人がクランの目的を勘違いしているそうだ。

 当初の結成目的は、いかに『荒くれ者』に近づけるかというものだったらしい。
 自由民に迷惑を掛けず、祈念者にもロール中以外は優しく接すると決めていたそうだ。

 しかし、彼らの活動は演技とはいえ粗っぽいことが多い。
 おまけに祈念者同士で共有した情報が多いので、悪役っぽくみられる。

 そんな部分に憧れて加入を願う祈念者の中には、それを隠れ蓑に利用する者も居た。
 悪いことに意外とカリスマを持っており、ついには自由民に怪我を負わせたそうだ。

 彼らはそれがこのクランでやるべきことだと捉えているし、着実に力を蓄えていて対処もしづらい。

 追放すれば彼らが野に放たれ、余計に周囲へ迷惑を掛けるのでは……そう考え、何もできずにいたそうだ。

 ──さて、ここにティルの答えが入る。

 その一言だけで、何をすべきかを理解してしまうだろう。
 彼女は元王族、そういった決断を何度もしてきたのだから。


「やっぱり……そうなのか?」

「あなたはもう、決めていたはず。そもそもよ、何のためにそんな生き方をしているのか思い出しなさい」

「……そうだよな。現地の奴らに迷惑を掛けず、それでいて自由になりたかった。腐れ上司へのストレスもあったが、何より昔からそういう漫画が好きだったんだ」


 語り掛けているようにも独白しているようにも思える、そんな言い方で呟くリーダー。
 ティルはそれをただ聞き手に徹し、彼の思いがすべて吐露されるのを待つ。


「なら、俺は──」

「そうね、あなた一人の問題なら答えを挙げてもよかったけど……今のあなたは、他に相談すべき相手がいるんじゃないの?」

「! だが、俺は……」

「心配していたわよ。というわけで、これが答えね──“開牙カイガ”、“斬爪ザンソウ”」


 素早く斬撃を放ち、男を斬り裂く。
 あまりの手際の良さに、相手は何もできないままゆっくりと死に戻る。


「あなたの間違いは、頼らなかったこと。その上司とは違うことを、証明しなさい」


 返事は問わない。
 なぜなら、彼はもうこの場から消え去ったのだから。

 剣を再び鞘に納め、ティルは一息吐く。
 彼女の眼は別に消耗する身力などは無いのだが、精神的に疲労する……他者の心を読むのだから、不必要な情報も多いのだ。


《お疲れ様、ティル。なんだかすまんな、いろいろとさせてしまって》

「……まあ、いつものことだから構わないわよ。メルスのことだし、相応の礼は尽くしてくれるのでしょう?」

《そりゃあもちろん。毎度のことながら、手料理でいいのかなとは思うけど……本当の体の俺は、授業ぐらいでしかやったことないから絶対に不味いんだけどな》

「料理も剣技も同じよ、やった分だけ成果が出る。筋肉とかは反映されないのよね? だからすぐに、とは言わずとも必ず同じことができるようになるわ」


 いやいや、無理だろう……と思えないような確信を与えてくれた、ティル師匠である。
 剣技もただスキルをなぞっていた時よりも格段に成長したのは、彼女のお陰だ。

 現代の地球で剣を使う必要があるかと聞かれれば微妙だが……まあ、そういう細かいことは気にしないでおこう。


《今度、いっしょに何かしよう。内容はそっちに任せるからさ》

「いいのかしら? 私にそれを任せて」

《そりゃあ、ティルだからな》

「! ……そうね、期待しておきなさい」


 なんて会話をした後、俺は再び視点を切り替える。
 さて、次はどこにフィールドかな?



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