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山田 武

偽善者と橙色の交流記 その05

連続更新です(10/12)
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「Foooooo!」

「…………センセー」

「これは……どうしようもないね」


 失礼な奴らはさておき、俺はクモ男気分で舞台……というか部屋を縦横無尽に移動しながらハイテンションになっていた。

 瞳が色を変えない程度の感情に調整する技術も、『侵蝕』の制御過程で得ている。
 そんなこんなで、俺は『俺』のままアメコミみたいなノリで遊んでいた。


「ヘイヘーイ、どうだいオイラの軌道は! 止・め・ら・れ・る・か・な~?」

「……ウザーい」

「……いいかい、ライカ。これも修業だよ。たとえどれだけ怒りを覚えても、それを溜めこんで思考は冷静に保つんだ。知性の高い魔粉が居るんだ、感情を昂らせて隙を狙うようなヤツも現れるかもしれないよ」

「リアー、手ー」


 いつの間にかリアは、装華である槍を握り締めていた……まあ、鞭じゃないってことはそれぐらいの平常心はあるみたいだ。

 毎度のことながら、そこまで俺の発言は反感を買うのだろうか?
 ちょっと一人称を変えただけだし、一言一句丁寧に言っただけなのにな。


「……ゴホン。それはともかく、実際にメルスがやっていることは凄いんだよ。魔力でできた糸を張り巡らせ、そこを自在に歩くことで死角を突く。“遊歩ノ靴フリーウォーク”そのものは、ただ足を着ける場所を歩くだけの魔術だよ」


 そう、クモ男と言えば糸だけではなく壁などに張り付く機動性である。
 超感覚なんかは身体強化が該当するし、魔法版クモ男に今はなれているだろう。


「Yeahhhhhhhhhh! さぁライカ、お前さんの装華で魔術を使え! 俺はそれを超えることで、その先へイケる!!」

「──“刃雷ジンライ”」

「Foo……もう、面倒臭いな。よっし、楽しむとしようか!」


 魔術“伝導宣糸イメージライン”によって、掌や指先から糸を放つことができる今の俺。
 それを天井や壁に糸を張り巡らせ、そこを足場にして“遊歩ノ靴”で縦横無尽に跳ぶ。

 ライカの『勇者』としての力は、それらをすべて断ち切る。
 剣と盾は花弁となり、雪のように舞い散ると糸に触れていく。

 そして、魔力によって強度を増していた網のような糸を切り刻む。
 すべてに装華と同じ硬度が与えられた花弁は、それを容易くこなした。

 雷の魔術ということで、切れた残糸や繋がる線を通じて高電圧が俺に迫る。
 糸を自分で断ち切り、別の糸を繋げ電流を逸らすことで最悪の結果を防いでいく。


「そう、それだよライカ! オイラはただ、君の真剣な姿を見たかった! もっとだ、君はもっと力を出せる!」

「──ッ!」

「いいねぇ、最ッ高だ!」


 接続、分離、生成、誘導……何度も何度もそれを繰り返し、無数の雷魔術を避ける。
 省エネな魔術だし、俺は一つとして攻撃魔術は使ってないのであまり消費していない。

 しかしながら、やはり魔力は消費するのでそろそろ決着をつけておきたい。
 クモ男ごっこも楽しいには楽しいが、やるにも限界があるからな。


「そろそろ見切ったぞ、その動き!」

「やれるものならー……やってみろー!」

「おっ、いいノリじゃねぇか! ははっ、改めてお勉強だ。俺が使っている魔術は全部でいくつだ?」

「そんなの……っ!?」


 身体強化、思考強化、糸生成、自在移動。
 ライカが知覚していたのはこれぐらいだろう……一つ、忘れているよな。


「来い──“斬ノ理オリジンソード”!」

「術式を……書き換えていた!?」

「違う違う。ずっと在った、ただ気づいていなかっただけ。雷魔術で使わなかったからこそ、忘れていただろう?」


 ライカの首筋に現れた、魔力の剣。
 最初から遠隔操作が可能だったそれを突き付け、降伏を……なんて終わりにはしない。


「じゃあ、勝者のご褒美。そして敗者への罰ゲームを実行しまーす」

「……えっ?」

「ああ、別にイケないことをするわけじゃないから安心しろよ。やることはシンプル──ちょっと観て・・視させて・・・・もらうだけ」

「──ッ!?」


 するすると掌から糸を伸ばす。
 その色がこれまでの無色と異なり、妖しい色をしていればだいたい察しが付くだろう。

 リアの方に懇願の視線を向けたが、彼女が知る関係性と現実は異なっている。
 彼女はただ額を手で覆い、横目でライカに向けて憐憫の視線を向けるだけ。


「とりあえず、自由時間は長めにするよ」

「──というわけで、誰も助けには来ないからな……グッフッフッフ。さてさて、ここから助かる方法はただ一つだけ、俺の契約者リアに全面協力すること。まあ、それとは別にやるんだけどな」

「ふ、ふざけ……もごっ」

「後半のお前は最高だった。もともと同類とまではいかずとも、俺も相手が取り繕っているかぐらいは理解できるようになったんだ。そして、お前はその仮面を脱いで戦ってくれた……嗚呼、想いは伝わるものだな」


 ライカの俺を見る目は、どんどん蔑みに満ちたものになっていく。
 いろんな意味で『ご褒美』になるが、別に被虐体質でもないのでそれは無視。

 糸が紡ぐのは、物質同士の結び付きだけではない……“伝導宣糸”という術式名が示すように、イメージを紡ぐ糸なのだ。

 なので、やり方を工夫すれば──


「まずは一方通行。リアが信じたライカを信じて、いざ投入っと」


 流し込みたい情報を、的確にイメージという形で送り込むことができるわけだ。



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