AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦終篇 その06



 攻城戦イベントは時間制限がある。
 時間中はどれだけPKを行っても、それは許されてしまう。

 いちおうでも、目の前のツンドラ少女は合法PK──対犯罪者限定──以外はしたことのない女の子。

 今さら腹が立つ男のためだけに、延長戦を申し込んだりはしない。
 そのはずなんだけどな……。


「あの時間が止まる魔導を使いなさいよ!」

「魔導は使えない縛りだからな」

「チッ、使えないわね本当に……まだ完成してないのに」

「おいおい、さすがに時間干渉だけは止めた方がいいぞ。死に戻りできる祈念者でも、デメリットがあるぐらいだからな」


 時間とは不干渉のもので、その影響を他者に及ぼすことは固く禁じられている。
 俺の場合、自分の世界内でという制約が設けられていたからこそ、できたことだ。

 しかしアルカは、このままだとそれを無視した魔法を完成させてしまうだろう。
 できないとは言わない……あらゆる不可能が、これまで可能になってきたのだから。


「ふんっ、分かっているわよ……あの感覚を忘れない内に、完璧にものにしないと」

「それは今じゃないぞ。決着はまだ、これからだし──『止まぬ溶雨』」

「人のものを……請求するわよ」

「なんだ、欲しいものがあるならそう言ってくれればいいのに。俺を倒せたなら、大抵のものならくれてやるよ──『凍える白雷』」


 現在、俺とアルカは『憤怒纏魔』というオリジナル魔法の効果で、発動した魔力攻撃すべてに火属性を付与している。

 ただし、それは【憤怒】の一端を触媒としたもの。
 アルカは金髪青目だったそれらを真紅に染め上げ、がむしゃらに魔法を放つ。

 対して俺はいつも通り、黒目とやや白髪の多い黒髪という至ってモブな姿。
 纏う礼服だけは違和感を覚えられるかもしれないが、あとは本当にただの一般人だ。

 そんな俺が放つのは、天才ツンドラ少女アルカが作り上げたオリジナルの魔法。
 白い雷……のはずだった真紅の雷が迸り、空気を通してアルカを襲う。


「なら──[波打つ時雨]!」

「本当、凄いよな……それ、[傀児の書]」


 雷を雨のように放たれた水玉が阻み、そのまま地面の誘導させる。
 そのまま地面に命中し──激しく炎が燃え盛る中、俺は異なるページを開く。

 飛び出す大量の傀児の数々。
 それぞれ火属性への耐性を与えており、少しだけアルカの魔法にも耐えられる。

 その間に、[魔法の書]から高度な魔法陣が刻まれたページを選択。
 縛りである魔力関係のスキルの中から、精度の高い操作能力で魔法を起動させる。


「[魔法の書]──“滅葬紫焔パープルブレイズ”」

「させないわよ──『不進の豪雪』!」

「魔法を減衰させる魔法か……うぅ、寒い。耐寒魔法は……あれ、無いな」


 魔法を探してみても、求めるような魔法を発揮するモノは存在しなかった。
 よくよく考えてみれば、スキルがあるからとすっかり忘れてしまう。


「鑑定ならまだしも、そっちは別にいいやって考えてたな。うん、ポーションもあるから忘れてたよ」

「……ずいぶんと余裕ね」

「そりゃあ──もう終わったし」

「ッ!? しまっ──」


 俺は時間を確認しながら戦っていた。
 一方、いかにアルカとて思考詠唱を使いながらの戦闘、彼女は時間を気にする意識も忘れて俺と戦ってくれたわけだ。


≪──じゅうにかいめのこうじょうせんがしゅうりょうしました。みなさん、おつかれさまでした。ただいまをもって、つうじょうのこうじょうせんイベントはしゅうりょうとなります、よくがんばりました≫

≪しょうごにおこなわれるじゅうさんかいめのこうじょうせんは、これまでとはことなりぜんプレイヤーがきょうりょくしていどむことになります。しょうさいはしょうご、さいしゅうせんのさいにおしらせします≫


 そして、GM06ことリウのアナウンスが終わりを告げた。
 アルカも仕方なく魔法を解除して、戦闘の意志がないことを示す。


「また殺し損ねた……!」

「そんな物騒なこと言うなよ。アルカ、早く次の準備をしようぜ──“空間収納ボックス”。魔力回復のポーションはサービスだ」

「ふーん、なかなか気が利いているわね」


 すぐさま飲む……のではなく、割って体にぶちまけるアルカ。
 中に変なものを盛ってあるなら、飲むより浴びる方が対応しやすくはあるけどな。


「……って、なんで飲んでないのに全回復しているのよ。私の魔力が全回復って、秘薬でも今は無理よ?」

「俺の特製ポーションだからな。欲しいときは、俺の願いを叶えてくれたら一定量贈らせてもらおう。有料での販売もOK」

「……言い値で買うわよ」

「はい、毎度あり♪」


 元【錬金神】で【生産神】な俺の作るポーションなので、性能は抜群である。
 ちなみに材料は水と葉っぱ(ユラル協力)だけ、非常にお安く作れます。

 そんなポーションを一ダース購入してくれたお大臣様。
 祈念者の権能[トレード]を使って、すぐさま取引を済ませる。


「本当に凄いわね。どうせぼったくってるんでしょうけど、この程度ならどうってことないわよ」

「……俺もそうだけど、現実換算してみろ。若干、後悔することになるぞ」

「…………無性に腹が立ってきたわ。やっぱりもう一発ぐらい」


 怒りが再発したアルカをどうにか宥め、俺たちは解散するのだった。



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