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山田 武

偽善者と攻城戦中篇 その18


 ミントはカランド平原の中央で待機し、侵入者を待ち受ける。
 素材を取りに来るくらいなら、と寛大な眼で視ることにしている……観察もしたいし。

 だが、都市に侵入しようとするのならば、ミントによって暗殺される。
 手は抜いてもらうので、生き残れた者だけが都市に辿り着き──別の方法で死ぬ。

 それも耐えられたら……考えるか。
 別に皆殺しにしたいわけじゃないので、飲み物の一杯ぐらいは提供してやろう。
 もちろん、中身は安楽死用の毒だけど。


「さて、そろそろ俺自身が探しに行くとしよう……祭りも半分を過ぎたわけだし」


 魔道具を渡して【暗殺王】に捜させていたのは、GMたちの潜む空間へと繋がる門だ。
 前回は俺を嫌がるGM02だったため、何もしなかったが……今回はどうだろうか?

 ちなみにその魔道具の効果は、異空間が存在する際に生じる歪みを探すというもの。
 彼女は知らないが、次元属性の品なので、彼女が纏う装備以上に価値のある魔道具だ。

 だが、それで見つけられないならば仕方がない……多少強引であろうとも、その場所を見つけだすのみ。
 その証明を、今礼装を掴んで行う──


「明ならざる、未知なる道を進みし者。明かし証して覆す。我求めるは暴きし既知、再び逆し、理を読み解け。生まれし意思を振るいて、我が意志を叶えよ──“不明魂魄ソウルアンノウン”!」


 昏く染まっていた礼装の色が、一瞬発光したと思えば変わっていく。
 その色は灰、そして時々一部が微妙に変色する……そんな意味不明な礼装だ。


《意味不明とは失礼な。それこそが、メルス様とわたしの愛の結晶ではございませんか。あっ、これはわたしの意思による発言です》

「……ツッコミに困るから無視するぞ。頼みたいことがある」

《畏まりました。見つからないならば、見つけてしまえばいい。メルス様の行動記録を参照して、座標指定を設定します》

「俺独りじゃできないからな……任せるよ」


 だいぶ前の水着イベントの際、当時のGM代表者であるフーカが用意していた扉。
 その先へ足を踏み入れていたため、座標は知っているのだ。

 問題は、普通の方法じゃそれが不明な点。
 空間魔法には座標を登録できるものがあって、長距離の移動を行う場合は登録した場所へ向かうのだが……そこは登録不可能だ。

 ──だがそれは常人ならば、である。
 アンは種族[不明]が創り上げた、俺を助けるための補助人格。

 俺の行動すべてを把握している彼女だからこそ、それが可能となる。
 つまりは、逐一座標を把握して過去に居た場所を特定するという裏技だ。

 なお、礼装は俺とアンの結び付きを高めるために着用していた。
 そのため、俺の思考は読み取りやすくなるし、アンの想いも分かりやすくなっている。


《──メルス様の『アンが可愛い』という考えが筒抜けで、わたしの『メルス様大好き』というラブラブな感情がはっきり伝わっているということですね》

「一部は誤解だが……まあ、概ねそうだな」

《なお、礼装を纏っている間は、他の眷属にも通常時のわたしレベルでメルス様の考えが伝わるようになります。もちろん、メルス様も知ってのうえで纏っていますが》

「……断片とはいえ、魂魄同士が接続しているわけだしな。あるかどうかも分からない、メリットでありデメリットだな」


 サプライズを隠している時なんかは、絶対に礼装を使えないのだ。
 あと、眷属が隠していることを無理に暴くため……なんていうのも当然アウト。

 これはあくまでも、眷属との繋がりを大切にするための礼装なのだから。


《そう思っているのは、メルス様とほんのごく一部だけですが……解析が完了しました》

「そうか、ご苦労……って、え゛? いや、それってどういう意味──」

《では、メルス様。次元魔法の使用を解放しました。どうか、御武運を》

「つ、ツッコみが……もう、あとで訊かせてもらうからな──“次元渡航ワープ”!」


 あらゆる場所へ、理論上は向かうことができるこの魔法。
 たとえ妨害が施されている場所だろうと、座標さえ分かれば向かうことができる。

 ──つまり、嫌がられても会いに行けるというわけだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……あれ、二人?」

「「──ッ!?」」

「お姉さんの方が……02さんか? で、そちらのお嬢さんが──」

「06ともうします。メルスおにいさま、これまでおあいできなかったこと、おわびもうしあげます」


 06、つまりは末っ子のGMだ。
 濡羽色の髪と瞳でこちらを見ながら、少女は礼儀正しくこちらに頭を下げてくる。

 そして02、つまり次女のGMだが……物凄く不機嫌そうにこちらを睨みつけており、今にも俺と06の間に割り込んできそう──ちょうど今、割り込んできた。


「君がメルスだね……よくもぼくの姉妹たちに毒牙を向けてくれたな」

「……凄く頷きづらいんだが、メルスが俺という質問にはイエスだ」

「よくも……だから、ぼくは顔を合わせたくなかったんだ。やっぱり納得できない!」


 そうして指を鳴らす02。
 すると、俺がかつて水着イベントで門を訪れたときに見つけた、大量の天使たち。

 門そのものに仕掛けが有ったのかと思ったが……どうやら、GMにもそれを行う権限が与えられていたらしい。


「一万の兵を以って、君を倒す!」

「ちょうどいい機会だ。レイの妹でアオイとフーカ、シンクの姉であるお前にも挨拶させてもらおうか──姉妹を俺にくださいって」

「──ッ! 許すはずがないだろう!!」


 というわけで、俺と02によるGM姉妹争奪戦が始まる。
 ……なお、06はどこかに連絡をしている様子だ。

 なんとなく、その先の展開が分かるよな。



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