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山田 武

偽善者と東の北奥 その17

連続更新となります(03/12)
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「解体解体っと」


 後腐れなくユニーク種を解体できる、絶好の機会だった。
 取り出すのは『狂愛包丁』、手に入るアイテムを根こそぎ手に入れる魔武具である。

 さっそく包丁を差し込もうとする俺だったが、そこに待ったを入れる者が現れた。


《メルス、少し待ってほしい》

「……ん? 呪いが発動する前に、さっさと解体したいんだが?」

《そのイナゴの魂魄、吾に寄越してほしい》

「…………まあ、解体すると魂魄はリソース化されるからな。なら、先にネロが抽出しておいた方がいいか」


 ユニーク種がドロップするアイテムの内、概念系……つまり生前のユニーク種の能力がアジャストされたアイテムには、本当にその個体の魂魄が用いられている。

 なので事前に処理をしなければ、魂魄の大半がアイテム化に使用されてしまう。
 魂魄を有効的に活用したネロとしては、そのような事態は避けたいのだ。


「それに、包丁があれば強引にアイテム化させられるからいいぞ。“着色自在カラーリング”……これで外から見えないから、出てきていいぞ」


 物に色を付ける、そんなネタのようで有効な魔法で氷を半透明から白色に染め上げる。
 その状態で影に話しかけると、影から波紋が生まれ……ネロが出てくる。


「では、さっそく行われてもらおう……ふふふっ、ユニーク種の魂魄はかつての吾では掴めなかったからな。だが、今の吾であれば話は別! 今こそ、その謎に満ちた構造のすべてを暴いてみせよう!」

「あー、はいはい、頑張ってなー」


 ネロがこれから行うのは、俺ではまったく理解できない儀式染みたアレやコレだ。
 気にしても仕方が無いので、しばらくは放置するしかない。

 放置した[コウジュコウ]の死体が心配ではあるが、ネロに包丁を渡してある。
 終わったらすぐに解体して、アイテム化してくれることを信じよう。


「ちょうどセットしてあったし、転移もこれでできるな──“水鏡転陣ミラーポーター”」


 触媒として立てた『水柱ウォーターピラー』を目印に、氷の中から柱の一つに転移する。
 未だに尾は生やした状態、つまり聖水や死によって呪力が高まった呪水もたっぷり。


「盛り上がろうぜ──“放圧水炮ハイドロカノン”!」


 膨大な量の水をたっぷりと使い、頭が死んだことで混乱している『呪殖蝗カースドローカスト』たちに向けてソレを放つ。


「──“送水道路フロードコネクト”、“水進ウォータードライブ”!」


 水の柱の上からピョンっと降りると、瞬時に生成された水路がイナゴたちの下へ向かう道を築き上げた。

 事前に使った“水上歩ウォーターウォーク”の魔法により、俺は水の上を自在に動ける。
 ついでに“水剣《ウォーターソード》”を唱えて聖水の剣を生みだし、近接戦の準備をしておく。


「さて、ネロが帰ってくるまではだいぶ暇だしな……最後の無双でもしますか」


 やり過ぎてもネロのお陰とか言っておけば問題ないし、水魔法でどこまでできるのか試しておきたい。

 足りない部分は後で補えるように、また魔法を開発してもらうことにしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 イナゴ狩りに励んでしばらく、掃滅することに成功した義勇軍たち。
 俺が地道に厄介な呪力持ちを屠っていたのも理由だが、大半は彼らが頑張ったからだ。

 怪我人を治すネロ(ドッペルゲンガー)の負担も少しずつ減り、“聖域”の効果を高められたことも理由だ……という演出をして、さらにネロへの信仰度を上げておいた。

 対して、本当のネロは──


「ぐふふふ、この魂魄の昏さ。呪力の影響がここまであるとは……魔虫程度の魂魄と初めは思っていたが、その単純さゆえに呪力への親和性も高かったということかもしれぬな」

「おーい、人としての尊厳を忘れかけた顔は止めてくれ」

「っと……せっかく分析をしていたというのに、無粋な男だ」

「自分の家族がそんな人に見せられない顔をしているのを止めない奴は、男とか家族である前に人としてダメだと思う」


 俺の身の回りでは科学者や何かにどっぷり嵌るぐらい好きな奴なんかが、だいたい同じような顔をするので慣れてきた。

 男なら魔法でどつき、女ならまずは言葉でその深度を確認したうえで魔法を使う。
 眷属ならば可能な限り言葉で語り掛け、ダメならとある方法で呼び起こす。

 対処に差があるのは当然だし、いつまでも言葉だけでなんとかしようとする無意味さも学習済みなのだ。


「それで、何かいいアイテムはドロップしたのか?」

「これだな」

「……お香?」


 イメージ的にはお香というよりアロマのような感じだが、ジャパニーズな俺である。
 ネロが差し出したそのアイテムを視て、名前はやっぱりお香だったと知った。 


「使いどころに困る……というか、俺には不要かもしれないな。今の縛り状態でアジャストされたせいか?」

「いや、そうではなかろう。メルスのアレでは対処できぬものも、いずれ現れるかもしれぬぞ。そうなったとき、これが力になる可能性もある」

「……まあ、こっちの方が効果の解釈は広めだしな」


 そんなお香が再び登場し、活躍するのははるか先のことである…………かもしれない。
 妖しくも心を落ち着かせる地面の匂いがするお香は、その出番の時を待つのだった。



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