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山田 武

偽善者と凡人体験 その09



「謝れ」

「……あ゛ぁっ?」

「謝れ、兄さんに!」


 身力を抑え込んではいるようだが、内側でエネルギーが荒れ狂っていた。
 怒りに支配されたニィナは、俺を蹴り飛ばした男を睨みつけている。

 相手は始まりの町に居るような男なので、そこまで高いレベルでもないだろう。
 しかしそれでも、新人として振る舞うために調整を行っている俺たちからすれば充分。

 それでも、ニィナは止まらなかった。
 不穏な空気がギルド内に立ち込め……とある集団が動き始める。


「おい、いい加減にしろよ!」「そうだぞ、子供にそんな態度とかどうかしてるぞ!」

「っせぇな! 放せ、放せよ!」

「“回復ヒール”! おい、兄ちゃん大丈夫か?」


 男の仲間と思われる者たちがこちらに近づくと、まず男を羽交い絞めにして拘束した。
 その間に、回復役のパーティーメンバーが俺に駆け寄り治療を行う。

 ニィナによって完治していたが、それをするという行為そのものが重要なのだ。
 俺もニィナも、同じ考えを彼らが抱いているわけではないと認識できる……正常なら。


「オジさんたち、退いて。ぼくはそこの人に用があるんだ」

「はっ、調子に乗ってんなガキ! おい、チビがせっかくそう言ってくれてんだ、さっさと俺を解放してくれよ!」

「……オジさんたちも、今なら巻き込まなくて済みます。早く、退いてください」


 剣呑な空気を放つニィナは、邪魔する奴は誰であろうと許さないといった状態だ。
 俺の想像以上に、ニィナは俺のために怒ってくれていた……。


「なあ、お前さん。あの娘を止めることはできねぇのか?」

「……無理」

「なんでだよ!」

「いや、だって……僕のために怒ってくれているのが嬉しくて」


 ただのモブがどう扱われようと、現実じゃ誰も気にしなかった。
 もともと絡もうとする奴がいなかったが、些細な出来事に注目されなかったのも事実。

 たとえば肩がぶつかろうと水溜りの水を跳ねられようと、誰も気にしないだろう。
 しかし、ニィナは反応してくれた……それが無性に嬉しかったのだ。

 なので止められなかった。
 俺が一言言えば、止めるだろう。
 だがニィナが自分の意志を貫こうとしているときに、兄が邪魔するわけにもいかない。


「おいチビ、勝負しねぇか? 俺が負けたら土下座でもなんでもしてやる。だがもし、お前が負けたときは……」

「いいよ、何でもする。だから、そっちも約束は守ってよ」

「ああ、分かってるさ──ここに居る全員が証人だ! 逃げられやしねぇ、負けた方は勝者に絶対服従だ! さぁ、早く下の訓練場へ行こうぜ、そこが舞台になってるからな!」


 少し要求が悪化しているようだが、ニィナもそれは望むところなのだろうか。
 男の発言に何も言わず、ただ怒りを溜め込みながら後を付いていく。

 俺も行こうかなと考えていると、ニィナから“念話テル”で連絡が入る。


《ごめん、兄さん……ついカッとなって》

《いいよ。僕が同じ立場だったら、そもそもこの時点で生かしてなかっただろうし。そう考えると、ニィナの方が立派だよ》

《でも……ううん、兄さんを傷つけた相手は許さない。喧嘩を売ったからには、絶対に勝つからね!》

《うん、僕も応援しているよ》


 喧嘩っ早い眷属なら、こんな手間を掛けることなく速攻で殺していただろう。
 ……常識の無い眷属なら、ギルドごと滅ぼしていたかもしれない。

 そう考えると、ニィナの選択がもっともマシだったのだろう。
 ちなみに立場が逆だった場合、俺の本来の選択は──例の後者に売り渡す、である。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「いいか、[PvP]の申請を今から送るから受託しろ。それだけで、あの約束は果たされるからな」

「うん、分かってる」


 下に用意された訓練場で、ニィナは男から[PvP]の設定を教わっていた。
 初心者として活動しているので、知っていた方が疑われると思ったからな。

 草原だと自由民に勘違いされたが、祈念者固有のシステムである[メニュー]を使うことが分かったので、それを使える指輪を渡しておいた。

 まあ、祈念者か自由民かを知る方法はあるが、それを偽装する術もすでに心得ているため、彼らは気づかなかったのだろう。

 ……むしろ、草原で出会った初心者たちがまだまだそういった小ネタを理解していないといったところか。


 閑話休題せっていできりかえ


 ここで注意するのは、受理以外のことを男がまったく説明していないことだ。
 それが意味することは……当然ニィナも俺も理解しており、承知の上で受理をする。

 すると、二人を囲うように結界が生成されて、関係者以外が入れない空間ができた。
 男はニヤニヤと笑みを浮かべ、ニィナは能面のように無表情のまま。

 対比するように向かい合う彼らは、戦闘開始の合図と共にぶつかり合う。


「心配しないのか、妹が闘っているぞ」

「心配……なんでするの?」

「そりゃあ、見れば……ッ?」

「──ニィナが勝つなんて、最初から分かり切っていたことなんだし」


 攻撃の威力や身体能力など、豪快さであれば男が優っていたかもしれない。
 しかしそれ以外の──主に技巧に関してはニィナの方が上だ。

 声を掛けてきた男もそれは分かっているようで、俺の発言そのものには驚いたみたいだが、それ以上は何も言ってこない。


「お前ら、初心者なんだよな? PSが凄すぎやしねぇか?」

「ニィナは要領がいいから。さっきも、ほぼ独りで『野生犬ワイルドドッぐ』を倒していたよ」

「……そりゃあスゲェ。いろいろと疑問はあるが、要するにあの娘は初心者っていうより実力者って類いなんだよな?」

「僕の自慢の妹だからね!」


 ピクピクと耳を澄ませていたニィナの顔が少しだけ緩んだのを、俺は見逃さない。
 男も同様にそれを隙と見たようだが、即座にカウンターを喰らっていた。


「だが、分かっているだろう?」

「──そっちのみんなが、あの人のサポートに入ること? 分かっているよ、そのうえでニィナは承諾したんだよ。だからお願い、本気でやって。そうじゃないと、あの人もニィナも納得できないから」

「! そこまで分かっていて、そこまでさせるのか……いや、これ以上は何も言わない。なら、そうするように伝えておく」


 俺の下を離れ、彼は仲間たちの所へ向かっていく──そう、最初から平等な戦いではないのだ。

 それでもなお、ニィナの方が強い。
 信じているからこそ、任せているのだ。



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