AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と決闘祭 その13



 クラーレが俺の何を知りたいのか、分からないので洗いざらい全部話してみた。
 ちなみに全部を説明したのは二人目、当然一人目は某迷宮ダンジョン大好き野郎である。

 彼女の固有スキルの封印を解けば、いずれはバレることは百も承知。
 そういう意味でも、彼女の問いは渡りに船だ……理解したうえで協力してくれるなら。

 というわけで、全部を聞いた結果──


「……意味が分からないんですけど。あの、冗談とかじゃないんですよね?」

「全部冗談で、独りで作った話ならきっと大賞とか貰えそうだよな」

「いえ、おそらく駄作です。メルスのやっていることって、誰からも共感されないしかと言って注目されているわけでもないじゃないですか」

「うぐっ……否定はできない」


 記憶を本にして保存してあるものの、文章化したところで売れないだろうなー。
 なにせ、平凡なモブがチートに酔ってやりたい放題するだけの話だし。

 おまけに『ざまぁ』ゼロ、優柔不断でハーレムを中途半端にやっている最終回で女性に殺されそうな彼っぽい……って、それはそれで最後の最期・・は『ざまぁ』展開か。


「メルスがノゾムとしてあの場に居て、わたしたちにメルとして力を貸してくれる理由はよく分かりました。ですが、どうしてメルスだけがそんな目に遭っているんですか?」

「チートに酔った代償……かな? いや、別に後悔とかはしていないわけだし。むしろ、そうなったお蔭でよりよい偽善ができるようになったから全然困ってないけど。元の予定だと、死んでいたみたいだけど」

「それです。メルス、あなたは自分のことを気にしなさすぎです。眷属の方々の言うことに影響を受け、よくなっているみたいですけど……それでも、日本人としては少しズレているのでは?」

「……考えたことなかったな」


 眷属は俺のダメなところを少しずつ変えていってくれているが、それらは彼女たちの感性に基づいての修正だ。

 同じく地球出身のカナタやアイリス、そしてアカネとアカリもこの世界にすでに馴染んでいるからこそ気づかなかったのだろう。

 おそらく祈念者の眷属は知っていたかもしれないが、すべてを話していないからこそ何も言わなかった……今のところクラーレが、彼女だけがそれを言葉にしてくれた。


「けど、何が問題なんだ? それが問題だと言ってくれそうなんだが、ちゃんと倫理観とも守れていると思うんだが」

「そういうことではありません。メルスが、支払っているものはあなたの思い……などではありません。人が持つべき、いえ持たなければならないナニカです」

「……ごめん、全然分からない」

「……わたしもです。ただ、あなたがメルスである以上は失われもしませんが、取り戻すこともできないでしょう」


 クラーレの勘のようなものだろうか。
 これっぽっちも分からないのだが、きっと大切な意味のある言葉なんだろうし。

 失われもしない、だが取り戻せない。
 それぐらいなら分かっている、{感情}には気にしてもいなかった代償があるわけだ。


「──とまあ、ここまでの話は正直どうでもいいです。わたしが聞きたかったのは眷属と呼ばれる方々のことであって、メルスのことではこれっぽっちもありませんし」

「あっ、そう? なら……って、なぜ殴るんだよ? 痛……くはないけど、理由を教えてくれよ」

「……つんっ!」


 可愛い擬音だな、なんてことを思う。
 何かしら怒っているみたいだ……なるほど分かった、俺が話題に乗ってこなかったのが原因だな。


「何を考えたか知りませんが、メルスが反応しなかったことに怒っているのではないんですからね……あっ、つんっ」

「……驚いた、エスパーか」

「知りません……つんっ」


 つんつん言っている姿は愛らしいが、いつまでもそうさせているわけにもいかない。
 ユウは……ああうん、グラ相手にまだ楽しそうにしているからいいや。

 クラーレは眷属のことを知りたがっているようだが、今のところその情報は祈念者に関する部分だけしか開示していない。

 現地の眷属に関しては、何十人も眷属にしているといった旨を話しただけだ。


「クラーレ、眷属について何をしたいのか分からないんだが……教えてくれないか?」

「まず、わたしも眷属にしてください」


 話を本題に戻すと、つんつんクラーレはどこかに消えてしまう。
 少々惜しいものがあった気もするが、仕方ないと割り切って俺も意識を切り替える。


「んー、やるとバレる確率が上がるから面倒なんだが……まあ、一人ぐらいならどうにかなるか。たださぁ、ユウたちもそうなんだがギルドから孤立するぞ? 考えてもみろ、仲間の中で一人だけ力が突出するんだから」

「あっ……」


 しかも、クラーレの場合は本来戦闘には向かないはずの回復系の支援職だ。
 今回の準優勝も異常だが、完全ソロで無双プレイとかは不味すぎる。

 運営神がそれに気づきでもしてみろ、繋がり的なものを見抜かれて即刻戦争だ。
 自慢ではないが、それでも俺は勝つ……その代わり、何が残るかは分からない。

 先ほど彼女が言っていた通り、失いはしないだろうが取り戻せないだろう。
 だからこそ、そもそもそんな状況にならないように立ち回っているわけだ。


「──というわけでだ。いちおう眷属にはするし、力を与える。ただ、一つだけ条件をこちらで設ける。それができなかったら、今回の話は無しにしてくれ……ああ、再挑戦はいつでもウェルカムだぞ」

「条件、ですか……話してください」

「ああ。普通に眷属にするんじゃなくて、とあるアイテムを媒介にする。それが五つ俺の手元にある──クラーレ、お前はそのどれかで眷属になればいい」


 俺としても、これは賭けである。
 ただでさえおかしくなっていたであろう彼女の運命が、完全に崩壊してしまう。

 それでも、最大限の礼をしたかった。
 眷属にも教えてもらったこと、それを再認識させてくれた彼女には。



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