AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦前篇 その11



「まあ、土下座の練習は脳内でやっておくとして……今は観戦だな」


 幸いにして、並列思考や高速思考は身体系のスキルなので使うことができる。
 アルカから許されるために行う土下座するプランは、そちらで練っておくことに。

 クリスタル越しに映る彼女は、燃え盛るような真っ赤な瞳で敵を睨みつけている。
 それは、彼女の溜め込んだ【憤怒】を表すように……グツグツと煮え滾っていた。


『──『炎纏氷塊コールドフレア』』


 そんな彼女が最初に放った魔法は、その心情を表すようなもの。
 杖の先から霧が生まれたかと思えば……魔物たちがいっせいに凍り付いていく。

 ホ°ケモンで見たことあるような名前なのだが、溜めの待ちターンも無く一瞬で発動した魔法、だがたしかな威力を発揮していた。


『……聞こえているかしら? というか、絶対に聞いているわよね? だからそのうえで言っておくわよ──覚えてなさい。あんたには、ここの魔物へ使った魔法全部で制裁を降しに行くんだから』

「止めてぇええ!」

『何か言ってきた気もするけど……まあ、聞こえなかったことにするわね。そこで見ておきなさい、私の今の姿を』


 カッコイイ台詞セリフではある。
 だがそれは、向けられた対象が俺でなければの話なんだよな。

 有言実行なのか、すでにアルカは魔法による殲滅作業を始めている。
 ただし、同じ魔法は使わない……制裁に使う魔法の数を増やしているのかもしれない。


『──言っておくけど、別に見せびらかすために使っているわけじゃないわよ。そういうルールを設けて、火力と発動効率を高めているの。これは【賢者】のスキルの一つね』


 心まで読んでいるのか……いや、俺の思考が単純だからだな。
 アルカは『侵化』をしてもなお、そういう知性的な部分を完全に保っているようだ。

 それと、職業スキルについて。
 そもそも習得条件として、膨大な数の魔法スキルと行使回数が求められている職業。

 同じ魔法を一度も使わない、それが条件の強化スキルが有ってもおかしくはない。
 だがそれを完璧に使いこなせるほど、普通は簡単ではないだろう。


「聞こえているよな? だから訊くけど、それってチェインの条件があるよな?」

『──当然でしょ。魔法を使うだけ、そんなシンプルな条件だからこそ難しい。もちろんあんたじゃ使いこなせないわよ』

「そりゃあそうだな……強引にやればできそうだけど、普通に使うなら相当練習しないと無理だろう。アルカも頑張ったんだな」

『……ハッ? 普段からやっていることなんだから、苦にもならないわよ』


 俺の予想以上に、アルカは努力してチートに勝とうとしているようだ。
 ワンキルが簡単にできる魔法だってあるだろうに……わざわざ組み合わせているのか。


『それに、【賢者】だからこそできることもあるのよ──『凍える白雷』』


 そう言ってアルカが生みだしたのは、白色の雷だ。
 地面に墜ちた途端、そこには真っ白い氷が張っていた。

 俺の記憶の中に、彼女が告げた名を持つ魔法は存在しなかった。
 しかしながら、似たようなことをする方法自体はよく知っている。


「合成か……それも【賢者】の職業スキルでやっているのか?」

『あくまで【賢者】がやっているのは、詠唱の完全省略だけよ。それを並列思考で分裂化した思考で詠唱、合成して撃っているの』

「完全省略って、実在してたのか」

『思考速度を高めてそれとほぼ同等にしていたあんたは、もう人外のレベルよね。まあ、ただの省略の方が魔力消費は軽いんだけど』


 完全無詠唱、それはアルカの固有スキルである【思考詠唱】の極地のような技巧だ。
 ただ念じるだけで、魔法による事象改変が起きる……さながら神じみた振る舞い。

 俺はアルカからパクったそのスキル、そして<千思万考>による思考の超速化と分裂で擬似的にやっている。

 しかしアルカは……本物に辿り着いた。
 偽りばかりの俺と違い、己の力を貫き続けた結果が実っているようだ。

 サクサクと魔法を放ち続け、魔物たちを殲滅していく。
 全然数が減っていないのが気になるが……その分、放つ魔法の数が増えるのが怖い。


『ところでこれ、いつまで続くのかしら?』

「最初の事例だから、よく分からん。ただ、制限時間とかも表示されていない。攻城戦は一時間だったから、そういう割り切りのいい数字だとは思うけどな」

『今は……まだたった十分。全然進みそうにないわね。倒すのは簡単なんだけど、数が多いのよ』

「まだ一日目だしな。いきなりラスボス級の魔物とかが出てきたら、その時点で詰むことになるんじゃないか?」


 常にログインできるわけでもないんだし、そのため自動で防衛できるアイテムだ。
 本来は素材もゆっくり集めるのだから、最初は簡単な罠で対処できる魔物しか出ない。


『そりゃそうよね──『疾き煌閃』』


 また知らない魔法だったが、これも合成した魔法なんだろう。
 白い風が吹き荒れると、魔物たちは浄化されたうえでバラバラに刻まれていく。

 起きた現象から考えて、風属性と光属性のミックスだな。
 威力はあまり無いが、雑魚狩りにはピッタリな魔法。


『どれだけ出てくるか、試してみるのも一考かしら? その分、あんたに使う魔法が増えるわけだし』

「……お、お手柔らかに」


 ようやく十五分。
 さて、どれだけ魔法を使うんだか。



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