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山田 武

偽善者と凡人体験 その10



「──“七宝之珠セブンスオーブ”!」


 ニィナは七つの基礎属性、それらを束ねた統属魔法の“七宝之珠”を発動させた。
 宙に浮く七つの球、その一つずつが属性を表す色に輝いている。

 そして、ニィナはそれらの球のいくつかをぶつけて合わせていく。
 赤色は緑色と、水色は茶色と、白色は黒色と……透明な球だけは浮いたままだ。


「──“焼刺熱風バーンドライヤー”!」


 灼熱の風が訓練場に吹き荒れる。
 突き刺すような痛み、完全に焼くのではなく集中力を削ぐように風は吹いていた。

 発動した魔法はそれだけではなく、他の球も光り輝いている。
 触れていた赤と緑が混ざった球を手放し、次に発動させる球に触れた。


「させるか! ──“豪雪ブリザード”!」

「……“強制解魔ディスペル”」

「そんな高等魔法を!?」


 統属魔法はただ属性同士を掛け合わせるのではなく、魔力によってブーストを掛け、高位の属性も一時的に使うことができる。

 ニィナは白と黒──つまり光と闇属性に待機していた透明な球を追加で合体させ、先の魔法を発動させた。

 あらゆる魔力現象を強制的に解除できる、そんな魔法である。
 最上級の魔法は、熱風を掻き消そうとする吹雪を一瞬で捻じ伏せた。

 熱風は男へ届き、突き刺さるような痛みをもたらす。
 それに大人気もなく苦しむ悲鳴を上げる彼に、ニィナは容赦なく魔法を施していく。


「それに──“時空停止ストップ無音サイレント”」

「──ッ!」

「無駄だよ。ぼく以外の声は、もうこの場所で響かない」


 声だけに限定した停止の強制力が、世界から音を奪い去る。
 それは[PvP]用の結界の中だけではなく、俺たち観客の居る場所も同様だ。


「頑張れー、ニィナー」


 まあ、俺は除外してくれたみたいだけど。
 お前は喋れるんかい、という視線がだいぶ突き刺さるが……そちらには、ニィナのそれ以上に鋭い殺気がプレゼントされる。


「だから言ったんだよ、オジさんたちじゃ僕の自慢の妹ニィナには勝てないって。いやでも、希望を持つのは自由だからね。何も言わないで見届けていたんだけど……ごめんね、やっぱり教えた方がよかったみたいだね」

「兄さん、ストップストップ」

「もちろん、僕が虎の威を借る狐みたいな状態なのは分かっているけどさ。それに文句を言おうとして、こんな状態。僕が悪いのかもしれない、けどこれでお相子なのかな? あとは……」

「兄さん、周り周り」


 言われて周囲の様子を探ってみると、誰も彼もが物凄く冷め切った視線を俺に……先ほどと違い、ニィナは睨んだりしない。

 俺としてはさっぱりなのだが、眷属たちの警告や経験から問題があったと分かる。
 理不尽な理由でそんな視線を向けて射ないからこそ、ニィナもやり返さないのだろう。


「でもニィナ、もう落ち着いたよね?」

「……兄さんが大丈夫だって分かったときから、とっくにね。八つ当たりだって分かるんだけど、それでも売られた喧嘩は買わないとダメだって……みんなが」

「みんなって……はぁ、仕方ないね。じゃあそろそろ、終わりにしようよ」

「うん、了解──“木拘束ウッドバインド”!」


 水色と茶色の球が生みだすのは木属性。
 あらゆることに適性を持つニィナだからこそ、泥属性ではなく森人族たちに適性があるこちらを行使できた。

 七属性の中で唯一物理的に干渉する土属性が混ざっているため、木魔法で生みだされた木もまた物理的に男を拘束する。

 妨害をしてくる仲間に関しては、内側に侵入することができないので放置された。
 縛り上げられた男は喚いているが、声だけは誰にも届かない。

 ニィナはすべての球を元に戻し、今度はそれらを一つに束ねていく。
 できあがったのは鮮やかな内側で絶えることなく色が変わる不思議な珠。

 ……俺がやるとおどろおどろしいナニカに変わるのに、やっぱり使う人によってセンスが試されているのかもしれない。


「──“色虹魔弾レインボーバレッド”!」


 俺も知らない──おそらく祈念者の誰かが使ったであろう──魔法を使い、七つの魔力弾を男に向けて放つ。

 赤色は燃やし、水色は濡らし、緑色は散らかし、茶色は汚し、白色は照らし、黒色は穢し、透明は──殺す。

 コンボのようなものがあるのだろうか、この魔法は重ねた順番によって特殊な効果を発揮する……今回の場合、最後の一発が尋常ではない威力をもたらすというものだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 戦闘終了後、ニィナが男に求めたのは──謝罪である。
 俺なら服従とか言っていたかもしれないけど、さすがはニィナ……心が広い。


「悪ぃ……気が立ってた」

「ううん、気にしなくていいよ。僕だって、掲示板の前にずっといたのが悪かったし」

「ああ、いや……その……」

「それは事実だしね。それより、どうして木が立ってたのかが気になるんだ。ダメなら教えなくてもいいけど、良かったら教えてくれない? 僕は……あんまりだけど、ニィナに解決できることなら手伝えるかも」


 そう伝えると、仲間同士で[ウィスパー]機能を用いた相談を始めた。
 盗聴することもできたが、今はそれよりも優先すべきことが……。


「ニィナ、ありがとうね。それに、無事でよかったよ」

「兄さんはぼくたちを過保護なくらい大切にするから、絶対にダメージを受けちゃダメって言われていたもん」

「……否定はできないなぁ。さて、これからどうしようか?」

「このまま続ける? ぼくはそれでも構わないけど」


 俺もこの縛りはかなりためになっているので、継続しておきたい。
 ニィナもそう言ってくれているので、とりあえずは続けよう。

 ──そうこうしている間に、彼らの中で意見が纏まったようだ。
 さて、イベントっぽい理由だったらいいのになぁ……。



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