AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の学習 その09



 人にとって都合のいい動物のことを、通称『益獣』と呼ぶと聞いたことがある。
 ならばその逆、人にとって害のある動物は『害獣』だ。

 現在、俺とアンが相対しているのは人の都合のみを懸念するような存在ではない。
 ありとあらゆる、その星に住まう生命すべてに災いをもたらす獣──『災獣』だ。


「──ということで、彼らは『災厄種ディザスターシリーズ』の名を冠することになりました。この個体はその劣化版、死徒と名を付けられていましたね。かつてのレミルと似たような手段で、力の一部が移譲されたのでしょう」

「勉強になるな……そんな厄災が、一人の女の娘に倒されるとは誰も思わないだろうが。さっきから斬っても斬っても切りがなかったのは、それが理由だったのか」

「無限再生……いいえ。もしかしたら、細胞から再生する太った魔人のような性質を、この個体は持っているのかもしれませんね」

「本当、うちの眷属は強いなー」


 どうやら判断を見誤ったようで、アンは独りでも充分に無双している。
 俺は基本傍観しかできず、時折弓を引くだけの簡単なお仕事しかやっていない。

 神性機人として蓄積した膨大なデータを基に、アンはさまざまな武装を展開した。
 敵も取り込んだ無数の魔物の性質を使い、攻撃していたが……それらすべてを無効化。

 攻撃を無効化し、自分の攻撃がどういった影響を及ぼすのか確認していったアン。
 その結果こちらに有利な条件のまま、少しずつ追い詰めているのが俺にも分かった。


「──“再現武装・コード0001”」


 アンが決めたコードを基に、構築される膨大な数の兵器、武器、武装。
 それら一つひとつに見覚えがあるなぁ、と思いながらもその行方を見守る。

 射出されたアイテムは、獣の姿をしたナニカに突き刺さる……直前で、見えないバリアのようなものに阻まれてしまう。


「なお、見たくはないが遠視スキルで確認してしまうと、体から生えた大量の口が防御魔法を使っているので見ない方がいいです」

「ご安心ください、問題ありませんので──“再現武装・コード0002”」

「……もう、完全に英雄王だな」


 先ほどは武器を飛ばし、今回は大量の魔道具が展開される。
 それらは一種類の魔法が使えるという品なのだが、アンはそれを大量に並べていた。

 当然、その魔道具たちは起動して敵に向けて魔法を飛ばしていく。
 武器に対する防御を上回る量の魔法が流し込まれ、バリアは砕かれ攻撃が命中する。

 獣の至る所に武器や魔法が命中する……しかし、飛び散った肉片はすぐに動き出す。
 グチャグチャの泥は粘土のように集まり、元の形を取り戻していった。


「千日手……というわけではないのです」

「そうなのか?」

「はい。登録してあるコードの中には、再生不可能な猛毒の火がございますので」

「…………図書館に影響がありそうだし、いろいろと不味そうだから止めような?」


 原子的な物が関わっていそうだし、今の俺では巻き込まれて死んでしまいそうだ。
 相手は巨体、すべてを呑み込むには相応の爆発が必要となる……うん、絶対死ぬな。

 であれば、俺にできるのはそれを使わせないように戦うこと。
 具体的には……肉片を一つ残さず捉え、捕らえることだろう。


「木魔法──“棘縛りソーンバインド”」

『────』

「重ねて──“光合成フォトンシンセサイズ”!」


 棘が地面から生えると、獣をあらゆる角度から縛り付けていく。
 魔力を大量に籠めたため、その強度・本数は通常よりもはるかに上だ。

 しかし、それだけではすぐに耐久度を減らされて突破される。
 そこで“光合成”を使っておくことで、浴びた光から耐久度を回復できるようにした。


「アン、今だ!」

「──“再現武装・コード0236”」


 展開されたのは、巨大な大砲。
 巨躯を誇る獣と同等の大きさを持つそれの内部では、精錬された緻密な魔力が発射されるその瞬間を待っている。


「──“開砲ファイア”」


 一発目の砲撃の威力を高めることができる武技を使い、その火力はさらに向上。
 その結果、発射された砲弾は砲身以上の太さのレーザーとなり──獣を焼き尽くす。


「戦闘終了。本の出現を確認、どうやら終了したようです」


 獣を出した本は元の場所へ、代わりに飛んできた本から許可証が二枚出てくる。
 俺たちはそれを受け取り、ようやく戦闘用の意識を止めることができた。


「俺、全然活躍できなかったなー。縛っただけで、他は何もできなかったし」

「そんなことはございませんよ。メルス様の拘束があったからこそ、わたしも確実に一撃入れられました」

「……目を見て、言ってくれるか?」

「無理ですね」


 せめて目を逸らし、無言を貫いてくれればいいのに……急に目を合わせたうえで、はっきりと答えるアン。


「もちろん、完全状態のメルス様であれば倒すことも容易にできたでしょう。しかし、縛りが能力値に入っていては……さすがに」

「まあ、当たり前だな。俺だって、魔導が使えればたぶん勝てたし」

「ですので、五階層は事前に縛りを緩めておきましょう。いくつか提案させていただきますので、採用したいものをお選びください」


 力が足りないのならば、補えばいい。
 シンプルかつもっとも成長から遠くなる選択をし、俺たちは下へ向かうのだった。



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