AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と生死の試練 その04



≪終わりの始まりを告げよう≫


 その法則は単純──生命力を『1』で固定するものらしい。
 魔力にも質があるように、攻撃を受けたら即死……ではないが、それでも死にかける。


「ん? 使用不可と反転は解除された……」

「試練も後半となりました。メルス君、準備はよろしいですか?」

「……慣れるからちょっと待ってくれ」

「慣れる?」


 死にかけのまま戦い続けたくはないので、種族[不明]のスキル(未知適応)を行使。
 強制固定に抗うため、体が俺の所持するスキルの中から最適解を導きだす。

 生命力を癒しても変わらず、増大させてもそこは変わらない。
 ならばどうするか……変換が可能だった以上、移すという行為は可能ということだ。

 答えが分かれば、すぐに実行へ移る。
 俺個人のものだった生命力を、別のナニカへ繋ぐことで拡張したのだ。

 ……問題はその先。
 いったいどこへ繋がったのか、感覚的にそれが分かってしまった。


「っ……!」

「ふふっ。愛されていますね、メルス君」

「……そう、だな」


 繋がったのは眷属たちの生命力。
 たった1しか無かったはずの生命力が、今は外部から供給されることで増えていく。

 抵抗しても送り込んでくる眷属たち、俺は繋がったラインをギリギリまで細める。
 完全に繋がっていた線は、一割以下まで狭まった。

 ……死なば諸共は望むことではない。
 せめてもの抵抗として、一人ひとりから貰う生命力は最低限にしておいた。


「──よし、これでいい。始めてくれ」

「分かりました。では、次へ参りましょう」


 彼女の周囲を漂っていた魔力の塊、その数が一気に増える。
 百や二百、それどころではない……そしてそれらは、鎧騎士の形を取っていく。


≪抵抗は生の特権≫
≪停滞は死の象徴≫


 前者は回復の完全不可能化、後者はその蘇生版らしい。
 アンデッドには回復や蘇生で攻撃……という、安易なやり方は通用しないわけだ。

 蘇生が不可能、それはつまり俺たちも同じということ。
 死んだら死に戻りはするだろうが、俺の場合は少々事情が違うのでそれは困る。

 籠手も一度装備から外し、今度は宙に向けて手を伸ばす。
 すると空間に亀裂が入り、そこから半透明な槍が一本飛び出してくる。


「──“螺旋投槍スパイラルスロー”!」


 高い身体能力を使い、勢いよく握り締めた槍を騎士たちに向けて捻りながら放つ。
 その際、槍の穂先はドリル状となり、ギュイィイイインと音を鳴らして飛んでいく。

 騎士たちに命中した途端、鎧が炸裂して部品が飛び散る。
 あまりの威力に、貫通もせずに爆散してしまったようだ。


「どうだ、これなら──」

「さすがにこれ以上は、あまり無茶をさせるわけにはいきませんね──『祝捧福音』」


 かつての『宙艦』が行った、フィールド改変を思わせるエネルギーの感覚。
 単純な攻撃ではない、だがそれ以上にこの場へ影響をもたらす……そんなナニカ。

 ゆっくりと動き出すソレの姿を見て、どういった効果を持つのか理解する。
 バラバラに吹き飛んだ部品が集い、元の形へと戻っていった。


「もともと私が生みだしたモノ。生と死の定義は、曖昧で両立しているのです」

「……そういうのって、【矛盾】って言うんじゃなかったっけ?」

「いいえ──『超越』と言うのです」


 消し飛ばしたはずの鎧騎士、そのすべてがたった一言で復活した。
 回復も蘇生も不可能なはずだが、試練の主である彼女は別なのだろう。

 真の意味で、生と死を超越した『還魂』。
 なればこそ、神殺しの力を込めたはずの槍すらも無効化した。


「なら、“透明迎撃”。“一連補射ガトリングショット”」


 槍を自動で迎撃する状態で抛り、二兆の拳銃に持ち替えて武技を使う。
 魔力の弾丸を視界すべての鎧騎士を狙うように、聖と魔の力を籠めてバラ撒いていく。


「──『祝捧福音』」

「くっ、なら──“時止弾丸”!」

「無駄ですよ──『祝捧福音』」

「鎧騎士に起きた変化、そのすべての無効化能力……思った以上に厄介だな。しかも、本当だったら一度でもやられたら死亡だし」


 そう呟きながら、手に嵌めた禍々しく虹色に輝く指輪に力を注ぐ。
 もう一つ、聖なる腹帯の持つ想像補正を受け、イメージしながら魔法を形作る。


「“魔法創造:神呪”──“呪禍縛落”!」

「神気の籠もった呪い……ですか」

「生者を憎むわけでも、死者を貶めるわけでもない。ただ、全部を消すだけだ」

「……なるほど、これでは手の出しようがありませんか」


 何をしたかといえば、アイの言った通り強引に復活を妨害しただけ。
 それ以外にはいっさいの効果を持たない、今のところこの試練限定の魔法を創った。

 改めて銃弾を撃ち込むと、鎧騎士たちは確実に数を減らしていく。
 アイが例の能力を使っても、鎧騎士たちが再び動き出すことはない。


「……まあ、新しいのを用意されたら、俺もどうしようもないんだけど。どうする、また用意するのか?」

「いえ、やめておきましょう。より確実に、試練を遂行させてします──『環境変遷』」

「! それは……」


 かつて『宙艦』が用いたフィールド改変能力……アイもまた、それを使えたのか。


「メルス君の出会った『宙艦』ほど、精度は高くありませんよ。とりあえず、この舞台を広くしましょうか」


 彼女が望むだけで、試練会場である聖堂はその空間を拡張していく。
 試練は後戻りできず、ただ進んでいく……今度は何をするのやら。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品