AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の学習 その13



 迷宮から出ると、こっそりと上に向かう。
 上に入れるのはお偉い様だけなので、見た目が凡人な俺が入るのは違和感だらけだ。

 アンとキシリーは未だに最下層で、お勉強会でもやっているだろう。
 俺は記憶するだけの簡単な仕事をするために、一人で来ているわけだ。


「四階層……は少しだけ居るか。仕方ない、とりあえずスルーしておこうか」


 王侯貴族でも使える階層だからか、ほんの僅かではあるが使用者が居た。
 バレることは避けたいし、今回は使用は諦めて上の階層へ向かう。

 そして辿り着いた五階層。
 先に気配を探っても、そこには誰の気配があるわけでもない。
 ……まあ、ミント家が独占しているしな。


「ここなら読み放題だな……目だけ通して、どんどん覚えていこうか」


 この階層の許可証は伝手だと得られないので、迷宮を突破するしかない。
 例外は『賢者』の華装を扱えるミント一族のみで、あとは全員攻略が必須だ。


「とは言っても、こっちはあくまで森人エルフが蒐集した本ばっかりだからな……編纂した情報がどういうものか、それを知るだけだな」


 上層に並べられた本は、森人たちによって都合よく配置された本である。
 自分たちで加筆・修正したり、逆に添削した物を本にしているわけだ。

 ちなみに迷宮の方は加工不可なので、あくまで加工しているのは転写した物。
 迷宮に潜った者ならば、ある意味真実が知れるわけだな。


「下の階層だと魔術は基本的……というか、完成した物だけだった。だけどこっちなら、未完成の理論だけとかも置かれているから参考になるんだよな」


 下層は正確な情報のみを本とし、蒐集しているようなのだ。
 先ほどとは逆で、完全ではないものを知りたいなら上層に行く方がいい。


「……けど、本当にすべての本が集まるわけじゃないのか。もしそうなら、この世界は完全に森人たちのモノになっているし」


 世界のありとあらゆる情報を収集できるのであれば、他種族が得た知識すべてを森人も得られるということになる。

 兵器も対抗策を立てられ、魔術もそれを防ぐことに特化した魔術を用意されるだろう。
 知識を持つとはそういうこと、他の種族よりも一歩リードできるのだ。


「そもそも、華都にあるんだぞ? なんでそれ以前の情報が集められている迷宮が、ここに在るんだ? 可能性は二つ──移転したのか、移転させられたのか」


 迷宮核を上手く運べれば、迷宮を動かすことは可能である。
 ……とある迷宮なんかは、自立式で勝手に移動するけども。

 迷宮核を確保する時点で、この世界の人々には難しいことだろう。
 過去の記録から、かつてはシステムが機能していたことは分かるがそれでもである。

 華装が誕生した理由が、システムを簒奪した花たちへの対抗策。
 鶏が先か卵が先か、核を得たのがどっちなのか分からなくなるな。


「まあ、こういう難しい話を俺が考えるのも無理があるか。できる人に任せて、俺はやりたいことをやるだけだ」


 未完成の魔術理論、それは魔術という枠組みでは限界が生じた事象改変が大半だ。
 魔術は純粋な魔力を使うか、華装で濾過した魔力を使う必要がある。

 この世界の人々は後者、装置頼りで魔術を使っていた。
 濾過率──ゆえに魔術を彼らには、そのような問題が生じる。


「普通、濾過なんて99%の後ろにどれだけ9を付けられるかどうかなんだよな……完全な濾過なんて、逆に怖くないか?」


 俺の自論はともかく、理論上は完璧でもこの世界の人々は完全な濾過ができない。
 未完成の魔術理論の内、一部はそれが原因で完成していない……そうだ。

 ──俺がそんな、頭のいい解答を出すわけがないだろう。
 困ったときにアンへ念話を送って、確認していただけだ。


《そちらにある理論でしたら、キシリー様も把握しているようです。何か、尋ねておきたい理論などはございますか?》

「うーん、別に今は無いかな? とりあえず自分で読み漁って、気になる物があったら確認するって感じで」

《畏まりました。では、わたしはキシリー様へのご教授を続けさせてもらいますので》

「はいはーい、できるだけ自然になー」


 何を、ということでもないが大胆なことを考えられても困るので。
 思考に枷、というか誘導をしておいた方がいいとのこと。

 考え方を改めれば、俺という存在は侵略者でしかないからな。
 もともとは分かたれていた世界を股にかけるというのは、それなりに責任が生まれる。


「創作物でよくある、異世界との橋渡しとかしようとする奴……あれって、絶対に俺には向いていないよな」


 先ほども言ったが、できることはできる奴にやらせるのが一番だろう。
 自分に外交の才能があるとはこれっぽっちも思っていないので、そう考える。


「さてさて、切り替えていこうか。まずは面白い魔術の理論から探すかな? こっちの世界じゃ失敗したことも、俺たち側ならできるかもしれないし……何より、そういうのって盛り上がるからな」


 それからしばらくは、面白さだけで魔術理論を探していった。
 ……眷属が可能にしてくれるだろうし、早く理論を完成させてくれるのが楽しみだ。



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