AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とかぐや姫 その22
少女にとっての終幕、それは記憶を消されたときでした。
少女──『かぐや』は死に、『輝夜』となるための処置を受ける……はずでした。
偉大なる女神様は、少女がただ犠牲になることを見逃がしませんでした。
月に到達する前、『宙艦』と呼ばれる巨大な『超越種』の縄張りに入る直前で少女を助けだし……告げます。
──貴女の命、私が預かるわ。だから安心してほしい、誰にも奪わせない。貴女にとって好き終わり方を、私がいっしょに探してあげる。だから、もう想いを隠すのは……止めましょう。
少女に答える意思はありません。
ですが少女の遺志は受け継がれ、物語の世界は過去を閉ざしました。
いつか現われるであろう、誰もが救われる未来の紡ぎ手を待つために。
◆ □ ◆ □ ◆
雲よりもはるか上、人々の生活の灯が届かない場所まで飛んできた。
俺たちを照らすのは星々の輝きのみ、そんな場所で二人っきりである。
「──と、ここでいいかな。ずっとこのまま飛ぶことはできる?」
「可能じゃな……じゃが、『かぐや』にはちと難しかろう。できぬ、と申した場合はどうしていたのじゃ?」
「一つ、足場を用意する。二つ、やっぱり下に降りる。三つ……いや、これで終わりか」
少し目を逸らして言い終えたのだが、やはり最後を訊かれていたのだろう。
なんだかニマニマとした笑みを、その端整な顔立ちで浮かべてきた。
「のう、三つ目は……三つ目はいったいどうなっているのじゃ?」
「……俺が支えるって、何ッ!?」
「ほうほう、ではさっそくやってもらおう。実は維持できると言っても、精神的に辛くてのう……ああ、『かぐや』の負担も考えれば三つ目の案に乗っておくべきじゃ!」
「……はいはい、分かりましたよ」
近づいてきた『輝夜』姫を抱え上げ、空の上で滞空を続ける。
背丈は小柄な少女のそれなので、身体強化があれば特に気にならずに抱えられた。
「──ッ! こ、この状況で戻らないでくださいよ! ……ノ、ノゾム様!?」
「……分かっているけど、もともと主導権は『かぐや』様にあったはずだよね?」
「それは……あまり強引なことはしたくないですので、本当に必要な時以外は使っていないからです。で、ですので、決して嫌というわけでは……」
「えっと……あ、ありがとうございます」
本音をぶつけやすい『輝夜』姫と違って、『かぐや』姫はなんというか……初々しい感じがして反応に困る。
なのでしばらくの間、見つめ合うことに。
その間も呪いが働くのだが、俺には素晴らしき[不明]のスキル(未知適応)がある。
一度受けたからだろうか、すでに先ほど感じた高嶺の花のように思える感覚は消えた。
現在感じているのは、俺が見て感じた素直な感想だけ……つまり──
「うん、素敵だ」
「~~~~~ッ!?」
「ああ、悪い。思考が纏まっていないから、つい本音がな」
「ほ、ほほ、本音……!?」
今は何を言っても、失敗しそうだ。
とりあえず準備のために、眷属に連絡して制限の解除をしてもらおう。
俺も『かぐや』姫も、時間が掛かりそうなわけだし……ちょっとした演出をして、気を紛らわせておこう。
「魔法を使うよ──“幻光花火”」
「これは……綺麗ですね」
「あと数発ぐらいやったら、試したいことを実行するから。まあ、解けたかどうかは俺には分からないんだけど」
「ふふっ、『輝夜』が教えてくれますので、問題ありません。どんなことであろうと、受け入れましょう……やってください」
花火の打ち上げが終わり、いよいよ準備が整った。
とは言っても……成功するかどうか半信半疑だし、失敗する可能性がある。
まあ、最悪魔導を使えば解決だ。
できるだけ正攻法でやりたいが、それ以上に彼女の呪いを払ってやりたい。
「一瞬で済む方法と、時間を掛けてやる方法の二種類があるんだが……どっちがいい?」
「では、ゆっくりと時間を掛けて行う方を。いい思い出にしたいですので」
「失敗するかもしれないのにか……まあ、いいけど。じゃあ、やってみますか。まずは一つ目──“月光の祝福”」
月から光が下りていき、『カグヤ』姫の全身を包んでいく。
本来の用途はただの強化、一発でやる場合は使わなかった魔法である。
「変化は?」
「……ありません」
「けどまあ、予想通り綺麗になったな。月の光を高めることで、月の民は力を増すみたいだ。じゃあ、次──“満月の息吹”」
「これも……ダメです」
先ほどの強化魔法を、満月のときにしか使えないという限定条件を加えることで性能を高められたのが“満月の息吹”だ。
しかし、これもまだ解呪には至らない。
困惑気味の『かぐや』姫だが……本命の魔法が、まだ残っている。
「じゃあ、最後の魔法を掛けようか。これがダメだったら……ちょっと不正な方法でも解呪するから、安心してくれ」
「……大丈夫ですよ。きっと、ノゾム様のこの魔法がなんとかしてくれます」
「やってみるよ──“月下美人”」
名が示す通りの魔法だ。
月の民も持っていた月に関する魔法、その中にはこれと似たものが存在していた。
効果は容姿を高めるという、祈念者が知ればネタ魔法とでも思われそうなもの。
だが、呪いによって手が届かないと思わせる美貌の持ち主に使えば……。
「二人とも、どうだ?」
「え、えっと……『輝夜』様?」
『うむ、少し借りるぞ』
何か直接言いたいことがあったらしい。
体を動かす人格は『かぐや』から『輝夜』へと切り替わり、パチリと目を開いた。
ややその目が潤んでいる気がするが……どういった意味か、それはまだ分からない。
「成功したのか、失敗したのか?」
「────成功じゃ、これは褒美じゃ。得と受け取っておけ」
そう言って『輝夜』姫は……俺の顔に近づき、そのまま唇を重ね合わせた。
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