AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り初日 その02


「おい、あっちでまたやってるぞ!」「またなのかよ……いい加減、懲りないものかね」「何でも、死ぬとしばらく巨乳の美人さんに健康診断をしてもらえるらしいんだ!」「何してる、速く俺たちもやらかすぞ!」


 祭りは始まったばかりだというのに、いきなり盛り上がっていた。
 その原因は、本来許されないはずの禁忌を侵す行為そのもの。

 それによって出現する、天使様とその裁きに祈念者たちは燃えていた……いや、この場合は萌えるの方が正しいわけか。


「ネロのヤツ、いったい何をしてるんだか」

《幻覚を見せているようですね。実験の最中に暴れられても困るようですし、都合の良い夢という感じでしょうか》

「ああ、そこら辺は配慮しているのか。いやまあ、彼らにもひどい目に遭ってもらっているわけだし……それぐらいのサービスは必要になるか。気になるのは、ネロの方がパンクしないかどうかだな」

《実験の補助を行う用のアンデッドは多くいますし、ネロ自身もメルス様のスキルをお借りすればどれだけ送られてきても対処可能でしょう。何より、一体でも無駄にするような性格をしておりません》


 まったくである。
 ネロが使い潰せる実験体を減らすほど、勿体ない選択はしないだろう。

 何をやっているのかはさっぱりだが、最終的に人々のためになることをやっている。
 主目的は魂魄云々だろうが、俺や眷属たちが頼んだことも調べてくれているはずだ。

 さて、そんな騒動の切っ掛けとなったもう一つの要因の方を、心配しておこう。
 ……完全人造ということはつまり、一から俺が創造に携わっているわけだしな。


「[ロウシャジャル]はどうなっている?」

《いえ、いっさいダメージを受けずに活動しておりますよ。祈念者の方々が弱いというより、条件を満たせる方が少ないことが問題となっているようです》

「まあ、参加する奴らがそこまで意欲的に戦おうとしていないからだろうな。そもそも、このイベント中に倒すのってほぼ不可能だから、当然なんだろうけど」


 違反者用に配置した[ロウシャジャル]。
 コイツは制約と誓約、なんだかアレを想起させる条件特化型のユニーク種である。

 この祭りの参加者たちは、俺が提示した条件を受け入れて祭りに参加しているのだ。
 それが意味することは──たった一つの決まりも守れぬ輩に、勝ち目など存在しない。


「だからこそ、ルール違反ができる奴を探すための仕掛けだしな。俺はユニーク種を用意すると言っただけで、倒せるなんて一言も伝えていない。それでも押し通れる、そんな奴らだけが力を得られる」

《とても、悪役のような言葉ですね》

「悪役じゃない、偽善者だ。それに……どんどんイベントは進行していくな」


 コロシアム、バザー、宝探し、迷宮……祭りは同時進行で進んでいる以上、すべてを観測することなどできない。

 一つの場所に人が集まっても、できることは少ない……だからこそ分散させ、それぞれの場所で異なるイベントを起こす。

 そうすれば、一つの場所で無数の導きが働くのではなく、定まった導きが強い働きを魅せてくれる……そう思ったわけだ。


《──とはいえ、メルス様はすべてを観測するつもりですよね?》

「モチのロン。みんなが作ってくれた便利スキルは、ある意味こんなときのためと言っても過言では無いのだ──“世界構築”は」


 本来はその名が示す通り、世界を一から構築することができるほどのスキル。
 だが、今回の使い道はまったく違う……ただ世界を俯瞰するためだけの使い道だ。

 要は観たい場所が瞬時に確認できる、プライバシー皆無な防犯カメラである。
 もちろん、普通に使おうとしたら脳みそがパンクするが……便利な思考スキルだよな。


「これで全部の情報が分かるから、気になった場所にすぐ行ける。まあ、そっちはスキルの対応外だけどさ」

《もともとこのスキルは天地創造のような事のために創られたというのに……その創造主様が、まさか覗きとは……》

「くっ、これも仕方が無いことなんだ。行いには必ず理由がある、それを信じて待っていてくれ、アン」

《はい! ……と、このような感じでよろしいでしょうか?》


 感じも何も、割と本気で言っていたような気がするんですけど……と心で訴える。
 アンはそんな心情を、分かったうえでこう返してきた。


《このような手段を用いずとも、{多重存在}があれば、メルス様は遍在することができるはずです。ならばなぜ、と事情を知ることのできない者たちは問うかもしれませんね》


 精気力さえ払ってしまえば、好きなだけ分身を作ることができる多重存在スキル。
 それ以上の対価を支払えば、命だって生みだすことが可能だ。

 今回のケースでも、これを使えば俺は好きな場所に『俺』として向かうことができる。
 しかしその方法を選ばなかったのは、俺なりに考えがあってのことだ。


「普通に俺がいっぱいいるのは、なんだか気持ち悪い。どれだけ美人だとしても、全く同じ顔が何十個も並んでいたら、美人と思うより怖いと思うのと同じだ」

《ほう、そのようなご経験が?》

「あるわけないだろう……あとは単純に、この方が面白い気がしてな。居合わせたら、介在しなければいけない。つまり、邪魔な凡人がイベントに絡んでしまうことになる……それは避けたい。だから、俯瞰してみる」

《メルス様は……徹底しておられますね》


 まあ、『選ばれし者』なんかもこのイベントに来ているようだし、こういう遠回りなやり方も必要なのだ。

 彼らに絡む時には、それなりの手順を踏んでおかないとロクなことにならないからな。
 ……さてさて、予定通りの三日間を過ごすことができるのか?

 ──どうせ、無理だろうけどさ。



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