AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦中篇 その03



「俺も別に聖人じゃないから、全部を助ける必要は無いと思う。それに、前からずっとお前が言ってる……『主人公候補』? とか言う奴らも活躍しているわけだし」

「らしいなぁ。前のレイドラリーの時も、中盤で大活躍だったんだがな」

「……終盤はアルカが無双していただろう。お前はお前で、なんだかわけのわからないことになっていたみたいだが」


 ニィナ……いや、当時は『ザ・グロウス』との戦闘をやっていたからな。
 いずれ祈念者にも、同じことができるのかもしれないけど……まだ無理だろう。

 かつての俺、そして祈念者たちが有していて俺には無いモノ──職業の恩恵。

 就けば就くほど強くなれる、この世界の職業システムには制限が存在しない。
 レベルによる制限も条件を満たせば解除されるし、適正が無くとも強引に就ける。

 ただし、それまでに就いた職業の合計レベルやその適性率によって成長率が著しく落ちるし、職業同士の組み合わせによっては本来の性能を出せなくなる場合もあるらしい。

 ……うん、俺は【初心者】や【経験者】の効果もあって、いっさい感じていなかった。


「ナックル、お前の職業の合計レベルっていくつだ?」

「……お前も言えよ? 俺は約500だ。先に言っておくけど、普通は種族レベルの二倍あるのは優秀な方なんだからな」

「じゃあ、俺っていったい……ああ、0だ」

「「0!?」」


 ナックル、そしてアヤメさんが驚く。
 彼には俺の身の内をだいぶ話していたが、邪縛の詳細な内容に関してはあんまり説明していなかったんだよな。

 嫌われる呪い──<畏怖嫌厭>だけは事細やかに愚痴ったが、それ以外は適当に縛りプレイとか言ったっけ?


「無職ってのは聞いてたが……完全にリセットされていたのか」

「正確には、職業欄が常に空白状態で固定されるみたいだ。だから、たとえ無職状態が就職条件だったとしても、そこから新しい職に就けるわけでもないらしい」

「無職が条件……あるかもな。まあ、その分種族レベルは上がっているから、普通に戦うことはできるんだけど」

「いくつ……いや、言わなくていい! 世の中には、知らない方が幸せなこともあるって俺は知っている!」


 わりと失礼だな……コイツ。
 ちなみに、本来のレベル限界である250は軽く超えているぞ。


「俺は【拳聖】に運よく就けたから、最初から職業補正もあった。だから同じ格闘系の職業のレベルも上げやすかったし、だいぶ優遇されていたんだよな……」

「俺は全部、異常な速度で上がっていたからよく分からないな。アヤメさん、非戦闘職の成長速度ってどんな感じなんだ?」

「そうですね……戦闘職よりはすぐに上がります。私の職業は補助に特化させておりますので、経験値の取得条件はほぼ同じです。ですので、比較的上がりやすい方ですよ」

「なるほど、参考にさせてもらう」


 彼女は(助手)や(秘書)、(会計士)などの職業に就いているようなので、そうした職業は同時に上げられるのだろう。

 経験値の貰い方が同じだと、その分分散してしまい上がりづらいと思うかもしれないだろうが……この場合、貰える経験値がその分増えるので問題なく分配される。


「……さて、そろそろ行くかな」

「どこに行くんだ?」

「始まりの町はお前らが居るし、アイツらの居る場所に行ったら……間違いなく迎撃されてお陀仏だろう。設定すれば、同盟相手でも味方でも当てられるし」

「本当、いろいろとダメなヤツだな」


 ダメ呼ばわりされる筋合いはないはずなんだが、チラリと見たアヤメさんもなぜかこちらと視線を合わせてくれない。

 つまりは肯定、俺に何かしらの問題があるということになるわけで……えっ、本当に何がダメなんだ?


  ◆   □   ◆   □   ◆


「それで魔王様、どこに向かうのかしら?」

「『主人公候補』でも探すか。視ただけじゃ模倣できなかったし、直接調べに行った方がいい気がしてきた」

「そう、ならご一緒させてもらうわ」


 メイド服を着た女性を連れる、見ただけで生理的な拒否反応を示す男の登場。
 町の中を歩く祈念者たちは、皆が皆それを忌々しい目で……軽蔑した瞳で見てくる。


「……そのスキル、本当に凄いわね。進化させてもくっついてきたんでしょ?」

「俺もそう思う。効果の方向性が若干ズレたみたいだけど、結局嫌われること自体はあんまり変わってないみたいだし。まあ、どっちにしても眷属と居ればこうなるんだ、その程度が違うだけだろう?」

「軽すぎじゃないの? 魔王様、いっそのことサクッと殺っちゃわない?」

「……メイドって、そういうところまで対応してくれるモノだっけ? いやまあ、たしかにそんな気もするけど。とりあえず、答えはNOで。仕方ないことだしな」


 見た目は普人なリッカだが、その実相手を惑わすことに特化した能力を持っていた。
 それに加え、今ではメイドの力を獲得している……文章からは凄さを感じないな。

 家事、介護、そして──暗殺。
 何でもござれなファンタジー的なメイド、リッカが身に付けたのはそちらの方だ。

 ……あくまで主に忠実ってことで、強引な動きをしないのは助かるよ。



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