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山田 武

偽善者と橙色の学習 その15



 橙の図書庫 四階層


 資格を持っている者は、わざわざ戦闘をせずとも利用できるらしい。
 代わりに一定期間使わないでいると、再び戦闘をさせられるんだとか。


「災いの死徒……か。名前からしてかなりヤバそうだけど、知っておいた方がいいよな」


 この世界以外の場所における、死の権化たちの記録も纏められているこの本。
 かつて世界が繋がっていた頃、これはすでに記述されていたのだろう。

 読めば読むほど分かる、奴らが持つ危険性と異常性。
 俺も俺でスキルはかなり特殊だと自負しているが、負けず劣らずの力が記されている。

 共通の能力として、“星害厄災”というモノを使うらしいが……まずこれから酷い。
 簡単に説明してしまうと──神羅万象・・・・を対象にした、回避不可の攻撃発動のようだ。

 射程に入ってしまえば、たとえそれが神だろうと影響を及ぼす。
 遠距離から攻撃しようにも、その攻撃にすら能力が発動するためほとんど効かない。


「これを俺に当て嵌めると……うーん、マジでやりたい放題できるな。完全即死魔法も使えるから、射程にさえ収められれば誰でも殺せるようになる」


 俺もその候補みたいな者だったので、その気になればできるだろうが……人から死徒に成り果てた場合、戻るのは不可能そうだ。

 そもそも危険因子が候補に選出され、後戻りできないところまで危険度合いが高まったときに──それは死徒へと至る。

 戻ろうとした事例が無いのだ。
 知性を持った個体も居たみたいだが、どいつもこいつも最期には死んでいる。


「こればかりはお試しに……とはいかないみたいだな。まあ、因子を得られる機会があれば、臨床実験を重ねたうえで試してみようとは思うけど」


 試練の際は因子を得られなかったので、本物に遭わねば・・・・因子は手に入れられない。
 しかし、そんなヤバい奴とわざわざ戦う気など、これっぽっちもないわけで……。


「結局、何もしないわけなんだよな……」

「どうかしましたか?」

「かくかくしかじか」

「なるほど。メルス様、いずれ相対することがあるでしょう。ですが、少なくともそれは自由世界でのこと。わたしたちが率先して、戦うことはございません」


 AFOの舞台となっているあの世界には、無数の主人公候補が存在している。
 そんな彼らであれば、俺たちだけでは守れないような戦いでもなんとかなるだろう。


「それで勝てるのか?」

「微妙ですね。彼らが力を合わせ、何度も死ぬことを覚悟すれば……あるいは。祈念者以外の死を許容するのであれば、もう少し難易度も低くなると思いますが」

「──それなら俺がやる。出てきたら、試してみよう。ところでアン、キシリーの方はもういいのか?」

「今日も一定量の知識でパンクしておりますので、現在は情報処理待ちですね」


 それでいいのかとも思うが、実際にアンの高度な授業を受けたらそんなものである。
 俺の場合数分も持たないので、一時間も耐えた彼女は本当に凄いと思う。


「『勇者』、『賢者』は見つけた。残っている『魔王』、『守護者』……それと『橙王』の所在は別の華都から見つけないと」

「交流のある華都は全部で六つ。それらの中に、メルス様がお望みの方がいるか……」

「赤色の『勇者』と『賢者』は迷宮の中で、感知不可能だったしな。こっちにも迷宮がある以上、東奔西走したりしなきゃいけないのか? もしかしたら、それだけじゃなくて下も見に行かないといけないとか……」

「可能性が無いわけではありません。実際、まだ地上に存在する迷宮もあるようですし」


 赤色の『勇者』であるサランは、異界である妖精界から迷宮へ迷い込んでいた。
 まったく同じ展開とは言わないが、迷宮でそのまま出れなくなるのは定番だろう。


「うーん……そういえば、二人分の華装を得たわけだが、それで何が分かったか?」


 心の中で詫びていたように、『賢者』の華装も解析して模倣済みである。
 以前に同じことをした『勇者』の華装との類似点を、眷属には調べてもらっていた。

 まあ、当然今回の華装も女性のなので、俺が使うことはほぼ無いだろうが。
 ……絶対とは言い切れない辺り、俺もだいぶ慣れてきた気がする。


「まだ未完成ではありますが、彼らの華装が持つ波長から特定する魔術を現在開発しております。完成した暁には、迷宮などの異界に居なければ見つけられるようになるかと」

「……やっぱりそっちは難しいのか。まあ、それはまた別の時に考えればいいか」

「では、もう次の華都へ?」

「そうなるかなぁ……ただ、他の世界でやらないといけないこともだいぶあるし。そろそろ、約束を果たさないと」


 眷属の里帰り、別大陸での諍い、GMたちからの情報など……いろいろだ。
 そして、もっとも早くやらないといけないことも残っている。


「せっかく用意してもらったんだ。帰ったら調整をして、本気状態で行ってみよう」

「畏まりました。どうか、ご武運を」

「主として、家族として。全員を支えられるなんて冥利に尽きるからな。今回は、いつも以上に張り切ってやれる気がするよ」


 アポを取っていないので、先に確認する必要があるけど。
 ──待っていてくれているし、会いに行かないとな。



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