AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と決闘祭 その11



「魔法だけだと跳ね返されて、物理攻撃も受け流されると……なかなかに厄介だね。せめてクラーレちゃんが悪いことをしていれば良かったんだけど、人の支援をするイイ子には僕のスキルは通用しないんだよね」

「日頃の善行に感謝します……あの、メルの場合、どうやってユウさんに打ち勝ったんですか?」

「ああ、師匠ね……師匠は存在そのものが反則だから、そもそも罪が罪としてカウントされてなかったんだよ。ただ、だいぶ前に聞いたんだけど、そうなる前もピッタリ0だったらしいね。だから、善でも悪でもないんだ」


 メルがわたしたちが知らないようなスキルやアイテムを持っているのは、隠しているようですがすぐに分かってしまいます。

 メルがメルスであると知ったあの時も、貴重だとされる蘇生能力を使っていましたし。
 今でも鮮明に覚えています……そのときが固有スキルを目覚めさせたようですので。


「うーん……どうしようかな? 僕は全力全開を使えないから、クラーレちゃんが倒れないと僕の負けになっちゃうんだよね」

「わたしはその方が嬉しいのですが」

「けど、それだと僕が嫌だからね。もう少し耐えてみてよ──“太陽顕現ソル”!」

「暑い……もう一度、“光量調整ライトモデュレーション”! って変わらない!?」


 先ほどの眩しい光と異なり、ユウさんが生みだしたもう一つの太陽は光の量を調整しても耐えられません。

 考えるに、光そのものは防げても熱に関しては防げていないのでしょう。
 すぐに熱に関する耐性を付与魔法で付け、強化魔法でそれを強めました。

 そうした策を講じて、どうにか耐えられるようになりましたが……少しずつ、熱量は増大していきます。


「これが消える前に僕を倒せたら、クラーレちゃんの勝ち。もし耐えられなかったら僕の勝ちってことで……どうかな?」

「……分かりました。もともと、全力でないのであれば本来負けていたのはわたしです。焼け死ぬ前に勝ちます!」


 付与魔法、強化魔法から使えるものを全部唱えていきます。
 全能力値が向上し、それ以外の部分も強化されました。

 具体的には思考能力や命中率、武器の射程距離などですね。
 メルが教えてくれた魔法はここにもありますので、それなりに戦えるでしょう。


「……あ、あれ? クラーレちゃん、少し強くなりすぎてないかな? 師匠、少しぐらい僕の能力を解放しても……ダメ? いやいや視てよアレ、絶対強いじゃん!」

「メルは……なんと言っていますか?」

「うぅ、スキルは良いだって。能力値の制限が無かったら、もっと良い戦いになったかもしれないのに…………ん? 何そのルール、言えばいいの? えっと、太陽を消せたら勝敗に関係なくご褒美があるんだって」

「……無理ですよね、それ」


 おそらくユウさんの全力とは、どれだけわたしが魔法で体を強化しても、耐えられないものなのでしょう。

 アルカさんがメルと闘っている姿を見たことがありましたが、明らかにそのときの魔法の火力は普通のソレを超越していましたし。


「こうなったら、あとで師匠をとっちめてやるんだから──“陽光の祝福サンライズブレス”!」


 空に輝く太陽が一際明るさを増すと、日射しがユウさんの下へ降り注ぎます。
 名前からして、おそらく強化魔法……それもかなり高位のものです。


「行くよ──“速風雷攻クイッククラップ”、“光線刃レーザーブレード”」

「はい──“超功錬丹チョウコウレンタン”、“恒常治癒リジェネレート”」


 ユウさんは攻撃系の武技を、わたしは強化の底上げと継続的な治癒を施して再び接近戦に入りました。

 ユウさんの剣を棒の長さを調整しながら捌き、時折自分の体を用いて攻防を繰り広げていくと、少しずつ違和感を覚えます。


「暑い……それに、ユウさんの動きも少しずつ良くなっていますね? 調整しているとかではなく、文字通り強化される形で」

「その通り。太陽が近ければ近いほど、僕の強化魔法は効果を発揮する。ゲームオーバー直前には、僕は最強になるってこと」


 それでも師匠には勝てないけど、と苦笑するユウさんですが……今は笑えません。
 身を以って知ろうとしているからです、その及ばぬと語る力の恐ろしさを。

 しかしそれでも、力を抑制された状態。
 全力で戦っていたら、もう秒と掛からずに負けていましたね。

 魔法で防御した状態で、少しずつ太陽の下からユウさんを遠ざけます。
 訝しんでいる様子ですが、どうやら真下に居なくても効果は発揮するようで……そのままわたしは太陽の下へ追い詰められました。


「何か考えがあるのかな?」

「……メルは言ったんですよね、太陽を消せばご褒美があると?」

「でも、無理だって……」

「ユウさんが強い以上、もっとも欲しかったものは諦めます。ですが、ご褒美だけはなんとしても手に入れなければなりません──なので、わたしは!!」


 ユウさんから距離を取り、籠められる限界まで脚に力を注ぎ──跳躍。
 結果、太陽へ近づくため、暑さというレベルでは測れない熱量がわたしを襲います。

 それでも、この太陽はユウさんの魔力でできた人工のもの……そう自身に強く念じて耐え抜き、魔法を発動させます。


「──“魔力雲散マナジャマー”!!」



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