AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と凡人体験 その12


 ニィナがそれでも戦うのは、ひとえに時間稼ぎのためである。
 さすがに彼女が不利すぎるというか、いずれ敗北することが確定しているのだ。

 この世界ではレベルという数値は強さに深く関わり、圧倒的弱者の干渉あがきを無効化する。
 攻撃ダメージをゼロにし、相手を一撃で死へ導くこともできるようになるのだから。

 なので、俺は一発逆転のチャンスを生みだすためにひたすら隠れて準備を行っている。
 攻撃無効スキルで死から免れ、陽光魔法で自らを光化して死を偽装してな。


「──“光衣装甲ライトベール”、“護光ライトアミュレット”!」


 俺が生きていることに気づかず数字を数えていたみたいなので、ニィナは自らに光を纏わせて存在をアピールしている。

 使うのは防御魔法、あくまで死なないことがこの時間稼ぎの大前提だ。
 そのため、攻撃魔法で挑発するような真似はしない。

 光による多重装甲、破邪のお守り……ちなみに後者は致命傷を一度だけ弱める効果がある便利な魔法だな。


「──“矢避風アローアヴォイド”、“水尾ウォーターテール”!」


 一度バレれば割と律儀なのか、ニィナが準備を整えていても妨害をしてこない。

 ある程度の威力の投擲を無効化する風魔法に、補助用の尻尾を作る水魔法。
 暗殺者が死角から放つかもしれない攻撃に対し、さらなる備えを拵えている。



 ここで準備を終えたと思ったのだろう、ついに暗殺者が動きだす。
 再び俺とニィナの感知や探知を掻い潜り、どこからともなく出現した。


「! ──そこっ!」


 だが、ニィナもすぐに学んだようだ。
 何かの方法でそれを察知し、構えていた剣で暗殺者の攻撃を防ぐ。

 すると、ほんの少しだけ暗殺者の姿を見ることができる。
 小柄な体を真っ黒な外套で頭まで包み、黒塗りの短剣をニィナに突きつけていた。

 すぐにその状態から脱し、暗殺者は再び存在をその場から消す。
 しかし、ニィナは凄まじい速度で成長していき──隠れた暗殺者を見つけだした。


「見つけた──“闇薙ダークモウ”!」


 闇を払う武技を使うと、暗殺者の隠蔽が強制的に解除される。

 再び姿を現した暗殺者に、そのまま武技を使った斬撃が放たれる……が、それはあっさりと黒塗りの短剣に防がれた。


「────」

「うぅ……“貫通槍ペネトレイトランス”!」

「────」


 水で構成された尻尾が槍のように鋭く尖ると、意思を持っているような動きで暗殺者に向けて飛んでいく。

 しかし、これもあっさりと手を振った際に甲へ当たるだけで、弾けて無効化された。
 絶体絶命の危機……だからこそ、確実にトドメを刺すために意識はニィナへ向かう。


「魔導解放──」

「──ッ!」

「──“普遍在りし凡人領域”」


 確実に殺せたと思った雑魚が、まだ生きていて何かとんでもな魔力を出した……なんて状況だからか、驚いていると見て分かるような気配を放ってしまう暗殺者。

 だがもう、すべてが覆る。
 発動した魔導の効果によって、この場に居る者全員が平等となった。


「ニィナ、頑張ってー」

「兄さん、もう出てきて良かったの?」

「僕が死んでいないのに隠れて、何かしようとしているってよく分かったね」

「兄さんのことだからね」


 暗殺者は自分に起きた違和感を、ステータスでも確認して気づいただろう。
 自身の能力値がすべて1となり、固定されている異常事態に。


「あっ、ちなみに脱出不可能だよ。出たいなら僕を倒す必要があるから。999……じゃなくて、998人殺しさん」

「ああ、兄さん……また挑発して」

「ただの事実なんだけど、たしかにそうなのかも。事実は時に、嘘よりも人を傷つけるって言うしね」

「もう……けど、これで勝ち目が見えてきたよ。ありがとう、兄さん」


 俺の言葉に反応したのか、わなわなと震えている暗殺者……さっき予想したことの続きだが、それを殺したと思った張本人から言われては、矜持がズタボロになってしまう。

 ちなみに、前回の反省を生かして職業も抑え込むことに成功している。
 残っているのはスキルだけだが、能力値が低すぎて使えなくなるモノも多い。

 スキルを上位のモノへ進化させていればいるほど、その感覚は増大する。
 ニィナは現在、だいたい下位のスキルしか持っていないので……有利に戦えるだろう。


「────」

「あれ、僕を先に狙うんだ。そりゃあ雑魚だし、仕方ないけど……可愛い妹から目を離すなんて、暗殺者失格だよ」

「────ッ!?」

「あなたの気配の隠し方は、もう覚えた。取らせてもらうよ──“雷鳴斬ライトニングスラッシュ”!」


 うちの妹がチートすぎる件について。
 俺に接近していた暗殺者の隙を見事掻い潜り、雷が迸る剣で暗殺者を切り裂く。

 その途中でどうにか気づき、暗殺者は首の皮一枚レベルの回避を行う。
 もしかしたら武技や魔法、装備の効果かもしれないが……発声は無かった。


「あっ、フードが取れた……ふーん、そういうことだったんだ」

「──ッ!?」

「兄さん、どうするの?」

「相手が誰でも、元の方針は変えないよ。これはニィナのレベルアップに繋がるし、暗殺術を学ぶ絶好の機会だよ──お姉さんにも、手伝ってもらうよ。あっ、せっかくだし撮っておこうっと……[スクリーンショット]」


 視界を切り取り、画像として溜めておくことができる祈念者の権能。
 本来、一方的な撮影は難しいのだが……相手がPKの場合は、無条件で撮影可能だ。

 暗殺者の正体は女の子。
 そんな創作物にありそうな展開だが、いずれにせよ俺では勝てない。

 投擲と格闘だけで勝てるほど、暗殺者プレイって簡単に攻略できないし。
 ニィナが勝てなかったら考えるが……魔導が発動した時点で、それは心配していない。

 ──むしろ、彼女が強くなるため糧となってもらおうか。



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