AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とかぐや姫 その21
「終わりましたよ。カグヤ様、お怪我はありませんか?」
「はい、ノゾム様のお知り合いの方々が守ってくださいましたので」
『うぅむ……何者なのじゃ。正直、誰一人として勝てるイメージを持てなかったぞ』
地上へ降り立った俺を迎えてくれたのは、下で警護されていたカグヤ姫。
眷属たちはすでに撤収してもらっているので、この場に他の者はいない。
「そりゃあそうですよ。なんと言っても、私がいっしょに居る仲間ですから」
「……本当に、羨ましいです」
「羨ましい、ですか?」
小さく呟かれた台詞だったのだが、なぜかそれがスッと耳に入っていた。
きっと、必要なことなのだろう……そう思い、訊くことを選ぶ。
「ッ……! す、すみません! お聞かせするつもりはございませんでしたのに……」
「それは構いませんけど……できるなら、理由を教えてもらいたいですね」
「そ、それは……」
『──要するにじゃ、ノゾムとあの女子たちのような間柄を築きたいわけじゃな』
内心を隠そうとする『かぐや』だったが、それを知るもう一人の自分──『輝夜』がその心情をあっさりと伝えてきた。
どれだけ心を閉ざそうと、内側から漏れているのならばあっさりと瓦解するわけだ。
「か、『輝夜』!?」
『もういいじゃろうに。『かぐや』、そなたはよくぞここまで耐え抜いてきた。自身の思いを押しやり、生きていく必要もない……自由なんじゃよ、すでに』
物語としての『かぐや姫』とだいたい同じ生き方をしているのであれば、たしかに大変なことが多かっただろう。
最後には記憶の抹消をされる可能性もあったわけだし……それは『かぐや』という、彼女を殺すのと同じだ。
『あの女子たちの言っていたことを、少しは信じてはみぬか? まずは一歩、前に踏み出してみることじゃ。妾もその手伝い程度、間借りしてもらっている者としてやってみせようではないか』
どうやら、眷属が何か唆したらしい。
きっと、誰かのためになることなのでとやかく問い詰める必要は無いんだが……うん、それとは別に俺の心が凹むな。
まあ、それはともかく『かぐや』姫はその言葉で何か決意したらしい。
俺の方へ近づくと、俺と彼女とを隔てていた簾を──取り去った。
「…………」
「これが、私です。ただのかぐや、それ以外でもありません。ノゾム様……今まで顔を合わせることができず、申し訳ありません」
「…………」
「ですが、これにはわけが……あの、ノゾム様? ど、どうかされたのですか!?」
とっさに愛用していた並列行動スキルを発動し、思考を分けて目の前の光景を改めて認知する。
……先ほどまでメインを担当していた思考は、一瞬で使い物にならなくなっていた。
これまで隠されていたからこそのギャップが今、俺の演算領域すべてを奪っている。
もともとこの世界の人々は美形が多いのだが……月の民はとても色白で、少々冷めた印象を与えていた。
だが目の前の少女……カグヤ姫は、育ちの影響かそういったイメージを与えない。
それどころか、整った容姿と噛み合いとても綺麗だと感じる。
そう、綺麗なのだ。
まるで手の届かない、どれだけ欲そうと決して得ることのできない存在。
そんなことを、俺の思考はひたすら延々と感じているようだ。
「……なんていうか、凄く嬉しい。理由は分からないけど、見せてくれたってことはそれだけの価値を証明できたってことだろう? これまでやってきたことに意味があった……そう、思えるから」
『……『かぐや』よ、これはもう本音を言わねば届きそうにないぞ』
「かも、しれません。……ノゾム様、これまでに私の顔を見た者は、育ててくださったお爺様とお婆様を除き、皆がその姿を遠ざけてしまいました。『輝夜』によると、これは一種の呪いのようなものらしいのです」
呪い、その言葉は俺にとってクリティカルな話題だ。
その上位版とも呼べる呪縛によって、俺は無職かつ嫌われやすい人間になっているし。
「そうだったんだな……ちなみに、その呪いというのは?」
「──それは妾から話そう。月の民はもともと、この容姿じゃ。かつてはそういったことのために好まれていたらしい。それを拒み、抗った結果生まれたのが……この呪いじゃ」
「解き方とかは分かっているのか?」
「……満月の夜に何かをするらしい。妾はそれを外す必要が無かったゆえ、そのすべてを知る必要は無かった。じゃが、成人となれば自然と解呪をしていたらしい」
まあ、感動しているだけでは恋もへったくれもないからな。
方法は確立していて、解呪も月一回という条件以外は簡単なのかもしれない。
なんてことを考えていると、呪い云々に囚われていた思考が無事脱出し、その呪いに関する解呪方法をいくつか提案してくる。
……物凄くバカみたいだが、いかにもっぽいものが一つあり、俺はそれを試してみたいと強く思った。
「とりあえず、やってみよう。ちょうど今夜は満月の夜だし。そうだな……『輝夜』様、空は飛べる?」
「無理難題を申すな……じゃが、妾であれば容易いことよ」
「ならよかった。じゃあ、さっきまで俺が居た場所に行こう」
「……何か企んでいるようじゃが、ここは遭えて乗ってやろう──『子安貝』よ」
宝具の一つである『燕の子安貝』。
それに『輝夜』が何かを行うと──突如羽衣が彼女の身を包み、ふわりと浮かべる。
「では、行こうぞノゾム」
「ああ、やるだけやってみよう」
……時間を掛ければ掛けるほど、なぜかバカげたアイデアの信憑性が増していく。
当たったとしても、俺がこっ恥ずかしい思いをしなければならないんだよなー。
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