AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と戦力集め その14



「ディー!」

『♪』


 俺がその名を呼ぶと、ディーはこちらに向かって勢いよく駆け抜けてくる。
 武技やスキル、そして精霊術を駆使して構えを取り──受け止めた。

 ゴフッと息を漏らしたものの、体が吹き飛ぶなどのトラブルは生じない。
 俺はディーを──狼の姿をした召喚獣を、どうにか胸の中で抱き締められたのだ。


「その姿、狼の因子を使ったんだね」

『!』

「うんうん、いいんだよ。意思疎通はできるから、必要な姿を集めていこうね!」

『──ウォフッ!』


 ディーこと[ディバース]は、魔粘体状の魔物であって、魔粘体そのものではない。
 あくまでそれは仮の姿……というより、すべてに到達する原初の形と言えよう。

 Z商会の支店長曰く、千変万化な進化を遂げる魔粘体の性質を持って、退化を繰り返した特異種という点が、『進退流転』を冠した所以りゆうの可能性が高いんだとか。

 俺はその能力を飛躍的に向上させるべく、自身の種族スキル“生命之樹”を与えた。
 ありとあらゆる因子を束ね、その経験が蓄積しているこのスキル。

 それを発動させれば、どんな種族にだろうとなることができるのだ。
 しかしまあ、さすがに経験まで与えることはできなかった。

 ──なので条件として、それぞれの因子に一定量の経験値を注がねばならない。

 系統樹のように無限に枝分かれした一つずつに、経験値を注ぐことで因子が開花する。
 そのまま使っていけば進化できるようになるし、分岐進化を選んで行うことも可能だ。

 また、一定量の因子を取り込むことでもその条件は満たされる。
 開きたい生命の系統樹、その最下層に位置する存在を食らい続ければ因子が花開く。


「要するに、ディーは何にでもなれる! 特定の個体は……条件をさらに満たさないと難しいかもしれないけど、種族だけならそれこそ無限の可能性がある!」

『ウォン!』

「ふっふっふ……退化もできるから、後戻りもできる。ただし、系統樹が繋がっていないと別の種族に戻せなくなるからね。考えて、なる種族を決めるんだよ」


 要するにディーは、初期状態と狼の姿にしか現状ではなれなくなった。
 別の種族になりたいのならば、経験値で別種族との繋がりを生まなければならない。


「それじゃあ、とりあえず行こう。ディー、臭いで追いかけることはできる?」

『ウォフ!』

「なら……この臭いが強い方に行ってみて。それと、攻撃されても防御するだけでいい。悪い人たちじゃないからね」

『ウォン!』


 言い含めておけば、ディーがやらかすことはないだろう。
 せいぜい貴重な素材を使った矢を食べて、困らせてしまうぐらいかな?


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──まさか、貴様だったとは……いつもいつも、貴様というヤツは」

「ふっ、見た目だけに騙されないことだね。僕ほどのレベルに達すると、文字通りありとあらゆる姿を持っているんだよ! そして、それに相応しい相棒もね!」

『ウォンッ♪』

「『進退流転[ディヴァース]』。まさか、ユニークモンスターを使役しているとは……何から何まで、規格外な男だ。まあいい、そういうものだと理解しておこう」


 なんやかんや、いろいろとあったものだ。
 俺とディー(狼)が森の奥地──森人たちの隠れ里に向かうと、無数の矢がディーを襲いかかった。

 それは予期した通りすべて捕食され、彼らに衝撃を与える。
 狼が口ではない部分から、しかも沈むように捕食していれば恐怖するだろう。

 時間が経ち、手に負えないと分かった若い衆が呼びだしたのが──『月読森人《ルナエルフ》』であるイアンという青年。

 今のディーでは苦戦する相手なので、俺も協力して激闘を繰り広げたのち……俺の正体に気づいたイアンによって、今の状態に至ったわけだ。


「せっかくだし、確認をしにね。そっちに出している使いから報告は受けているよ? でも、やっぱり現場に行かないと生の感覚は伝わってこないからね……」

「貴様が来たと伝えたら、長老たちがどれだけ恐怖したと思っている。無茶な要求ばかりして、押し通した結果だ」

「うーん……あっちもあっちで、結構無理難題を突き付けてきたんだよ? さっさと進化させろとか、自分たちの縁者を優先的にとかそういうこと。だから、それを叶えてあげようとしただけなんだけど……」


 かつての森は閉鎖的で、祈念者の侵入を拒み迎撃を行っていた。
 なので俺は偽善として、道を通れるようにあの手この手で交渉をしてみたのだ。

 その結果、月の力を与えたら認めると言ってきて、それを達成したので祈念者たちが通れるようになったわけだ。

 あとはしばらく、交渉の結果送れるようになった使者を通じて情報を集め、時々逆に送られてくる森人たちを『月読森人』に進化できるように協力していた。


「すぐになりたい人は月の迷宮に入らせてあげて、進化できるようにしたんだけどな……何か不満だったのかな?」

「たしかに進化したのだろう。だが、誰も彼もが貴様に恐怖を抱いているのだぞ! 長老共も、いつ自分たちが同じことをさせられるのかと震えて当然だろうが!」

「ふーん、そういうものか……森人って、難しい生き方をしているんだね」

「誰のせいだと思っている……」


 少なくとも、俺ではなかろう。
 そんな発言を飲み下し、彼の案内で隠れ里の長老たちの下へ向かうのだった。



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