AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦前篇 その07



《──だいぶ、感覚は掴めました》

「いずれはスキルを借りずに知覚できるようになった方がいいけどな。アイテムの性能に偏っちまったから、そっちは自前で補わないとダメなんだ。これを使えば、小声を拡声することもできるようになると思うぞ」

《念話を使わなくとも、自然な会話ができるということですか?》

「別に念話のままでもいいんだけどな。使えなくなった状況で、どうしても大きな声を出す必要ができたとき……そんな無いかもしれないもしもに備えるなら、やっておいて損は無いと思うぞ」


 腕輪を使いこなそうとしてくれているペルソナへ、そんなことを言ってみる。
 渡しておいて努力はそっちでやれって言うのも、ちょっと理不尽だからな。


「もう一度おさらいだ。その腕輪に与えた銘は『七精の腕輪』──七大属性の微精霊が封じられた魔石と、成長する金属『精魔鋼』でできた文字通り進化する魔道具だ。擬似的な精霊使いを生みだすための試作品だな」

《……もう、その時点でいろいろと異常ですよね。なんだか慣れてしまいましたけど》

「精霊の成長に関しても、ある程度データを収集済みだからな。ペルソナの求める精霊へ進化して、サポートしてくれるようになるだろう……運が良ければ、神器とかそういうレア度の高いアイテムになるかもな」


 腕輪の内部に“精霊揺籠エレメントクレードル”の術式が刻まれているので、精霊たちが暴走することはおそらくない。

 魔石の一つひとつにも、自我と進化を促すように術式を施してあるため……使いこなせば間違いなく、精霊使いと同格にはなれる。


「うんうん、天魔の力に加えて精霊まで扱えるとなれば……アルカにも勝てる!」

《無理です》

「アイツは基礎を完璧にしたうえで、そこからできることを一つずつ磨いていくタイプらしい。普通はどこかで破綻するんだが……努力家って凄いよな、【賢者】になるぐらいには習得してレベルを上げている」

《……凄いですよね》


 自力で固有スキル──【思考詠唱】を獲得したのは伊達ではなく、彼女の行う努力とは尋常ではない。

 今では【憤怒】や成長系スキルをふんだんに盛り込んだチート武具もあるが、それでも研鑽し続け、俺を倒すため力を蓄えている。


「けど、アルカにも弱点はあるんだ。万能型なアイツは、一つの属性に絞れば特化型に劣る。スキルと武具で補っているけど、やっぱり足りない……そこで、属性の特化している精霊の力で勝つというわけだ」

《ですから、勝てません》

「けど、勝ちたいだろう? 相手は実質、魔法だけなら最強だ。絶対に勝てないよりも、勝つための手札を持っている……そっちの方がカッコイイし」

《それは……そう、ですけど》


 黒騎士という存在を生みだし、かなり無双していたペルソナだ。
 決して、戦いを避けているわけではない。


「何か違和感とかがあったら、すぐに報告してくれ。不備があるなら再調整するし、使いたくないなら回収する。けど、少しでも強くなりたいって思ってくれているなら……そのまま使ってくれないか?」

《……分かりました。問題があったら、絶対に言いますよ?》

「ああ、その方が助かる……断片がどうなっているか、チェックしたいし」

《……断片?》


 小言がバレてしまったようだが、別に問題ないのでそう言って誤魔化す。
 俺が見つける微精霊が、ただの微精霊なはずが無かろう。

 魔石や今の精魔鋼の問題から、微精霊と化しただけで……うん、今後の成長次第で化けるだろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ペルソナには他の祈念者眷属に合流してもらい、俺は再び独りで作業を行う。
 やることは変わっていない、占有したこの地を守るだけ。


「しかし暇だ……さて、どうするか?」


 身体スキルは使用可能な現状、だが生産系のスキルが使えないため設備の魔改造はできても一から生みだすことは難しい。

 縛りを変更するかどうかは俺次第だが、すぐに変えるようでは……縛っている意味が無くなってしまう。


「まっ、遊べばいいか」


 都市の守護は芸術作品たちに任せて、俺は一度外へ出る。
 カランド高原と自由民からは認識されているそこには、魔物たちが徘徊していた。


「カモーン──“裂帛”」


 絹を裂くような絶叫を放つ。
 それはスキルによって自動化された一連の動きで、声は魔力を纏って出されていく。

 武技同様に、勝手に行われたのだが……手動でやろうとした場合、これって喉に悪影響が出そうだからな。

 と、使った本人ですら思うような声が高原中に響き渡ると、しばらくすればフィールド全体に変化が生じていく。


「来るわ来るわ、大漁だなこりゃ。釣りの才能があるのか、それともこれにも<畏怖嫌厭>の効果が籠もっているのか……後者だな」


 嫌われ者の声は、いじめっ子たちをこの場に集結させる。
 さすがに攻城戦用に集められる数には及ばないものの、三十ぐらいはいるな。


「──“威嚇”、“鉄壁”、“俊足”」


 相手を弱体化させ、一時的に自身の防御力と敏捷力に補正を掛けておく。
 他にもいくつかやっておきたかったが、それは戦闘中にやっていけばいいだろう。


「体術系の武技と補正があれば、もっと楽なのかもしれないのに……まあ、やれるだけのことはやってみようか」


 身体スキルだからこそできることもある。
 というわけで、レッツ実践だ。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品