AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦終篇 その02



「どうですか?」

「……ああ、凄かったな」

「いえ、そうではありません。膝の温もりに関する話ですよ」

「……うーん、冷たい?」


 機人族の肉体なため、スキルでも使わない限りは熱を帯びることはない。
 膝の上の感触と言われても……うん、ただ冷たさと硬さしか感じないんだよな。


「一段階、位階ランクが上がるだけで強さが全然違うんだな。というか、あの魔物を普通に倒せる祈念者って何人いるんだろう?」

「選ばれし者たちや眷属などだけでなく、固有スキルを持つ集団であれば可能です。祈念者は条件を満たすことさえできれば、成長し続けることができますので」

「位階は13。引導個体、つまり何かしらの存在に干渉された、魔物。通常の進化系統樹から外れた、厄介な性質を持った奴ら……何に導かれたのかさっぱりなんだけど」

「かつての魔王に導かれた魔物を、回収していたようです。悪性を持つ個体が多く、自分たちの配下として使えるものを予め集めたそうです……情報源はリオン様ですよ」


 本神リオンもその間接的にその仕事へ関わっていたようなので、知っていたんだとか。
 神の邪気に触れさせるだけで、魔物は理性の代わりに力を得るんだよな。


「道理で出てきた魔物の大半が、堕とか邪とかそういう単語ばっかりだったんだな。他の運営神がやった魔物はいるのか?」

「いませんね。リソースの無駄遣いに用いるため、難癖をつけてやらされた……と愚痴で仰っていました」

「本当に、どうしようもないな」


 人……いや、神任せにする神も、文句を言いながらも業務は遂行する、そんな心優しい邪神も変えようがないわけだ。


「そんなリオンの邪気を浴びて強化された魔物も、うちの眷属に掛かれば雑魚扱い。ずいぶんと強くなったな」

「大半の眷属は、素でそのスペックですけれど。パワーバランス、おかしいと思います」

「それは俺も思う。けど、ならざるを得ない状況ってのもあったんだ。チートの一言で纏めるのはダメなんだろうな」


 それは俺にしか該当しない言葉だ。
 ……っと、この考えはネガティブ発言に繋がりそうだから、カットカット。


「カナタ様も転移チートだと仰っていましたが? アイリス様も転生チートだと」

「カナタはともかく、アイリスに関しては正当な能力だろ。転生なんだし、自分からしたくてしたわけじゃない。カナタだって……いちおう、失うものはあったんだからな」

「代わりに咲き誇るモノがございましたね」


 建った塔に関しては置いておこう。
 二人とも、対価があったうえでチートと自分たちが称する能力を得ている。

 だが、俺はどうだろうか?
 精神に変化が生じないというメリットでもありデメリットでもあるナニカはあるが、それ以外はチートの権化な能力ばかり。


「これも考えない方がいいか?」

「現実逃避をしているわけでもないのですから、気になされずとも良いかと。わたしたちこそが、そんなメルス様によって救われた証明。それこそがメルス様への代償かと」

「……代償、なのか?」

「一人ひとりが爆弾ですよ? ただの主人公候補では、御しきることなどできません」


 自分で言っていいのか? と思うようなことを言い出すアン。
 実際、眷属の中には戦闘狂やら知的生命体せいぶつ不信とかがいるからな。

 もちろん、俺が今いっしょに居られる一因には、現在は封印している“感情共有”によるものが大きいことは分かっているけど。

 俺自身の魅力ってのは、正直無いと思う。
 この世界の場合、容姿も初期設定の補正でややマシになっているし……現実のモブは、まったくモテないのです。


「メルス様、この手の話題になるととことんネガティブになりますね。スキルが抑制してくれるのでは?」

「調整を食らうその手前、ギリギリの変化として判断されているみたいでな……自己嫌悪するときに限って、何も起こらない」

「逆に器用ではありませんか?」


 ごもっともで。
 なお、眷属とイチャコラしようと考えた場合、それだけでリセットを食らいます。

 変化しやすい感情があるのだ……特に、内包されているスキルと同じ名を持つ感情は、かなり強引に修正を受ける場合がある。


「──考えてもどうしようもないか。そろそろ話を戻そうか」

「はい。これからのご予定ですが、いかがなされますか?」

「うーん……眷属が一気に減った以上、防衛が絶望的だな。補える分はどうにかするとして、縛りもやり直しだな。このままだと、俺の生存は可能だけど、この都市が崩れる……なんてことになりそうだ」


 魔物の位階がだいぶ高くなっている以上、ニューなクリアー以上に強力な一撃をぶっ放してくるような個体も存在する。

 身体スキル、そしていちおうアンのスキルが使用可能な縛りではあるが、あまり大量の魔物を相手取ることはできない。

 防衛用の兵器やユニットも、かなり強力なものが使用可能だが……そういうのを封じる奴も、前回登場していたようだ。


「わたしも残念なことに、戦闘に参加してしまえば反感を買ってしまいます。バックアップの方に専念させてもらおうかと」

「それで構わないぞ。さて……うーん、どうしたらいいだろうか?」


 通常の攻城戦だと、これが最後なんだ。
 それゆえに狙おうとしてくる奴もいるはずだし……仕方ない、あれを選ぶしかないか。



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