AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と魔本使用法 前篇
夢現空間 図書室
「──えっ? メルスさん、魔本の使い方を知らなかったんですか!?」
「普通に読んでいたら、勝手に取り込んでくれていたし。逆にそれ以外の使い方があったのか?」
「……呪いの魔本とか、影響力の強い魔本にしか起きませんからね、それ。まったく、さまざまな魔本を持って帰ってきたかと思ったら、まさか今さらそれを問われるとは」
今回の攻城戦イベントにて、魔王城からお土産にお持ち帰りしてきた魔本。
中には、鑑定スキルの熟練度を上げる魔本があったことで今回の問題が露見した。
図書室で魔本以外の本も含め、情報を精査してくれていたリュシル。
そこから魔本の話となり……今に至った。
「いいですか、魔本には種類があります。まずはこれ、世間一般で言うところの学習用の魔本です。メルスさんも知っての通り、これは読むことで使用者に力を授けます」
「うんうん、これは知ってる。他にも種類があるってのも──」
「ですが、それだけではありません。あくまでその使い方は正しい使い方というだけで、他にも使用方法があるのですよ。それが──『開読』と『解読』です」
「……うわぉ、新単語。なんだ、まさかのテコ入れが続いているよ」
しかも二つ、魔本にまで新しい力が用意されているとはな。
なんとなく効果は分かるのだが、とりあえず学者さんの話を聴くことに。
「まずは『開読』。こちらは魔本に記された能力を、一時的に発動した者に付与することができます。魔本が持つ魔力が尽きるまで使えますよ……回復に時間が掛かるので、使い過ぎには注意ですけど」
「武術スキルとかが書かれていても、同じように使えるのか? あと、スキルレベルはどうなっている? ついでに、魔法とかだった場合の適性とか──」
「ふふっ、ちゃんと答えますから焦らなくても大丈夫ですよ」
記せるものならば、スキルでも武技でも魔法でもなんでもできるらしい。
レベルは記した者の技量や本の素材、性能は使用者の適性によって劣化するそうだ。
魔本は使った素材で初期保有量と回復速度が変動し、それが尽きてしまえば読むことで熟練度が上がる方の機能も使えなくなる。
しかも、枯渇したら自然回復で満タンになるまで使用不可能。
唯一、魔本を書くことができる能力を持つ職業だけが回復させられるらしい。
「そして、私の<禁忌学者>は何を隠そう、その筆記能力を持っているのです!」
「おー……うん、凄いな」
「なんだか反応が薄いですけど……まあ、メルスさんですから仕方ありませんね。本来ならこれ、所有者を国で召し抱えるほどに希少なスキルなのですよ?」
「そりゃあ凄いんだろうけど、これまで使わずにいたからな。何より、眷属って読まなくてもスキルを共有できるし……俺はリュシルが欲しかったんであって、その能力とやらは別に…………って、大丈夫か?」
俺が偽善をするのは、ソイツが偽善心を揺さぶるからであって、ソイツに何かをしてほしいわけではない。
それと同じように、眷属に何かを強要するような関係にはなりたくないのだ。
なので、せっかく自慢したのに悪いがそう伝え……顔を真っ赤にさせてしまった。
「──創造者、開発者に対してそういった言動はお控えください。耐性が無いのです」
「……そんなこと、言ったか?」
「その気が無くとも、開発者には気を付けるよう心に留めてください」
そんな彼女を支えるのは、人の姿になれる傀児にして助手であるマシュー。
いつの間にかリュシルの背後に現れると、すっと彼女を抱える。
とりあえず図書室に置かれているソファに彼女を寝かせ、俺とマシューは少し離れた場所で話を続けることに。
「説明の続きは私が引き継ぎましょう。よろしいですね?」
「俺じゃなくてリュシルに聞いた方がいいと思うんだが」
「不甲斐ない主を支えるのもまた、助手としての役目です。それと、たまには開発者の立場を味わってみたいという心情ですね」
「なら、教わろう。よろしくお願いします、マシュー先生」
光の灯らない無機質な瞳だが、ほんの一瞬だけ灯った気がした。
気のせい……ではないだろうが、ツッコんでも無視されるだろうし、話に集中する。
「説明は『開読』で終わっていましたね? では、私からは『解読』についてご説明いたしましょう。『解読』とは大きく分けて、二パターンございます」
「あれ、まだ分岐するのか?」
「そういうものだと納得ください。一つ目はご存じの通り、内部に閲覧者を取り込み発動するタイプ。内部で条件を満たすことで脱出でき、内部に記されていたものを習得することができます。効果は恒常的です」
「それって、何度も使えるのか? これまで使った魔本は、俺の支配下に入ったとかでやり直すことはできないんだ。アレはクソ女神が創ったからなのか?」
俺がこれまで使ってきた魔本は、内部に魂魄が封じられており、条件を満たすまで何度でも世界がやり直しするというものだ。
内部で暴れ回り、主人公としてクソ女神が設定していた者たちを救うことで、物語は終了し、魔本の機能は停止した。
今ではただの転移装置と化しており、世界の中に居た人々は他の童話世界との関係性を深めている……これもこれで、さまざまなトラブルが生じたわけだが。
「では、そのご説明を行いましょう。ですがその前に……開発者が意識を取り戻したようなので、そちらを優先させていただきます」
「ああ、ダブル先生ポジションで頼むわ」
マシューが優先するのは、俺よりもリュシルなので別に構わない。
より詳しくこの辺りを聞くためにも、起きて説明に参加してもらわないと。
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