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山田 武

偽善者と攻城戦終篇 その14



 魔術はいちおう、祈念者でも習得できるもの……だが、習得者が極めて少ない。
 条件が面倒なので、適性を後天的に得られる祈念者であれば魔法の方が便利だから。

 とはいえ、魔術の利点も存在する。
 属性で分かれておらず、一度使ってしまえばあらゆる──魔法で言うところの──属性が使いたい放題になるのだから。


「まずは──“構成解析アナライズ”と“過程演算シュミレート”」


 結界に触れ、魔力を通すことで構築されたイベント用の結界の構造を調べ上げる。
 それを脳裏で組み上げさせ、どうすれば突破できるかを瞬時に割り出す。

 先ほど連続使用した“擬短転移《フラッシュブリンク》”は、移動という概念を省略するがそこに壁がある以上使用不可能。

 転移用の魔術も存在するが、今回は遠距離の転移が禁止されているため使えない。
 強引な術式破壊という方法もあるが、魔王に目をつけられたら厄介なのでこれは禁止。

 ならば、少々繊細な操作が必要だが……やるしかないか。


「──“魔力精製リファイン”、“伝導宣糸イメージライン”」


 膨大な魔力を、魔術を介することで強制的に精錬する。
 そしてその魔力を極細の糸にして、結界を構成する術式の中に潜り込ませた。


「こうしてああして、そうしていけば……ああなって、こうなってそうなんて……」

「頑張って、兄さん」

「うん……あとは一時的に道を使えるようにして──よし、“異空ノ扉ワープゲート”!」


 本来は転移用の扉を生み出す魔術だが、今回は結界に作った穴を通るために少々調整。
 糸でハッキングを済ませたので、それでバレることはおそらくない。

 さながら通り抜けられるフープのように用いて、俺とニィナは結界を潜る。


「“不可侵ノ密偵ハイドエンド・シーク”で隠して……よし、ニィナ行こう!」

「どんな場所なんだろう?」

「入ってからのお楽しみだね」


 魔術で作った道を通ると、そこは巨大な魔物用に広げられた通路。
 周囲に魔物はいないが、それなりに強そうな気配が至る所で感じられた。

 念のため、使えるだけの隠蔽系のスキルを重ねて使ってから、改めて俺たちは行動を開始する。


「まずは目的地を見つけないと。ただ、ニィナにはこのお城のマッピングをしてほしい」

「うん──“空間把握グラスプ”、“地図マッピング”」

「僕は気配を探るよ。魔術だから、どこまで届くか分からないけど──“網索モウサク”」


 広げた魔力の網に、意識を注げば周囲の索敵をすることが可能だ。
 ニィナが頑張って地図を作ってくれている以上、兄として俺も頑張らないと。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 魔物と遭遇しそうになったら、囮などは使わず必死に息を殺して隠れる。
 命懸けだからかスキルの習得速度も普段以上に高く、次々と習得していく。


「──ニィナは」

「に、兄さんだって……えっと、便利なスキルを習得していたよね?」

「危機感知スキルのこと? 要するに、僕は死ぬことが多かったってことだよね? ニィナはいろんなスキルを満遍なく習得しているのに……僕ってやつは」

「兄さん……」


 俺が持っているのは、格闘術と無魔法を除けばほとんどが犯罪に繋がりそうなもの。
 隠れて逃げて奪って……うん、かなり非合法な感じに染まっているよ。


「ふぅ……今は置いておくよ。それより、この部屋でやるべきことをやらないと」

「うん、目を通すだけでいいんだよね?」


 俺たちが居るのは、目的にしていた書物が大量に置かれた部屋だ。
 未知の言語で書かれていようと、あとで誰かが解析してくれるだろう。

 俺の視界は常に保存されているし、ニィナの見たモノもあとで抽出できる。
 ただ、その記憶の中の本を翻訳する際は、スキルではなく自前の知識が必須になるが。


「いちおうの僕は異世界人でもあるんだし、言語理解スキルぐらいは搭載してくれても良かったんじゃないかと思うけどね。さて、すぐに始めよう」

「読書スキル、手に入るといいね」

「ついでに暗記と速読スキルも習得できたらいいんだけど……読むだけでスキルが貰える本とか、探したら面白そうだよ」


 スキル結晶がもっとも瞬時にスキルを得られる手段ではあるが、二番目ぐらいに楽してスキルを取る方法……それが読書である。

 特定のスキルを使うことで、指定したスキルの熟練度を封じた本を生み出せるのだ。
 適性のある奴がそれを読めばスキルを取れるし、そうじゃなくても熟練度は貰える。

 この際、読書系のスキルを持っていると貰える熟練度が増加するのだ。
 なので先に読書スキルを習得して、読む効率を上げるスキルもいっしょに欲しい。


「──あっ、取れたよ兄さん」

「…………」

「読書スキルと暗記スキル。うん、前に本を読んでいた時も習得できたから、その経験のお陰かもしれない」

「……僕、いっぱい読んだのに」


 俺だって読書に適した能力で大量に本を並べ、そのすべてを暗記するというチートなことをしていたはずだ。

 あれか、本への冒涜か?
 少なくとも一冊ずつ読まないとダメとかいう、面倒臭い制限でもあるのかよ。


「まあでも、これだけあるんだから僕でもいずれちゃんとスキルが手に入──」

「うわっ、今度は言語理解スキル? あれ、これってもしかして鑑定スキル用の魔本なんじゃ……兄さん、凄いよ!」

「うぅ……」


 今回のイベント、なんだかとてつもない敗北感を覚えるな。
 しかも身内、なんだかなぁ……。



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