AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と凡人体験 その13
「いけっ、そこだ! 頑張れニィナ!」
いつの間にか得ていた声援スキル、それに発声に関わるスキルを使い──腹から力を入れ、ニィナを懸命に応援している。
能力値は固定されているので、まったくそういう意味では使えない俺の声。
だが、ニィナの心情的には意味が無いわけではなく、少しだけ動きにキレが出てくる。
「──“空中歩”、“風歩行”!」
二つの風系補助魔法が、ニィナの機動力を高めた。
一つは宙に足の踏み場を生みだし、もう一つが風の流れを足場にできる。
それが何を意味するかと言えば、安定した足場を宙のどこでも作れるようになった。
固定された踏み場でも、不安定な足場でもなく──自在に設置可能な踏み場をである。
「いけいけニィナ! 僕たちの兄弟パワーでやっつけろー!」
「────」
「兄さんは……もう。けど、応援されているからには頑張るよ!」
蹴って、蹴って、蹴って、蹴って……。
横だけでなく縦も生かした縦横無尽な移動スタイルによって、暗殺者を攪乱する。
本来の能力値があれば、反射速度も向上しているはずだが……現在は魔導発動中。
俺の考えるモブは、ニィナの軌道を読み切ることなどできない。
ニィナは運営神の支配下から離れた結果、能力値がリセットされている。
それから、能力値が低い状態でどう体を動かすか眷属と修業していた時期があった。
経験が糧となり、彼女をより強くなる。
それこそが『覚成』にして『生超』、そして『虹成』なのだから。
立体機動スキルを持つ眷属など、戦闘狂であれば大半だ。
あとは解析班が協力すれば、効率的な体の動かし方などすぐに分かる。
時折剣を暗殺者に振るうが、暗殺者も自分に振るわれる刃は的確に迎撃していく。
時間が経てば、スペックの差には慣れる。
身体強化などを使えば、補えるし。
……身体能力向上とは、能力値の向上だけでなく筋繊維などの強化も含まれる。
それをしっかりと認識できている人なら、魔導内でも高い身体能力を振るえるのだ。
「僕は見ているだけだけど……うん、目を凝らしてもさっぱりだね」
ニィナも暗殺者も、少しずつ傷を負っているのはなんとなく分かる。
しかし、それ以上はサッパリ……今の俺には足りないスキルが多かった。
「せめて、これくらいは──“魔力付与”」
「ありがとう! 兄さ……させないよ!」
「────」
魔力を武器や体に送ってやったが、それがどれだけ影響を及ぼしてくれるか俺には分からない。
だが、どうやら殺そうとこちらに来た暗殺者を防ぐぐらいの効果はあったみたいだ。
しかし……これだと見たものを眷属に届けることもできないんだよな。
「ねぇ、聞いているみんな。体は付いていかなくて良いから、眼だけでもちゃんとしておいた方がいいと思うんだ」
ここにはいない、がたしかに観ている眷属たちにそう提案する……と、眷属側から俺にスキルの使用提案が届く。
「なるほど、たしかにこれならちょうどいいか──“天魔眼”」
昔はよくお世話になった、動体視力を高められる魔眼を再び開眼する。
強化された俺の瞳は、ニィナたちの動きを確実に捉えられるようになった。
あらゆる場所を足場にして翻弄するニィナと、それらをすべて捌く暗殺者。
よく見ると少しずつ、彼女の方から禍々しいオーラが滲み出ているような……。
「あっ、これは不味い──“偽円隔壁”!」
「兄さ──ッ!?」
「すぐに退避!」
「うん──“土繋直向”!」
腕に嵌めた装置から魔術を発動させ、ニィナを庇いこちら側へ逃がす。
暗殺者はすぐに魔術を破壊できると思ったのだろうが……そう簡単に、壊せやしない。
正65537角形、ほぼ円に近くなるほどに重ねた防壁を一気に展開したのだ。
たとえそれが──固有スキルの力であろうと、そう簡単に破壊は不可能である。
……まっ、それは普段の話。
今の俺の、しかも装置越しの魔術では逃がすのが精一杯だったけど。
「兄さん、アレって……」
「うん、固有スキルだね。もしかしたらここでPKを始めたのも、そういう理由があるのかもしれない」
「じゃあ、止めないと!」
「分かってる。ここからは、僕も魔術で援護することにするから──“癒療”」
橙色の世界で、リアとユラルが仕入れてきてくれた魔術の一つ。
細胞を活性化させることで再生を促す、そういう魔術でニィナを治していく。
「今の魔術装置じゃ二つが同時に使える限界だから、それを念頭に置いてね」
「うん、分かった」
「あと、僕にはトドメになる魔術が全然ないから期待しないで。魔導を使って魔力は枯渇寸前だったし、そこまで余裕はないから」
「兄さんにばかり迷惑はかけられないよ。けど、どういう固有スキルか当てないと」
ああ、そうだな。
一連の行動が『侵蝕』によるものなら、スキルの効果は殺害に関わるものだろう。
数字をカウントしていたのは、果たして本当に俺たちの予想通り【暗殺神】を目指してのモノだったのかも……今では微妙だ。
「固有スキルなら、シガンのときと同じ方法で止められるかも。というわけで、さっそく止めるよ!」
「うん!」
だいぶ元々の方針から逸れているが……すべては固有スキルが悪いってことで。
面白いスキルなら、俺が使えるようになるからやる価値はあるもんな。
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