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山田 武

偽善者と戦力集め その16



「どうした、手が止まっているぞ! お前の覚悟とやらはそんなものだったのか!」

「…………」

「声も出ないか、反論もできないか! いい加減、諦めたらどうなんだ?」

「…………やる」


 なんだかんだ言って、イアンも始めは懇切丁寧に説明をしてくれていた。
 俺もそれに応えようと、必死に弓術を鍛えようとしていた……はずなんだがな。

 残念ながら、俺が身に着けているのは弓術の動きを完全に模倣したもの。
 それに加え、新しく得た模倣スキルで覚えた、それまでにイアンが見せた弓の動き。

 かなりチグハグだったようで……残念ながら、真似するだけでは最適な動きは不可能。
 ……それ以上に、その人に合わせた最適な動きを見抜くティル師匠が異常なのだ。

 まあ、そんなわけで教師役のイアン先生がいつまで経っても真似の域を出ない俺に我慢できなくなって──今に至る。


「まずは弓術だ。ある程度離れた場所から矢が当てられるようになれば、自然とスキルは手に入っている。だが、我ら森人エルフにじっくり止まって射るといったことはない!」

「だから、少し歩いてから止まって撃つ?」

「その通り! 本当は走りながらやってもらう予定だったが、貴様という男のチグハグさに気づけなかった俺も悪い。まずはそれ、スキルが取れたら走ってもらうぞ」

「うん、分かった」


 射る方法を聞いてはいたが、結局のところ人それぞれなやり方だった。
 森で生きる彼らは、最後に矢が当たればいいみたいな考え方みたいだし。

 模倣しても、その時々で撃ち方が異なるため役に立たないそうだ。
 ……理屈はさっぱりだが、教わっている間は先生の意見がすべて正しい。

 俺なりにスキルを駆使して試してはいるのだが、なかなか矢は的に当たらずにいる。
 逆にスキルを使わないで射っても、結果は同じ……というか、それより悪くなるのだ。

 軽く足を動かし、合図があったらすぐに的に向けて矢を放つ。
 すぐに撃とうとすれば照準が合わないし、じっくり撃とうとすると時間が足りない。

 これって、弓術スキルを取れていない素人がやることかな? とも思ったが、教わっている間は先生の意見(ry。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「ようやく弓術スキルを取ったか。貴様、そこまで才能が欠落しているとはな」

「あはは……普段の僕はそういうスキルも保有しているからね。ありとあらゆるスキルを上級のレベルまで成長させられる、そんな才能が与えられているんだよ」

「噛み合わない動きはそれだからか。武器を用いない投擲や格闘ならばともかく、普段がその才溢れる状態とやらならば、それに慣れた貴様は、そちらを基に動いたはずだ。だがそれでは、今の体が追い付かない」

「な、なるほど……勉強になるよ」


 獣剣術の習得は、あくまでもティル先生が『俺』に合わせてくれたからだろう。
 そもそも、彼女の指導中はスキルを使ったらダメだったし。

 逆にその他の武術は、そのほとんどがスキルの補正を基に再現したものだ。
 それが今の体では馴染まず、即習得に至らない要因なのだろう。


「では、さっそく森弓術の習得を行う。まず前提の話、これは植物で作った弓でなければ使うことができない。もしくは、森の力を強く帯びた物を触媒にしなければダメだ」

「えっと、具体的にはどんな物なの?」

「『森の宝珠』と呼ばれる木の精霊たちが生みだせる品だ。他には……伝説上の話だが、世界樹の樹液を固めた物などだな」

「うん、あとで考えてみるよ。とりあえず、植物でできた弓を使えばいいんだよね?」


 ユラルに頼めば、おそらく用意することも不可能ではないはずだ。
 それで金属系の素材を使っても、問題は解消される。

 もし金属があると森弓術の武技が使えなくなったり、補正が掛からなくなるそうだ。
 森の中だとその補正は高まり、逆に自然が全然ないと効果が激減する。

 ──そういう特化スキルにだからこそ、森人たちは森の中で有利に戦っているのだ。


「そうだ。森弓術は名が表す通り、森で弓を扱うためのスキルだ。そのため、ある程度身のこなしがよくないとダメだ。貴様、軽業スキルは持っているか?」

「ううん。けど、体勢スキルはあるよ」

「であれば、比較的すぐに習得できる……はずだがな。先ほどの貴様を見ていたから、そう簡単ではないと理解できる。とりあえず、枝から枝を渡れるようになってもらうぞ」

「そ、それって、とりあえずのレベルじゃないと思うんだよ」


 忍びとか、そういう感じの人たちならまだしも凡人には難しいだろう。
 やれと言われたので、コツを教わって試してみることに。


「えっと、魔力で足を強化する。そのうえで気を使って張り付くんだね。制御スキルがあるから、どうにかできる……かな?」

「歩行スキルも取れれば行幸だな。アレは利便性の高いものが多く使えるからな」

「……頑張ってはみるけど、そんなに簡単に取れるとは思わないよ」

「当たり前だ。俺は最悪、丸一日は掛かると考えているぞ」


 彼らにとって、一日程度はそこまで長くは無いからな。
 俺もスキルを取るために、それぐらいは許容するべきか。

 ……軽業スキルって、だいぶ便利だから欲しかったし。



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