AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と生死の試練 その10



 俺は死に戻りをすれば、運営神から永久的に垢BANを受ける。
 眷属と会えなくなる……それを拒むため、死なないことばかりを考えていた。

 フェニの不死性、ネロの不死スキル、魔力による自動蘇生、他にも様々な手段を用いることで、俺は死に戻りをしないように足掻き続けている。

 ──だが、今の俺は無防備だ。

 ある意味、これまででもっとも『俺』を曝け出した一時ひとときだったと言えよう。

 そして今、俺は死んだ……アイの攻撃は間違いなく、俺に死をもたらした。
 生は失われ、ゆっくりと体から温もりが失われていると実感してしまう。

 ──嗚呼、これが死というものなんだな。

 死に戻りを頼りにできた祈念者の頃、膨大なスキルを集めた転移後、どちらでも死は程遠く特に気にしない……まさにゲーム感覚というヤツだ。

 しかし、今の俺は『死』を体感している。
 一時的に{感情}も機能を停止し、死ねば俺は眷属たちと死別をしてしまう。

 怖いと震え、後悔を覚える。
 なぜそんなことをしたのか、どうしてここまで愚かなことができたのか。

 分かっていなかった、死とは本来すべてに幕が閉じるのだと。
 また次があると勝手に思い込み、大丈夫だと思い込んだ浅はかな覚悟が生んだ結果。



 それでも僅かに感じる、ほのかな温もりが俺を死へと誘う。
 存在すべてを肯定してくれる、大きな愛に包まれるような感覚。

 眷属たちのことを忘れないよう、強く意識してもなお心揺さぶる魅惑の誘い。
 生命の根源的な部分が訴えかける、従えという大義名分。

 そしてそれが、俺という存在のもっとも奥深くまで温もりを届ける。
 すべてを包むという感覚が、真の意味で行われたとき──より温もりが強まった。

 これ以上ないその甘い堕落に、俺は抗うことを止めてしまう。
 ……委ねるしかないだろう、むしろそうしたいと思っていた。

 理解者とは、その者の行いすべてを受け入れることができる者だ。
 なればこそ、この温もりを拒んではいけない……そう、これは『愛』なのだから。

  □   ◆   □   ◆   □


 俺という存在は、たしかに死を迎えた。
 死の門を潜る前に運営神に拾われ、この世界にアクセスする権限を未来永劫奪われることだろう……本来ならば、であるが。

 その推測が間違っているということを、未だに目を閉じている現在でも理解できた。
 冷たくも温かい感触が、寝そべる俺の頭を撫で続けている。


「……それに、膝枕か?」

「はい。メルス君、よく分かりましたね?」

「眷属がやりたがるからな。体が全然動かないんだが、俺はどうなった?」

「ふふっ、安心してください。命に別状はありませんし、それを今からご説明します」


 堅い床の感触ではなく、柔らかな皮膚の感覚が俺の頬を通じて伝わってくる。
 体は普通に堅い感触を受けているので、載せてもらえているのはそこだけだが。

 問題は、動かそうにもまったく動こうとしない肉体についてだ。
 虚脱感がひどく、口と目以外を動かせる気がしないほどである。


「まず──おめでとうございます! メルス君は、見事に試練を達成しました!」

「ありがとう……見た感じ、達成した奴には見えないけど。俺は、アイさんを理解できたのか?」

「アイ、で構いませんよ。先ほども時折、私のことをそう呼んでいましたよ 理解とは一方的なモノではなく、相互なモノです。呼び名はより、親しい方が嬉しいです」

「……そっか。じゃあ、俺のこともメルスでいいぞ。理解できたのか……良かった、本当に良かった」


 ここまでして中途半端な終わり方では、後味悪く感じてしまう。
 同じことはもうできないだろうし、やり遂げることができて良かったと思った。


「メルス君のままで。私は、その呼び方が好きですから……他の方も少ないようですし」

「ん? えっと、何か言ったか?」

「いいえ、なんでも。メルス君、今のメルス君は死の淵から生還したばかりです。祈念者の方々風に言うのであれば、死に戻りしたデスペナルティを受けています」

「そりゃあ分かりやすい。それで、いつまでこの状態なんだ?」


 デスペナルティは基本的に、能力値が激減するのが定番だ。
 しかしそれ以外にも、一定時間経験値が習得不可だったり、スキルが使えなかったり。

 死ねば死ぬほどそれらは積み重なり、重複すれば身動きが取れない植物状態に化す……そうならないように祈念者は、一定回数以上の死を拒むために[ログアウト]を行う。

 だが俺は、[ログアウト]と死亡が同義な状態なので、それはできない。
 しかし実際、そんな重複したデスペナに俺は侵されているようだ。

 まあ、デスペナは時間さえ経てば必ず元に戻すことができる。
 経験値が減るようなペナルティもあるのだが……正直余っているし、問題にならない。


「時間にして一週間。メルス君の世界で経過するほどかと……祈念者の肉体ですので、そちらに準じた物になっています」

「つまり、一週間じゃなくてもっと長い……半月はそのままなのか」

「このままでは、ですが。メルス君、試練は果たされました。私は君に、最大級の報酬を差し上げます。それを上手く使い、この状態から脱してくださいね」


 そうニコリと微笑むと、俺の脳裏には膨大な量の情報が注がれるのだった。


  □   ◆   □   ◆   □

 迷える者は抗わず、新たな道を選ぶ
 生死を統べる王は、新たな理解者を得る

 掬われた死霊、救い救われし生者
 彷徨う者たちを導く篝火は、よりいっそう温かな火を燈す

 超越クエスト『迷える者よ、抗うことなかれ』が達成されました

 評価を総合──『評価:パーフェクト』と認定

 称号『霊体の導き手』を入手しました
 称号『死祈の聖女見習い』を入手しました
 称号『正なる聖浄者』を入手しました
 称号『生なる理解者』を入手しました
 称号『死した理解者』を入手しました
 称号『超越証:還魂』を入手しました

 報酬『輪廻の天鐘』を獲得しました
 報酬『死葬の修道服』を獲得しました
 報酬『集魂の呼び笛』を獲得しました
 報酬『生別の指輪』を獲得しました
 報酬『死別の指輪』を獲得しました
 報酬『超越譚:還魂』を獲得しました

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