AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と生死の試練 その12



「──えっ?」


 そりゃあもう、アイの表情ったらひどいことになっている。
 俺に嵌めようとした指輪が急に消えて、彼女の手は宙を切ったのだから。

 俺を助けようとして、自分なりの覚悟を定めたのだろう。
 そしてそれを無為にされ、己のナニカを削り生み出したアイテムを消失された。

 ──まあ、アイは何も悪くないんだが。

 感触を確かめ、自由に動かせるようになった左手・・でアイの頬を撫でる。


「……えっ?」


 さっきとは異なる抑揚の、違った心情が籠められた声だった。
 実際、さっきまではアイが治してくれた右手しか動かせなかったからな。


「指輪は受け取った。ただ、その指だけは特別だからな……いろいろとあって、誰かのモノと証明できないようになっているんだ」

「どういう、ことでしょうか?」

「まあ要するに──こういうことだ」


 左の掌を上に向けると、勝手に薬指から指輪が抜けて中央で漂う。
 そして、小さく光を放つと──無数の指輪がその周囲に出現した。

 その中には、先ほどまでこの場に在った黒い指輪もあって──


「『統合の指輪』って言ってな。入れた指輪のスキルを全部使える……でまあ、他の眷属から貰った物もここに入っているんだ」

「皆さん平等に、ということですね」

「らしいな。前に左手をたくさん用意すればいいんじゃないか? って言われて本気にするヤツがいたから、そういう纏め方で納得してもらうことになった」


 創るために、これまただいぶ苦労したのだが……それはまた、別のお話。
 その後は眷属たちが、最高の指輪を作ろうと努力したりするが……これもまた(ry。


「アイの指輪もちゃんと受け取った。だからこうして、手を動かせるようになった」

「……少々想定外ですが、揉めたくはありません。メルス君が指輪を受け取ってくれた辺りで、満足しておきます」

「試練も終わったし、余韻に浸りたい……けど、やらないといけないことがあったな」

「やらないといけないこと……ですか?」


 これもまた、俺の独り善がりな考えではあるんだが。
 指輪の一つに意識を集中し、イメージを浮かべて魔法を発動する。

 魔力によって肉体が包まれ、俺の体は少しずつ小さくなっていく。
 体も華奢なものへ、何より『相棒マイサン』が一時的に失われる。

 顔もモブ顔から眷属たちに匹敵する、愛らしさを誇る美少女フェイスに。
 パチパチと目を瞬かせ、俺の変化にアッと驚いた表情を浮かべるアイに声を掛ける。


「いろいろと話したいことがあるんだ。もう少し、付き合ってくれる──アイちゃん?」

「はい、もちろんです──メルちゃん」


 互いに初めて出会った時の呼び方で、自分たちを呼び合う。
 理解者として一歩関係が進んだ今なら、話し合いもより楽しくなりそうだしな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……えっ? アイちゃんが、眷属になりたいの? あ、あんまりオススメはしてないんだけど……」

「ダメ、でしょうか?」

「ううん、なってくれるなら大歓迎だよ! でも、アイちゃんにはお仕事もあるし、そもそもなる必要が無いんじゃないかなーって」


 俺から話す話題が尽きた辺りで、衝撃的な話をしてきたアイ。
 なんと、俺の眷属になりたいと言ってきたのだ……特典とかあったっけ?

 能力値の補正は停止中だし、スキルを共有しようにもアイの方がスキルも優秀だ。
 経験値? もうカンスト以上に育っているアイに今さら必要ないだろう。

 しいて言うのであれば、俺や他の眷属たちとの繋がりが生まれるくらいだが……俺とて自分という存在を理解しているつもりだし、そういうことではないだろう。


「──私はメルちゃん……いえ、メルス君の試練を行うということで、調査を行っていました。メルちゃんは普段、亜空や異空間に居るようですので今のことは分かりませんが、終焉の島に関することは分かりました」

「うん、最初は異空間のスキル──夢現空間も使えなかったから、普通に暮らしてたよ」

「漂う霊体たちから聞きました。メルちゃんたちが、どんなことをしてきたのか。彼らもメルス君の活躍に胸躍り、一部の方は成仏されたようです。誰かに広めたかったと、私に伝えて成仏された方も居られました」

「そ、そんなに凄いことしたかな? 私は別に、みんなを事情も知らずに勝手に救いたいだけだったし……」


 偽善という大義名分にもならない理由を背負い、勝手にやらかした結果がそれだ。
 霊体たちがそのどこに刺激されたのかは不明だが……そうか、観られていたのか。


「私はメルちゃんたちのことを、もっと知りたいと思いました。これまで死者の方々のことだけを考えてきた私にとって、それは初めての経験でした」

「……うん」

「そして、メルちゃんは私を理解してくれました。共に歩くことを、受け入れてくれました……すべてが初めてのことばかりです。何か間違えてしまうかもしれませんし、支えてほしいとも思っています」

「だから……眷属なの?」


 俺にとって眷属とは家族、共に居て欠けたナニカを埋め合う関係だ。
 アイもまた、その欠けたものを補うために理解者を探していた。


「嫌ならば、否定してください。ですが、私はメルちゃんの居る世界に混ざりたいと……そう思いました。これから生きる世界を、メルちゃんたちといっしょに見たいのです」

「……アイちゃんの望むような場所じゃ、無いかもしれないよ?」

「ふふっ、大丈夫ですよ。そういうことを心配してくれるメルちゃんの世界なら、間違いなく私は満足できます」

「……もう、しょうがないなぁ」


 こうして、新たに眷属が加入する。
 それは『還魂』という『超越種スペリオルシリーズ』でも、霊体たちを導く生死の冥王でもなく……アイという、可愛らしい一人の女の子だった。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品