AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦終篇 その15



 ニィナの見つけてきた魔本。
 それは本人の申告通り、鑑定スキルを誰でも習得できるようにした代物だ。

 祈念者へのサービスなのかもしれない。
 粗悪品は回数制限がある中、貴重な素材がふんだんにあしらわれたそれは、まさかの好きなだけ使い放題な逸品。

 世が世なら、これを求めるためだけに戦争が起きるレベルだ……自由民で鑑定スキルを習得するのって、尋常ではない修練やかなり運がいいなどの要素が不可欠だからな。


「……とりあえず、貰っておこう」

「兄さん……」

「うん、たとえ僕が即習得できなくても、まだスキルを持っていないみんなが、必要とするもんね……ふふっ、おかしいな。僕って、みんなのリーダー的存在なはずなのに……」

「兄さん……!」


 なんだかニィナの手が動いている。
 うん、俺自身が四つん這いになり落ち込んでいるからか、頭に手が伸びているな。

 けど、ニィナは伸びた手をもう一方の手で押さえつけていた。
 さながら、とある痛い患者のようだが……ただその動き、ニィナだから可愛いです。


「ありがとう、ニィナ。あと、僕が恥ずかしくならない程度になら、別にやってくれても構わないんだよ」

「で、でも……」

「まあ、強要はしないよ。僕が落ち込むことなんて、しょっちゅうあるからね。はたしてニィナは、ずっと耐えられるかな?」


 前回と今回、それだけでも相当な数ニィナとの差にショックを受けている。
 もともとのスペックに圧倒的差が存在するので、当然と言えば当然なんだが……なぁ?

 どうにか読書スキルだけは獲得したが、暗記スキルをまだ習得できていない。
 ニィナは速読スキルも習得し、さらに知識量を増して魔本を新たに見つけているのに。

 俺もなんとかしていい本を見つけないと。
 普通の本なら歴史書とか迷宮に関する情報とか、いろいろと見つけた……が、魔本だけはまったく見つけられていない。


「どうしたものか……ニィナも頑張っているし、イベント期間中に見つけ出さないと」


 いちおう、入り口は二人で厳重に仕掛けを施しておいたので問題ない。
 俺も禁忌魔法をぶち込んだので、むしろ解除して入ってくる奴を見てみたいほどだ。


「だから見つけないと……って、ん?」


 そうして読書を続けていると、なんだか違和感のある本の配置に気づいてしまった。
 別の場所で見つけた本と、同シリーズの物が別の場所に並んでいるのだ。

 ただ雑多に並べているだけかもしれない。
 しかし、俺は目につく限り物は整頓しておくタイプなのだ。


「ニィナ……は、頑張っているし、僕だけでやってみるか。今さらだけど、ずいぶんと雑に並べられているんだな」


 著者名や作品名が記述されている本は、とりあえずそれを覚えておく。
 するとやる気を出して覚えようとしたからか、すぐに暗記スキルを習得する。

 ……どうせなら、必要な時に欲しかった。
 続いて並べていると整頓スキルを習得し、さらに片付けやすくなる。


「あー、過去の行動経験か。これは現実に居た時からだもんね」


 時々本屋で見かけたときも、勝手に並び替えるぐらいだ……たまに、作品名の読み方が難しいと間違えるときってあるよな?

 そんなこんなでやり続けた行動なので、普通よりも熟練度の向上速度が速い。
 物凄い速度で上がる整頓スキル……それはそれで、なんだか皮肉染みていた。


「けど、これで──完成っと!」

「兄さん、何をやっているの!?」

「何って整頓……の、はずなんだけどね」


 地鳴りが起きる書斎。
 定番ではあるが、まさか魔王の居城でその現象が起きるとは──揺れが収まったとき、一本の道が生みだされていた。

 思い返せば、たしかによくある話だ……創作物よりもたまに創作物らしくなるこの世界で、しかも書斎に仕掛けなんて用意しなさそうな魔王城になんでそんな物があるんだか。

 本を入れ替えて特定の並べ方にする。
 どうやらそれが功を奏したようで、見事に俺が活躍できた。


「兄さん……どうする? 奥に危険な反応は無いと思うけど」

「なら、行ってみようかな? ただ、ニィナはここで待機していてほしい」

「兄さん!?」

「そうだよ、僕はニィナの兄さんだ。妹が危険な目に遭わないように万全の策を用意する義務がある。ただ、ちょっと心配だから魔法だけでも掛けてほしい」


 こういうときの俺は止まらない。
 ニィナ……というか全眷属がそこは諦めており、サポートに徹してくれる。

 逆にそれで俺の罪悪感を煽っている奴もいるのだが……うんまあ、成功しているぞ。
 そんなこんなでニィナも少々目を潤ませながらも、必死に魔法を掛けてくれた。


「何もなかったらすぐに帰ってくるよ。それよりニィナは、もしかしたらに備えておいてほしいんだ」

「もしかしたら?」

「仕掛けが一つとは限らないし、この仕掛けが作動したことが気づかれたかもしれない。そういう一つひとつの可能性に、ニィナ自身で準備をしてほしい」

「うん、分かったよ兄さん」


 実際のところ、俺が考えるよりニィナ独りでアイデアを練った方が優秀な意見が出る。
 俺が居ると気を使っちゃうイイ子なので、退場して独りになってもらうわけだ。

 ……もちろん、眷属が状況を見てくれているので最終防衛ラインはバッチリ。
 もしも魔王が来るなんてことになれば、眷属たちにフルボッコにされるだろう。


「それじゃあ、行ってくるよ」

「兄さん、気を付けてね!」


 そういうわけで、俺は魔王城というラストダンジョンに作られた、秘密の部屋の中へ向かうのだった。



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