AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦後篇 その06



「というわけで、今からそっちに行く。全力で防衛してくれ」

『え、えっと……師匠は何を言っているのかな? 回線が悪いのかな? なんだか世界を滅ぼす宣言をされた気がする』

「ん? 聞こえなかったのか。もう一回言うぞ、今からそっちに行く。全力で防衛してくれ──眷属といっしょにな」

『だから最後! 師匠だけならどうにかなるかもしれないけど、ほかの人はぜーったいに無理だから!』


 クリスタルの通信機能を用いて、彼女たちの占領している場所に連絡を取る。
 軽い会話をしてから、続いてこの話を持ち出したのだが……うん、この反応だ。

 というか、俺だけなら対処できるとか言われたんだが……事実ですけども。
 それはそれで、(肩書上の)師匠としては少々落ち込みたくなる。


「ユウ、考えてみてくれ。ほかの場所に迷惑がかかるなんてことにはなってほしくない。そうなったら、選択肢は一つだろう? 安心して戦うことのできる場所に、送り込むしかない……分かってくれ」

『分かるかー! 師匠、師匠が言っていることは要するに、百のために一を殺すとかそういう感じのヤツだよ! 三原則を守らせるために、見本とばかりに核を撃つようなものだからね!』

「おいおい、核とはずいぶんと失礼な。それぐらいのこと、今のアルカとノロジーなら余裕でぶっ放せるだろう?」

『そ、それはそうだけど……で、でも、そんなレベルじゃないじゃん!』


 ごもっともで。
 最悪、核兵器よりも非道な攻撃をぶちまける眷属もいるからな。

 もちろん、このままでは眷属が楽しめないということは重々承知している。
 なので、とある提案をしてみよう──


「能力値、好きなだけ解放できるようにするなら……どうだ?」

『……それでも勝てそうはないんだけど。少しぐらいは、時間を稼げるのかな?』


 本来、眷属たちには俺の能力値の一部が補正として分け与えられる。
 しかし、その数値があまりに異常なものになったので……現在はその恩恵を停止した。

 だがまあ、眷属同士の戦いならば話は別となるだろう。
 実際、能力値を同じにして戦いたいとかそういう場合は、補正で調整しているし。


「これはある意味、そこにいる眷属への命令でもあるな。それと同時に、依頼でもある」

『つまり、報酬があるってこと?』

「なんかさ、アイテムばっかり渡していてほしいものも無くなってないか?」

『たしかに……それはまあ、あとでみんなと相談するよ』


 なかなかしない命令だからか、とりあえず受け入れてくれる。
 しかしまあ、本当にアイテムは結構渡しているからな……都合のいい奴みたいだな。


「──ほい。眷属がそっちの占領地に入った時から、能力値が解放されるようにしたぞ。体がついていくかどうか微妙だし、あとで絶対に戦わないことを条件に送るから、そのときに調整しておいてくれ」

『えっ、もう来ちゃうの!?』

「親切にも、魔物を退治しておいてくれるらしいぞ。いやー、よかったな!」

『……魔物にも守らせてたんだけど。あんまり嬉しくないかな?』


 うちもやっているからこそ、それは分かったうえでの話だ。
 しかしながら、いきなり眷属が攻めてくるのと比べれば……容易い代償である。


「クレームは後で聞くし、別にクリスタルを破壊したいわけでもない。ただ、眷属の息抜きがしたいんだよ……頼む、ユウ。協力してほしい」

『そ、そこまで言われれば仕方ないね! 分かった、僕たちもやれる範囲で頑張るよ!』

「ありがとう……じゃあ、よろしくな。この後は忙しくなるぞ、眷属の装備も万全にしておかないといけないし!」

『え゛っ!? ちょ、ちょっと待っ──!』


 クレームが来そうだったので、通信を切断して会話を終える。
 即座に向こうから連絡コールバックが来るが、無視して聞かなかったことにしておく。


「──というわけだな」

「お気づきになっていたのですね、わが君」


 そこに立っているのは、白黒の髪をした少女……その頭部では黒くて丸い獣耳がぴょこぴょこと動いている。

 聖武具の武具っ娘の中でも珍しく、獣耳少女でもあるチーだ。


「まあな。チー、そういうわけだから眷属全員で最南端の領域を攻めるぞ」

「分かりました。ですが……防衛する戦力も必要ですね? ならばわたくしは、この場からの支援に徹します」

「そうだな……ここからでも戦えるヤツ、また戦う気のない奴には防衛をしてもらう方がいいか。無理強いするよりは、そっちの方が楽だろうし」


 彼女は【救恤】の武具っ娘。
 その能力はあらゆる場所、どれだけ離れていても救いの手を伸ばす──つまり射程制限がいっさいない弓の力。

 なお、祈念者の眷属だとオブリが【救恤】の担い手(代理)となっている。
 前に聞いた話だと、チーっぽい人と眷属にしたときに接触していたらしい。


「オブリとは会わなくていいのか?」

「……会う気はない、といえば嘘になりますね。ですが、彼女が仮初の【救恤】を持ち続けるのであれば、いずれ繋ぐことができるかもしれません。できるならば、そちらに期待しているのです」

「えっと、つまり適性を上げれば例の場所とやらでまた会えると?」

「さすがはわが君、その通りですわ。わたくしたち武具っ娘の自我は、彼女たちと条件を満たせば接続することが可能です」


 その条件が、適正というか親和性……要するに与えたスキル『らしさ』を身に着けることなんだとか。

 あくまでそれは<美徳>系の話、<大罪>系は違うらしいが……まあ、アルカとかならその条件でもできたかもしれない。


「けど、俺は誰とも繋がらなかったな」

「わが君にはそもそも、自我が直接寄り添いますので。そして、影響を及ぼそうにも、より高位の存在が阻みますので不可能ですの」

「……良くも悪くも、{感情}は謎が多いってことか」

「ええ。ですが、そのお陰でわたしくたちはわが君と出会えました……」


 そう、{感情}が無ければ彼女たちと出会うこと……何より、ここまでの偽善はできていなかっただろう。

 一度調べてみたのだ、純粋な『俺』の場合どの{感情}系のスキルに適性を持つかを。
 その結果は当然のものだった……普通を語る者モブに、想いの極致オンリーワン届かにあわない。



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