AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と旅での修行 その03

連続更新となります(07/12)
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 アンシス


 宿場町として誕生したここは、祈念者が自由民に依頼されて作り出した町だ。
 ……祈念者なら安全地帯を確保して、そのまま[ログアウト]すればいいからな。

 金が貰える祈念者、休める場所が貰える自由民……互いに利は一致していたわけだ。
 そんなこんなで作られたアンシスなので、建築技術も少々日本のアレが使われている。

 お陰様で、意外と人気なんだとか。
 情報収集をしていく過程で、そんなことを知った俺だが……今はそれを隣に居る少女に教えることはできない。

 なぜなら彼女──クラーレは現在、激しい魔力酔いに襲われているからだ。


「うぅ……魔力が」

「頑張ってねー」


 眷属に頼み込み、作ってもらった魔法陣。
 内容は当然──“完全蘇生パーフェクトリザレクション”の術式。
 クラーレはそれに魔力を流し込んでは、発動せずに失敗するを繰り返していた。

 魔法にも熟練度的な概念が存在し、伸ばせばそれなりに補正が入る。
 成功率も微上昇するので、たとえ失敗でも発動させ続けた方が効率的なのだ。

 事前に宿を取っておくように言われ、確保した俺たちはさっそく修行を始めた。
 そして、クラーレは度重なる魔力消費と回復で疲れ果てている。


「魔力の自然回復速度はだいぶ高いよね? 私が何もしなくても、ますたーのスキルだけでぐんぐん治っているし」

「その分、練習をさせられますけど……魔力に特化した回復スキルがあるんですよ」


 俺が初期に所持していた瞑想スキルは、身力すべてに対応した回復スキルだ。
 その後進化させた再生スキルは、身力すべてに対応したうえで、肉体治癒も加わった。

 クラーレの持つスキル──活魔は、快復する身力を魔力のみに特化させたスキルだ。
 魔力の自然回復速度を高めるだけでなく、他の方法で回復する際も補正が入るらしい。


「うん、そんな便利なスキルがあるなら、たくさん練習ができるね? 最悪、私が供給するかポーションでも渡そうかなって──」

「ポーションでお願いします!」

「えっ、でも……ポーション中毒になる可能性もあるし──」

「ポーションで、お願いします!!」


 ここまで拒否されるとは……少しばかり落ち込んでしまう。
 俺のこの反応は予想していなかったのか、言った本人があわあわとし出す。

 そんな彼女に手を差し伸べるのは、俺と共にクラーレのサポートをする『月の乙女』に所属する祈念者。


「クラーレ~、落ち着いて~」

「プーチ……」

「……どうせ、自業自得だよ~」

「……メル、というかメルスにはいつも辛辣ですよね」


 男性嫌悪なプーチさんの毒舌は、今日も健在なようです。
 俯いていた顔を上げ、二人を見る……一人は目を合わせ、一人は目を逸らした。


「プーチお姉ちゃんは、時々昔みたいな反応に戻るよね」

「……思い出すだけで嫌になる」

「あははっ、素に戻っちゃってるよ」

「! 本当に~、嫌になるよ~」


 それでも俺の有用性に関して、身を以って知っているからこそ何もできない。
 彼女なりの葛藤はあるんだろうが……少なくとも今は、クラーレを支えなければ。

 再び魔法陣に魔力を籠め、魔力欠乏症になりかかっている姿にそんなことを思った。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 毎度のことながら『月の乙女』のリーダーであるシガンには、お世話になっている。
 今回もクラーレの修業をあっさりと許諾して、そのための時間まで用意してもらった。

 彼女たちが荷物の配達や新たな依頼を探している間、俺たちは修業を行っている。
 ちなみにプーチはプーチで、俺は渡した錬金術のレシピを読み込んでいた。


「……本当に~、必要なの~?」

「たまたま知った情報だけど、魔女系統の職業の就職条件の中に、錬金術が必要だって情報があったのは本当だよ? ほら、魔女といえば鍋でぐつぐつ~みたいな感じがあるからね。それでじゃないかな?」


 死者の都で手に入った情報なのだが、これは確証が無かった情報の一つだ。
 うちの国民には、魔女系の職業に就いている者が少なかったのも理由である。

 魔法使い系で、女性限定の職業。
 あまり魔力を魔法にすることのない魔小鬼デミゴブリン系統の種族や、戦闘ばかりする冒険者では、生産交じりの魔法職な魔女にはならない。

 プーチが就いた理由は謎だが、少なくとも彼女が錬金術をやる様子を見たことはない。
 なので今回、魔力の精密操作という点でもお勉強させることに相成った。


「ますたーは魔力不足、プーチお姉ちゃんはスキルレベルが不足して成功しない。二人とも、ビシバシ鍛えていくからちゃんとついてきてね」

「分かりました」
「…………」

「強くならないと、私を倒せないよ?」

「倒したいのは~、メルじゃなくて~アレ」


 アレ呼ばわりとは……まあ、メルを嫌っていないことが分かるいい反応だ。
 俺も彼女みたいにストレートに語ってくれる人は、あんまり嫌いではない。

 だからこそここのクランに居心地の良さを覚えて、ずっと共に居るわけだしな。


「うんうん、二人ともいい心構えだね。それじゃあそろそろみんな帰ってくるだろうし、今後の予定を教えてもらおう。それから、二人に課題を出すよ」


 なんだかんだ言っても、根は真面目な二人はこちらの顔を見る。
 片や魔力切れ中で顔が真っ青、片や知識の詰め込み過ぎでお疲れ気味の表情だが。

 ……それらの表情がよりいっそう酷くなるだろうな、と他人事のように思うのだった。



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