AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と戦力集め その15



 長老の皆さんが居るのは、大樹の中に形成された瘤を魔法で拡張した会議所。
 円卓に座る彼らの下を訪れると……物凄く嫌がられる。


「ひぃいいいっ!」「な、なぜ貴様がここに居る!」「くっ、悪魔め……今さら何の用があるというのだ!」

「……なんだかひどい言われようだな。僕はただ、君たちが行ってきたことを叶えてきてあげただけなのに。それに、今日はちょっとお願いしをしに来ただけだよ」

「全員落ち着け……。メルス、貴様は何をしにここを訪れた」

「あはははっ。うん、ちゃんと理由があってここに来たんだ──君たちのスキル、それを教わりに来たんだ」


 イアンにそう説明していると、少しだけ精神状態を落ち着かせた長老たちが次々と復活してきた。

 特段、脅しているわけではない。
 あくまでも、彼らには対等な立場でこれを受けてもらいたいわけだ。


「……どういうことだ?」

「そのまんま、教わるんだよ。今の僕は、君たちが恐れているような力がない。だからそれを取り戻すべく、あれこれ試している途中なんだ。いっしょに居るディーも、その過程で力を貸してもらったんだよ?」

「『進退流転[ディヴァース]』……間違いない、のか。まさか、本当にユニークモンスターを従える者を目にするとは」

「僕に特殊な武具は必要ないからね。それよりも、時間が掛かってもいいから成長できる物が用意されたんだよ。これもきっと、神様の思し召しってやつだね」


 俺にアジャストされたドロップはそれだったのだが、他の奴がやればおそらく普通に武具が手に入ったと思う。

 縛りプレイ時の俺は弱く、しかし力を解放すれば何でもできる。
 そういう歪な感じから、創り上げられたのがあの宝珠なんだろう。

 そんなディーといっしょに、俺は彼らからスキルを学ぶ気でいる。
 森で暮らす彼らだからこそ、習得しているスキルがあるからだ。

 何より、獣人族が獣剣術というスキルで流派を持つように、彼らも彼らの武器で自分たちの種族の名を冠したスキルを持っている。


「──森弓術スキル。それを僕に、教えてはくれませんか?」

「そうか、貴様は視ていたな。だが、森弓術は森での扱いに特化した弓だぞ? 外へ出る貴様に使う機会は少ないと思うが」

「使いようだと思うけど? あと、流派まではどうこうしようとは思っていないんだ。基礎だけ習って、覚えておきたい。もし有用なスキルだったら、もう少し交渉に応えてもいいかなって思っているし」

「ほ、本当か!?」


 長老の一人が立ち上がり、尋ねてくる。
 たしか彼は…………そうだ、長老たちにおける外交担当の人だったな。

 これまでは鎖国状態だったから何もしておらず、突如強制的に開国されたことでてんやわんやしていたっけ?

 で、無茶な注文を押し付けてきたりもしたから……一番最初に、俺が偽善を施そうとした人でもあった。


「うん。これまでは三人だった留学生も増員していいし、生産技術も何かと交換で教えることにするよ。その分、森弓術の方も考えてほしいけどね」

「す、少し待ってほしい。必ず、なんとかしてみせる!」

「ありがとう!」


 一人に話を進めさせているが、長老たちの考えはもうだいたい纏まっているだろう。
 使者を送る代わりに受け入れていた留学生たちを通じ、いろんな物を返したからな。

 その中には、生活に役立つアイテムや魔法技術、何よりユラルが創った精霊の集まりやすい植物などがある。

 ……最後のが特に人気でな、絶賛予約待ちの代物として期待されている。
 あくまで留学生のお土産用だったのだが、人気があるのならば交渉の材料にせねばな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「なぜ俺が、貴様に我らの秘術を伝えなければならないのだ」

「一番最初の教え子に、まさか教わることになるなんてねー。よろしく、イアン先生!」

「……事実を知っていると、ここまで嫌悪を覚えるのか。まあいい、長老たちが決めたことは絶対だからな」

「うんうん。そういう割り切ったところ、僕は好きかな……って、危ない!」


 急に弓を取り出したイアンは、素早く弓を引いて矢を飛ばしてくる。
 魔眼スキルで視力を強化し、思考加速スキルで体感速度を引き延ばす。

 あとは、熟練度を得たことで体幹スキルが進化した体勢スキル、そして身体強化スキルで一気に動きをよくしてから……体を逸らして矢を避ける。


「チッ、弱体化したといっても異常者は異常者か……」

「ひ、ひどい言われようだよ。イアン先生、僕はまだ弓術スキルを持っていないんです。まずはそこから、教えてくれるかな?」

「まあいい、そういう約束だ。だが、お前はやはり異常者だ。普通、矢を向けてきた者に鞭撻を願うはずがないだろう」

「そういうものかな? でも、うちだとそれが普通だからね……強くなるためには、手段は選ばない子が多いんだよ」


 強さに貪欲な眷属が多いのは、かつて力が無かったからこそ何もできないまま終わった者が多いからだろう。

 力なき主張は通らない。
 逆に言えば、力があればどんな主義主張でも通すことができる。


「──イアン、僕は力が欲しい。だけど、特別にはなれないんだ。だからできることを全部やり抜いて、特別な力に負けないようになりたい。そうできるようにするための力を、僕に貸してほしいんだ」

「……だから何度も言っているだろう。俺はそれを教える。だが、貴様同様に上手くないことだけは覚えておけ」

「え、えっと……優しくしてね」

「……感謝しろ。今の言葉で、貴様にはどういった教育法がいいかよく理解した」


 最終的に、いろんなスキルがいっぱい手に入ればいいな……そんな思考に目を逸らすほど、その顔は歪んだ笑みを浮かべていた。



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