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山田 武

偽善者とかぐや姫 その17



 満月の夜、帝様は兵士たちに屋敷を囲ませました。
 少女を月の世界へ攫うであろう使徒たちを追い払うため、総力を結集させます。 

 月がもっとも高い位置まで昇ったとき、不思議なことが起きました。
 空を冷やかに照らす月の光が輝くと、次々と兵士たちが眠ってしまったのです。

 残されたのは一定以上の力を持っていた者たち、装備に頼らず研鑽を続けていた強者と呼ばれる者たちのみでした。

 帝様たちが残った兵士たちを纏め上げている間に、次の変化が起きます──月が輝く夜空から、シャンシャンと音が鳴り響き始めたのです。

 必然的に空を見上げた彼らが見たのは、使徒と呼ぶに相応しい行列でした。
 その姿は帝様たちが見たことのないモノ、別世界の存在と認識せざるを得ません。

 空から舞い降りた使者たちは、地表近くに漂うと……スッと指を差します。
 その先には少女が立っており、彼女はただジッと使者たちを見ていました。

 ──罪を洗い流せし月の姫よ、お迎えに上がりました。

 使徒たちは、そう少女に告げます。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 帝たちは大人しく帰った。
 一度目の来訪は視察ついでのものだったので、今回ちゃんと追い返すことに成功すればすべては解決する。

 だからだろうか、手紙のやり取りをしたいとか俺の世界の『竹取物語』っぽいことを言い出した……これを止めると面倒になりそうだったので、自由にさせた。

 やりたいなら『カグヤ』姫の方も返事を出すだろうし、いざというときのコネの確保ぐらいはさせておいた方が良いからな。


「……けどまあ、この先世界はどうなっていくんだろうか。俺が負けたら、魔本は再び振り出しに戻されるわけだし」

「そうなのか? では、ノゾムにはなんとしてもこの先に進んでもらわねば」

「そうだな……カグヤ様の文通を続けてもらうためにも、頑張ってみないと」

「……えっと、そちらはあまり気にされなくてもよいのですが」


 器用に精神を切り替えられるようになっている、二人の姫様。
 そんな二人と居られるのも、もう僅か……間もなく満月の夜を迎えるからだ。


「ノゾム様、本当にお独りで? 少し申し訳ない気はしますが……あのお方たちと共に挑むのであれば、きっと──」
『無理じゃろうな。地上の者がどれだけ集まろうと、戦力にはならぬじゃろう』

「とまあ、そういうこと。視た限り、十人ぐらいだと思うよ。なら、もっと俺が強くなって何百人分も戦えばいい」


 まあ、本番では眷属を呼ぶ予定だ。
 リラのときのように単独ならともかく、相手が集団となると苦戦するだろうし。

 正確には戦うのは俺独りの予定だ。
 眷属たちには戦闘ではなく護衛をしてもらうつもりでいる。


「そういえば二人とも、何か違和感とかはあるか? 出ていないもう一人の声も表面に出せるようにしたけど、何か欠陥があったときに困るから」

「そういったことは特には……『輝夜』とも私は、最初から心が通じておりましたし」
『妾も違和感はないぞ。魔力を消費しているようじゃが、妾の力があれば抑えることができる。気にせずともよい』


 彼女たちの精神を切り替えさせるより、主人格を『かぐや』姫に固定しておいた方がいいかな……ということで、魔道具を一つ製作して渡しておいた。

 その気になれば、アリィたちにやった方法で体を用意することもできたが……お爺さんとお婆さんが驚くからな。

 魔道具の効果はちょっと特殊な念話を使うだけのモノだが、それによって『輝夜』姫もまた、表に出ずとも会話を行えている。


「ノゾム様、もしも……『輝夜』の記憶通りに事が進んでしまうのであれば、それはとても危険な戦いのはず。なのにどうして、貴方様はそれでもなお挑もうと?」

「うーん……前に聞かれた時に答えたけど、俺はあっちの『輝夜』様の願いを叶えたいと思った。それが無くても、『かぐや』様が不憫だろう? だから、嫌がられてもやる」

『のう……あっちとはずいぶんな物臭だと思わぬか?』

「ノゾム様……」
『ああ、これは完全に聞いておらんな』


 何やら『輝夜』姫あっちが言っている気もするけれど、今は気にしないでおく。

 もともと記憶が上書きされる少女が得た、一時の思い出。
 それがまた狙われ、今度は決して戻らぬまでに消去されてしまう。

 偽善者である俺としては、この最大に偽善のし甲斐があるイベントを逃すわけにはいかないのだ。


「──替わるがよい。こほん、『かぐや』はしばらく使い物にならぬようじゃ。じゃから代わりに妾が物申す」

「ん、何かあったのか?」

「いやまあ、だいぶ申しておきたいことはあるのじゃが、今はこれだけでよい……まさかノゾム、お主は『カグヤ』のことを」

「そりゃあ好きですよ。もちろん、『輝夜』様のことも。だからこそ、幸せにはなってもらいたい……邪魔者は居なくなった方がいいとも、思っている」


 自己満足ではあるが、彼女たちには幸せになってもらいたいと考えている。
 それはどちらかの幸せではなく、二人が納得できるものであるのが好ましい。

 だからこそ──『かぐや姫は月に帰っていきました。お爺さんとお婆さんはそのことをひどく悲しみました』、なんて終わり方を俺は肯定したくはないのだ。


「……今はよかろう。じゃが、『かぐや』を悲しませる結果にはせぬように」

「分かっているよ。もちろん、『輝夜』のことも。俺独りで守るとは言い切れないから、いっしょに乗り越えよう。そのための力が、あるんだろう?」

「当然じゃ。もしここで保証もできぬのに守るとほざきおったら、『かぐや』のことを任せることなどできぬところじゃった」

「良かったよかった、正解を言えて」


 夕日がそろそろ沈み、時間帯は夜になる。
 そうしたら、月からの使者が来るはず……絶対に倒せないとか、そういうイベントキャラ扱いじゃなきゃいいけど。



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